三原康裕 第1回 ピープル・ツリー代表サフィア・ミニーさんを迎えて(1)
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2015年5月1日

三原康裕 第1回 ピープル・ツリー代表サフィア・ミニーさんを迎えて(1)

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(1)
新しい貿易のシステム「フェアトレード」

ファッションデザイナーの三原康裕さんが、社会的な活動によって世論を動かしている人びととの対談を通し、いま世界をより良い方向へ変えるためには具体的になにをすべきか、そして未来の“クリテリオン=基準”とはなにかを探る新連載「Criterion MIHARAYASUHIRO」。
第一回目となる今回は、1993年よりいち早く日本でフェアトレード商品を販売し、2009年春夏コレクションで三原さんとのコラボレーションも決定しているフェアトレードカンパニー「ピープル・ツリー」代表のサフィア・ミニーさんが登場。フェアトレードについて、そして貧困や環境、児童労働などの社会問題について3回にわたって語っていただいた。

写真=北原 薫まとめ=竹石安宏(シティライツ)

フェアトレードの中心は、人と環境

三原康裕 はじめまして、よろしくお願いいたします。

サフィア・ミニー こちらこそ、よろしくお願いします。

三原 では、まず基本的なことからお聞きしたいのですが、「フェアトレード」とはどんなシステムなのでしょうか?

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(1)<br><br>新しい貿易のシステム「フェアトレード」

インドのオーガニックコットンを栽培する小規模農家。農薬や化学肥料に頼らず、自然の力だけで栽培される。ピープル・ツリーでは衣料品の大部分に使用している。©People Tree

サフィア フェアトレードとは、簡単にいうと新しい貿易のシステムです。利益だけではなく、人と環境がシステムの中心となった貿易といえます。
貧困や人権、環境などの問題は援助団体などの寄付や尽力により、ここ50年で多少は改善されてきていますが、貧富の差はますます拡大しています。フェアトレードはそうした寄付ではなく、経済的に弱い立場の人びとの技術そのものを活かし、収入源が確保できるような仕組みを目指したものです。
たとえば発展途上国の農家の人たちは、素晴らしいオーガニックコットンの栽培技術を本来もっているのですが、買い手がコストを下げるために殺虫剤を使わせるなどして活かされていないのが現状なんです。とてももったいないことだと思います。

三原 サフィアさんは実際にそういった現地の現状をご覧になっていると思うんですが、まず変えるべきなのはどんな点だと思われましたか?

サフィア そうですね、まずはやはり人の意識だと思います。日本でも南北問題や環境問題への意識は高まっていますが、フェアトレードに関してはまだまだです。たとえばイギリスでは、国民全体の7割以上がフェアトレードの仕組みを理解しているといわれていますが、日本では1割にも満たないでしょう。

自分のためだけではなくもっとグローバルな視点を

三原 実際に日本の消費者がものの原産国や生産プロセスを気にしだしたのは、本当にごく最近だと思います。それも偽装問題に端を発する健康志向やエコロジーという観点からであり、まだフェアトレードまでは意識がいっていないでしょう。原産地の生産者にちゃんとお金が支払われているのかどうかは、我が身に降りかかる問題ではないからかもしれません。
それに比べ食害や地球温暖化などは、直接自分のこととして捉えやすいですからね。マスコミなどでフェアトレードが取り上げられても、それは標語的なとらえられ方であり、仕組みまで理解している人は少ないでしょう。そうした意識は日本でも変わりつつありますか?

サフィア 三原さんのおっしゃる通り、ロハス的な捉え方をされる健康食品などはある意味、自分のためのものでもありますからね。それはそれでけっして悪いことではないと思います。ただ、たとえ信用できるものであっても、その生産過程で環境に負荷をかけたり、組織的な搾取があったり、児童労働などが行われているとしたら、やはりそれは問題だと思うんです。ロハスのような考え方から入ってもいいと思うんですが、さらにもう一歩進んでグローバルな視点を日本ももつべきです。
日本は先進国のなかでも教育レベルが高く、社会的な基盤も整っているので、フェアトレードの分野でもリーダーシップをとるべきだと思います。国際協力の意識を高め、もっと顔の見える貿易をおし進めてほしいですね。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(1)<br><br>新しい貿易のシステム「フェアトレード」

ケニアにて障害をもつ人びとに仕事の機会を提供している団体。真鍮やシルバーのアクセサリーが作られており、ピープル・ツリーでも人気という。©Miki Alcalde / People Tree

三原 そもそもサフィアさんが、日本でフェアトレードの組織をはじめたキッカケはなんだったんですか?

