自然エネルギー財団|世界の英知を結集し、いよいよ始動
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2015年2月13日

自然エネルギー財団|世界の英知を結集し、いよいよ始動

孫正義氏創設 自然エネルギー財団

世界の英知を結集し、いよいよ始動

9月12日の朝、東京有楽町にある国際フォーラムB7では静かな熱気が渦巻いていた。
「twitter招待者はこちら」こんな看板も見える。広さ1400平方メートルの場内がひとでぎっしりだ。場内後方のその「twitter招待者」には若者の数がとにかく多い。ロック・コンサートでも、芸能人が出演するイベントでもない。「自然エネルギー」についてのカンファレンスだ。

文=吉村 栄一
写真=門井 朋

代表理事にはスウェーデンの元エネルギー庁長官を招聘

この日は、3.11の東日本大震災とそれにともなう東京電力福島第一原子力発電所の大事故により、日本における原発の是非と、原発に代わるエネルギーがあるのかという議論が沸騰していた今年4月に、ソフトバンクの孫正義社長が私財10億円を投じて設立すると発表した「自然エネルギー財団」の、お披露目のイベントだったのだ。
 3.11前は決して派手な話題とはならなかった自然エネルギーが、カリスマ的な経営者である孫社長の旗振りとはいえ、このような大観衆が詰めかけるような熱気溢れるイベントのテーマになったということは、やはり3.11で日本の行く末にかんする日本人の意識が大きく変わった証拠だろう。
そしてその立ち上げのイベントの参加者を主にtwitterで募ったというのも、まさにいまの日本だからこそのあり方だと思う。

この日のイベントはこの財団の創設者である孫正義設立者(ファウンダー)の基調講演、財団の理事長としてヘッドハンティングされた、自然エネルギーの先進国 スウェーデンの元エネルギー庁長官 トーマス・コバリエル代表理事、そして理事である末吉竹二郎(国連環境計画SEFI特別顧問)、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)、村沢義久(東京大学総長室アドバイザー)の各氏による、それぞれの専門分野からの財団での取り組みを紹介するという構成。
さらに環境大臣をはじめとする政界、世界各国の自然エネルギーの専門家や担当者による講演や取り組みの紹介という、6時間以上におよぶ充実したイベントとなった。

このイベントのハイライトは、やはり孫ファウンダーの基調講演だろう。講演は、「電気、電力にかんしてはそれまでまったくの門外漢だったが、3.11でそう言っていられなくなった」とはじまった。脱原発のための具体的な提言をし、行動を起こすためにこの自然エネルギー財団を設立したと明かされる。
日本の電力事業の問題点を挙げ、経済成長を損なわない脱原発のためになにが必要かを考えたという孫ファウンダーは、この基調講演で、自然エネルギー財団からの3つの提言をおこなった。

孫正義氏創設 自然エネルギー財団

世界の英知を結集し、いよいよ始動

東アジアの電力網をつなぐ“スーパーグリッド”構想

1)原発のミニマム化

世界最大の地震国である日本で、これだけの原発が稼働しているというのは尋常なことではない。地震リスクの高い原発から廃炉を積極的に進め、その代替エネルギーとして自然エネルギーを選択する。

2)電力取引の自由化

自然エネルギーの普及を阻んでいる壁の最大のものはせっかく作った自然エネルギーによる電力が自由市場に出て行かないこと。発送電の分離や自然エネルギーによる電力の買い取り制度の普及により、自然エネルギーに価格競争力をつける。いまは高価でも、20年後に安全で安いエネルギーを使うために自然エネルギーの普及拡大を図る。これは結果的に日本のエネルギーの自給率を高めることにもなり、国家の安全保障にも有利に働く。

3)送電インフラの強化

日本全体の送電インフラの整備と強化で、自然の状況によって発電量が変わる自然エネルギーの弱点を、地域ごとの電力融通という手段で緩和する。これをジャパン・スーパーグリッド構想とするが、2兆円程度の予算で実現可能。そしてさらに将来的にこの送電インフラを東アジア全体に拡大する。東アジアスーパーグリッド構想とし、日本国内のみならず東アジア全体で安価で安定した電力を融通する。世界ではこれまでエネルギーを求めての戦争が多くおこなわれてきたが、この構想は必ずアジア全域の平和のためにも役に立つ。

孫ファウンダーによる提言のうち(3)はこの日がはじめての発表で、とても大胆なものだ。一聴すると実現の可能性は遠く見えるが、すでに日本と世界をつなぐ海底には膨大な通信ケーブルが張り巡らされており、そこに電力ケーブルを足すことに技術的な課題は少ないとのことだ。これは孫ファウンダーがみずから口にしていたとおり、通信業界の専門家ならではの発想だろう。技術よりも政治的な課題は大きいだろうが、すでに存在する欧州における国際電力網や、ロシア~EUと東アジアを結ぶガス・パイプライン網も現実の案件となってきたいま、夢物語では決してない。

東アジアスーパーグリッド構想がもたらすもの

この東アジアスーパーグリッド構想の下支えとなる可能性の話をしてくれたのが、ゲストであるモンゴルの投資会社「ニューコム社」のツェレンブンツァグ・ボールドバター会長だ。モンゴルの自然エネルギー開発のポテンシャルの高さを紹介し、なかでもゴビ砂漠全体に太陽光発電所を設置すれば、世界の電力需要の6割をまかなえてしまうという話は驚異的だった。その大規模なエネルギー源と日本、東アジア全域がスーパーグリッドで結ばれれば、東アジア全体で脱原発が一気にすすむだろうし、巨大なインフラ整備のための経済の成長も巨大なものになるだろう。

このような巨大な可能性の話と、自然エネルギー財団の各理事と各国からのゲストから、テクノロジーの進化によるさらなる省エネルギーの可能性、アイデア、そして巨大スーパーグリッドと併行しておこなわれるべきスマートグリッド、スモールグリッド、環境問題がつぎつぎと語られていく。環境省からは大臣と政務官も出席し、日本のエネルギー政策のパラダイムシフトの重要性と、そして放射能汚染地域の除染の問題も語られた。
3.11後、はじめて語られる大きな夢と希望の話に、地に足のついた堅実な議論がベスト・ミックスされた内容の深い、そして濃いイベントとなった。
提言の現実化にはまだまだたくさんのハードルがあり、それを乗り越えていくのは容易ではないと、この日出席した人びとはみなわかっている。わかってはいるが、そこは前を向いて進んでいきたい。イベント終了後の大きな拍手には、そんな人びとの思いが込められているようだった。

           
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