第44回 「住」にまつわる話_たき火編
Lounge
2015年5月11日

第44回 「住」にまつわる話_たき火編

第44回 「住」にまつわる話_たき火編

冬の風物詩のひとつでもあった、晴れた空に立ち昇るひとすじの煙。最近では、落ち葉が燃える「たき火」の匂いを嗅ぐこともすっかり減り、誰もが知っている~垣根の垣根の曲がり角~♪というあのメロディさえ、あまり聴かれなくなってしまいました。

語り=吉田眞紀まとめ=戸川ふゆきPhoto by Jamandfix

炎が与えてくれるもの

都会ではまず地面がない、燃やせる広葉樹が少ない、環境問題や密集した住宅環境など安全面の問題と、さまざまな要因から「たき火」ができる環境そのものが、贅たくになってしまったのかもしれません。自治体によっては「許可を受けていないたき火は禁止」と条例で決まっている地区もあるようです。

都会というほどではないにしろ、気軽に「たき火」を楽しめる環境に住んでいない僕は、山の家を訪れると、ここぞとばかりに「たき火」をはじめます。そこらじゅうの小枝や枯れ木を集めて火を起こせば、気分はすっかり少年時代。あの薪が弾けるパチパチいう音と、ちょっと燻されるような煙の匂いは、なんとも懐かしい気分にさせてくれます。そして、生き物のようにゆらゆらと踊り揺らめく炎は、心に平安を与えてくれ、そのあまりの美しさに、僕は時間を忘れて炎に見入ってしまうわけです。もちろん「たき火」を囲んでゆったりと飲むお酒が、格別においしいことはいうまでもありません。

進化の面でいうと、人間と動物のちがいは「二足歩行をすること」、「道具を使いこなすこと」、そして「火を使うこと」なのだそうです。野生動物は火を恐れますが、人間は火を道具として使いこなします。人間は火の明るさを照明としてとりいれ、火の暖かさで暖をとり、火の熱を使って調理をします。そして、火を眺めることによって、深い安心感をも得るのです。
「たき火」をするたびに、僕は人間の本能の強さを実感し、自分のなかの原始的な部分がたしかに息づくのを感じます。

炎の美しさを楽しむ

家の周りでは、気軽に「たき火」を楽しめない環境になってしまいましたが、部屋のなかでキャンドルを灯せば、それだけでも心がやすらぎ、ゆったりと時間が過ごせます。欧米のように、キャンドルスタンドにいくつも火を灯せば雰囲気は最高ですが、それもなかなか難しい。もっとも手軽に炎の美しさを楽しむ方法は、そのまま火を灯せる容器入りのキャンドルではないでしょうか。「たき火」ほどの迫力は望めませんが、炎の美しさは充分楽しめます。
まずは暖かな火の色と、やさしく揺れる炎をじっくりと眺めてみてください。その美しさにきっと心を奪われ、次第に気分もゆったりとしてくるはずです。

最近では、缶のなかで安全に「たき火」ができる「たき火キット」なるものまでが、インターネットで販売されていると聞きます。日本中で「たき火」をしにくい環境になってはいますが、じつは愛好者は多いのかもしれませんね。
火を焚くと不思議と人が集まってきます。揺らめく炎を眺めながらお酒でも飲めば、リラックスして大いに話も弾むでしょう。
いずれにしても空気が乾燥するこの季節。火の始末と火傷には、くれぐれもご注意を。

           
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