【連載】柴内晶子の「記憶の色」|紫錦唐松を買った日
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2026年7月31日

【連載】柴内晶子の「記憶の色」|紫錦唐松を買った日

 

LOUNGE|【連載】柴内晶子の「記憶の色」

 
まだ伴侶動物という考え方が日本で一般的に使われるようになる以前より、人生を彩り豊かにしてくれる存在として動物たちと接してきた筆者。赤坂動物病院の院長として、1人の人間として、幼少から今に至る優しい色彩のエッセイです。
 

Text & Photograph by SHIBANAI AKiko

シキンカラマツ。花言葉は「さりげない優しさ」

 
何かを感じたのか、朝から猫が甘えてきた。オレンジ色の時々機嫌の悪い、愛撫誘発性攻撃性(皆様のお手許の猫ちゃんにもいると思いますが、撫でていると急に甘噛みし始めてしまうようなタイプ)の猫が完全な甘えモードでやってくるとつい抱っこしてしまうし、なでなでして可愛がってしまう。赤ちゃん抱っこをするとかなり大人しく脱力して身を任せてくれるので、それがたまらなく可愛く、愛情ホルモンが溢れる気持ちがする。その猫はものすごくおしゃべりで作業中のデスクの上に座り込んでいるときも何かずっと鳴いている。
 
ただ、その日は私自身の体調検査で出かけるため、早朝から色々記入書類など準備もあり、忙しくしていた。検査で何かみつかったら…と心に石ころひとつくらいの重みを感じて出かけるところだった。結果、検査は数時間で終了し、その場で結果を教えてもらえる医院だったのでいろいろお話しを伺って異常なし!という言葉に心地よく帰途についた。
 
私は花が大好きだ。道端に生えている名もない(かもしれない)草花の名前もすごく知りたくなってしまう。花の名前を教えてくれるアプリをスマホにいれて重宝している。家のキッチンに花を飾る場所があり、そこの花がすこし減ったなと思っていたので近隣の花屋さんに寄った。一、二輪あれば良いだけだが、新たな花があると気持ちが清々しい。そこは大きなチェーン展開の花屋さんだったが、時折珍しい花がある。最近の花々はどんどん形を変え、すこし心配になるほど様々な品種改良がなされている。もともと一重の花びらのものが八重になったり、一輪の大きさすらも小さくなったり大きくなったりする。
 
今日初めて出会ったのは、どうやらもともとナデシコだった花からの派生のダイアンサスという赤とピンクと淡紅色の八重の小さな花と、紫錦唐松(しきんからまつ)という花だ。最近の品種改良で大きく変化した花も、およそ元の花がどの花か、よく見るとわかるものだ。紫錦唐松は紫の鮮やかなとてもかわいい花なので、作出されたものかと一瞬思ったが、元になる花が「木の花」であることはわかったものの、なかなか元の花がわからない。
 
いよいよ店員さんに伺うと、キンポウゲ科であると知る。さらに調べると幾つかの近隣の県の山野に自生しているものらしい。改良の末ではないのに本当に愛らしい姿と色に強く惹かれ、キッチンに活けることにした。自生そのままの姿で紫の萼片(がくへん)(はなびらのようにみえるが実は萼)は丸く水玉のようにまろく、やがて開くと中から鮮やかな黄色が覗く。とても花らしい可愛い花だ。このような花に山野の中で出会ったら感激することだろう。
 
今日の出会いで気持ちが高揚し、元気がでた。多くの人々は花がお好きだと思うが、花の姿や香りやひいては「気配」はその空間の人に英気を養わせるように思う。花は心の栄養だ。素敵な花と出会うと心躍る。しかし、猫はこういうチラチラした花を食べたがるので注意注意。
 
※キンポウゲは馬の足型に似たといわれる古くからある黄色い花 最近よく花屋さんでみられる派生種はラナンキュラスなど。もちろん私は専門家ではなくただの花好きなので情報に齟齬がある可能性もゼロではないかと思います。
 
 
 
柴内晶子(しばない・あきこ)
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。
 
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