サフィア 私は1989年までロンドンに住んでいたのですが、環境にいいオーガニック食品や古着などを買っていました。それにフェアトレード品も、食品がメインですが当時からロンドンにはあったんです。ところが日本では、私が買いたいものがほとんどなかったんですね。それで日本でも友達と一緒にヘタな日本語で情報を集めるようになり(笑)、現地へ買いつけに行ったり、作ってもらいに行ったりするようになって、チラシや通販カタログなどで販売をはじめたんです。

必然となるソーシャルビジネスという考え方

三原 当初は組織というより、個人として活動されていたんですね。サフィアさんをそこまで駆り立てた情熱というのは、どこから生まれたんですか?

サフィア 私は17歳からロンドンの出版社や広告業界で働いていたのですが、そこは消費主義や物質主義の権化のような世界で、意味がないと感じることに莫大なお金が使われているのに、若い頃から疑問をもっていました。そして22歳のときにバックパックで世界中を旅し、本を読んで勉強し、透明性のまったくない巨大企業から利益とともに生み出される人権問題や環境問題を知って、とても腹が立ったんです。だから、いまでも自分のお金はいい方向に使いたいと思っているし、信頼できない会社の商品は買いたくないですね。

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(1)<br><br>新しい貿易のシステム「フェアトレード」

三原 僕もときどき、人は経済や企業をどれだけ信用しているのかなと思うんです。たとえば以前は、有名デパートで売っているというだけで消費者が盲目的に商品を買っていましたが、いまはそんな信用も崩壊しているじゃないですか。
現在はさまざまな分野で、人びとが“商品”に対して不信を抱いている時代だと思うんです。
僕らも商品を作っている立場であり、企業はどうあるべきなのかを考える時期だと感じていますね。そしていまはデザイナーとしてファッションに携わっていますが、できる限りのことはしようと思っています。

“社会企業”という言葉を以前聞いたことがあったのですが、当時はたんなるスローガンにしか聞こえませんでした。ある程度ビジネスが成功した企業が、余裕があるからできる社会貢献だろうと。でも、サフィアさんのお話を聞いて、いまはそうではないと思いました。それはトレンドでもステイタスでもなく、企業にとっての必然になったと思います。“社会企業”という考え方について、サフィアさんはどう思われますか?

サフィア 日本にはまだ必然としては浸透していない考え方だと思いますが、大きなトレンドのひとつにはなっていると思います。ヨーロッパでは社会企業=ソーシャルビジネスを教える大学も増えており、経済的に成功したからこそ社会にペイバックするといった発想は逆に減ってきています。最初から社会の役に立ちたいという若い人たちは多くなっていますね。日本でもそういった傾向はあり、今後はそういう考えをもった若い人たちが企業を内側から変えていってくれればいいなと思います。

Profile
サフィア・ミニー

1964年イギリス生まれ。出版業界などで働きながら若い頃より人権・環境保護のNGO活動に参加。1990年に来日し、翌年にはNGO団体「グローバル・ヴィレッジ」を創立。1993年からフェアトレードを開始し、日本とロンドンにフェアトレード専門ブランド「ピープル・ツリー」を設立する。社会起業家として世界的な評価を得ており、現在も東京とロンドン、そしてフェアトレードを行うさまざまな国々を往復しながら多忙な日々を送っている。家族は夫のジェームズと息子のジェローム、娘のナタリー。

ピープル・ツリー
http://www.peopletree.co.jp

第1回 ピープル・ツリー代表 サフィア・ミニーさん(1)<br><br>新しい貿易のシステム「フェアトレード」

           
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