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2026年8月14日
【連載】柴内晶子の「記憶の色」|ブルーベリーを摘む季節
LOUNGE|【連載】柴内晶子の「記憶の色」
まだ伴侶動物という考え方が日本で一般的に使われるようになる以前より、人生を彩り豊かにしてくれる存在として動物たちと接してきた筆者。赤坂動物病院の院長として、1人の人間として、幼少から今に至る優しい色彩のエッセイです。
Text & Photograph by SHIBANAI AKiko
ブルーベリーが熟す頃
幸いなことに、小さな土の場所にブルーベリーの木が元気に育っている。
毎年夏に実が熟すとブルーベリーの実を摘む恩恵にあずかれる。最初は可愛い白い花、実を結ぶと緑色の丸い実が出てくる。緑から薄紫へ変化し、太陽をあびるとゆっくり熟し、濃い紫色になる。鳥に食べられなければ私が摘む。沢山摘めた年はブルーベリージャムにすることが多い。東京がブルーベリーの一番の収穫量を誇るらしいというニュースを見た。
はじめてブルーベリー摘みができる農園に行ったのはかなり前。富良野だった。北海道の夏もすごく暑くて周囲に建物もあまりないので日陰もなく、陽射しもダイレクトで暑かった記憶がある。富良野のブルーベリーは大きくて私の小さな土スペースから生えるブルーベリーの実の比較ではない。そのような時期、真夏のお盆の時期には東京は深閑と静かになる。人が減るためか仕事がお休みのところが多いためか、街の気配がすごく静かになる。電車も日とはまばらだ。ホテルや複合施設だけはすごく混んでいる。
この時期になると空をみあげてしまう。母は1935年生まれの戦中派、10歳で敗戦を迎えた。今も90歳で元気にしてくれていることは心から感謝である。
近頃になって、母の色々な体験の中で戦争中の夢を見ることがあるということを聞いた。今までも胸が潰れるようなつらい話は聞いてきたが、甲子園球場のサイレンや、静かな空にとどろく飛行機の音を聞くと思い出し、3ヵ月に1回くらいは夢を見ていたそうだ。
B29が飛来し、防空頭巾をつけた女性達がバケツリレーで火事の消火をしていると機銃掃射で打たれバタバタと倒れる映像。そして昔の日本家屋は窓が上半分くらいでそんなに周囲に高い建物のもなかったので、飛行機の操縦席の人と目が合うような感じだったそうだ。そういうとき、部屋の奥に逃げると相手に見えてしまい撃たれるので、窓の真下に平たくなって隠れて難を逃れていたそうだ。
子ども部屋の地下には大きな防空壕のような穴が掘ってあり、畳を返して避難したそうだ。その時のひんやりした土の感触と匂いを今も忘れないと話していた。
動物の事では彼女がすでにフォーブスジャパンの記事にしたためているが、当時は日本には何も物資がなく、食べ物も着る物もなく、共に暮らす伴侶動物が病気になってもそれを見てくれる獣医師はほぼ男性で徴兵されており、見つける事は困難だった。病気になっても見殺しにするしかなかった。
母はその時獣医師になることを決意したそうだ。母の家には沢山の動物がいた。その中で特に大型犬のアルとハッピーとはある時突然の別れがやってきた。「供出」という事を皆さんご存知だろうか?当時は一般家庭の動物達も戦地でお役に立つために、とある日突然連れて行かれたのだ。私も後に歴史を調べたところ、日本全国様々なところで一般家庭からの犬、猫、うさぎなどの供出が行われていた事を知った。
人間を信頼して日々を暮らしてきた家族としてのアルとハッピーも大人しく軍の車に乗せられ、後を追う、まだ子どもだった母の呼びかけに一瞥し永遠の別れとなったのだ。悲しげにゆれる2頭の尾を子供心に強く覚えていると言っていた。
訓練を受けていない犬達が軍用犬として生きたとは思いにくい。食糧や衣料として「お役にたった」のかも知れない。
お盆の静かな深閑東京の陽射しの中で今年は台風が来る。空は一瞬にかき曇り、暗い空が一面に広がる。母の夢で広がる暗い空にはどこの飛行機かわからない大きな黒い飛行機やはっきりと見たB29の姿などが今も現れるらしい。ブルーベリーを今年は台風の予兆の強い風のなかで収穫した。毎年この時期には思い出してブルーベリーを摘むのだ。
柴内晶子(しばない・あきこ)
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。
赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。