ニューコレクション、そして神秘の夜会への誘い|Berluti
僕がBerlutiに心躍らせるワケ
ニューコレクション、そして神秘の夜会への誘い
1月。パリコレクションの会期中に、「Berluti(ベルルッティ)」は「クラブ スワン ディナー」というスペシャルイベントを開催した。いわく、「グルメの食事と男性のエレガンスの融合」。かつて、オルガ・ベルルッティ女史がクリヨンやリッツ、ル ムーリスといった老舗の高級ホテルのプライベートルームで開催していたという神秘の夜会が、この夜、復活した。
Text by SUKEZANE TomokiFilmed by OGURA Yu(ADC)Movie produced by MOVMASTER
シャツが1枚もないランウェイに衝撃
1月23日。僕はパリ装飾芸術美術館で午後9時から開催されるクラブ スワン ディナーへと出掛けた。ディナーの前には、2015-2016年秋冬コレクションのランウェイショーがある。クラブ スワン ディナーのドレスコードは「タキシード」。でも僕は、ベルルッティのスリーピースで出掛けた。白シャツにネイビーのボウタイを合わせ、タキシードでこそないが、それなりに気を遣っているのだという姿勢を見せた。
僕には以前、カンヌ国際映画祭へ出掛けた時に、タキシードを着ていなかったがために会場へ入れなかったという苦い経験がある。それをおもい出しはしたが、ディナーはコレクション会場に集まった人たちの中のほんの一部だけが参加する。ショーを見にきた人が全員タキシードというならともかく、ほとんどの人が流行を気遣ったおしゃれな格好で来ているというなかに、タキシード姿で入って浮くのは照れくさいし嫌だった。カンヌでは、どれだけ素敵なスーツを着ていてもダサいタキシードにかなわないという「ドレスコード」の厳しさを味わった。同時にボウタイと白いシャツの重要性も学んだ。でも、今夜はベルルッティのパーティーなのだから、ベルルッティを着ているのに入れないことはないはず。……と踏んで、僕はあえてドレスコードを無視した。
ベルルッティのコレクションは、ジャージーを中心にラグジュアリーな世界観が展開されていた。一番の驚きはシャツがなかったこと。すべてのトップスはニットで、ジャケット、スーツ、コートと、どのインナーにもニットが合わせられていたのがモダンだった。個人的にはルック2番のコーディネートが気に入った。コート、インナー、パンツ、ブーツ、グローブの絶妙な組合せが生みだすシルエットが素晴らしい。微妙な色のコーディネートセンスも抜群である。他にはルック34のコートにも興味がわいた。シューズは新しいシグネチャー・シューズの「Alessio(アレッシオ)」がメインで使われていた。ショー会場のエントランスには、白い風船で釣られたアレッシオがディスプレイされ、実にファンタジックで和やかな世界観を醸し出していた。
神秘の夜会「クラブ スワン ディナー」へ
Berluti流のユーモアに満ちたおもてなし
コレクション終了後は、ショー会場の奥に特設されたクラブ スワン ディナーへ。心配していたドレスコードは難なくパス。まわりを見ると、タキシードを着ている人間の方が少ないくらいであった。このディナーのゲストは100名。その40%くらいがジャーナリストだったが、僕同様、コレクション会場にキメキメのタキシード姿で入るのはちょっと、とおもった人が多かったのだとおもう。あるいはもっと確信犯的に、「ドレスダウンでいくぜ!」と考えたかもしれない。
さて、クラブ スワン ディナーの会場であるが、まず入口で靴を脱いで預ける。そして、ソックス姿のまま、テーブルへ。テーブルにはシューケア・ボックスが置かれていて、一同、まずそれに驚愕。靴墨や靴用クリームに見える缶の中には、ソースやペースト、ハーブやスパイスが入っていて、それはパンに付けて食べたり、シェフのティエリー・マルクスによる料理に使われたりするという仕掛けだ。コスプレならぬこの「シチュエーション・プレイ」は大いに楽しめた。食事のコースが終わると、ギャルソンがうやうやしく、シルバーのトレーを各ゲストのところに持ってくる。トレーの上には、入口で預けた靴がきれいに磨かれて鎮座。その横にはリネンクロスなど、なにやらシューケアグッズが置かれている。その後、ゲストは各自、シャンパーニュ(ちなみにドン ペリニオン)に湿らせたクロスで自分の靴の仕上げ磨きをする。そういう趣向であった。日常ではあり得ない、ユーモアセンス溢れるおもてなし。マダム・オルガのユニークな感覚に脱帽であった。
最後に、会場で見かけたスーパーゲストのブライアン・フェリーのダークスーツ姿にも脱帽。一切の気負いがない、ひたすらシンプルな美しさにため息が出たということを言い添えておく。さすがなのでございました。
僕が120周年を迎えたアトリエで見たもの
職人の技が息づくアトリエに魅了されたひととき
僕が「ベルルッティ」というブランドを知ったのは、青山にショップができたときだった。つまり、もう20年近く前のことだ。このショップのオープンニングパーティーにはマダム・オルガも来日。軽く挨拶をしたのを覚えている。その頃のベルルッティは靴専門で、いまのように服や鞄などはなかった。あれ、鞄はちょっとあったかな? オープンしてすぐ、1足購入。買ってすぐ、その場で職人さんにパティーヌをしてもらった。OPENERSの読者には説明無用だとおもうが、パティーヌとは、ベルルッティが開発した染めの手法。カラリストと呼ばれる職人が、何色もの染色液を使い、他にふたつとない、唯一無二のカラーに仕上げてくれるというものだ。
今回のショートフィルム『Lost in Paris』にも職人たちの見事なパティーヌシーンが写っているが、まさにあの雰囲気を、青山のショップで目の当たりにした。さまざまな染色液を重ねて、革にニュアンスを加えていく職人の技に目を見張った。いや、その姿は職人というよりも、アーティストと呼ぶのがふさわしいとおもった。パティーヌの技術は靴の色に微妙な変化を与え、自由自在に陰影を付けていく。そんなテクニックがあることを、僕はあの夜、はじめて知った。
今回パリで訪問したアトリエでは、パティーヌの技だけでなく、木型の作成からアッパーの縫い合わせまで、ベルルッティの靴がどのようにしてできあがるのか、その工程をそれぞれの専門の職人たちの前で見ることができた。木型の作成には、豪快にナイフを使う。その長い刃を魔法のように操り、繊細な木型に削り上げていくプロセスはまさしく職人技。見ていてほれぼれした。僕も調子に乗ってナイフを使わせて貰ったが、狙った部分に刃が入らず、関係ない部分を削ってしまった。当たり前のことだが、素人がうかつに手を出せるようなものではなかった。
「職人」という生き方には、何か人を魅了するものがある。器用な手仕事の凄さはもちろんのこと、その道ひとすじの集中力には感心するばかりだ。華やかなファッション業界の裏には、普段まったく脚光を浴びることのない彼ら、彼女らの日々の精進がある。自らの技を高めるために腕を磨き続ける彼らの姿は、時折後光が差しているように見えた。
靴、服ともにフルオーダーメイドができる唯一のメゾン
さて、ベルルッティはいまや、芸術品のような靴を作るシューメイカーであるだけでなく、アーティスティック・ディレクターのアレッサンドロ・サルトリの元、トータルにコレクションを展開するファッションブランドである。しかも、靴とウエアの両方におけるフルオーダーメイドが可能なメゾンは、現在ベルルッティだけだ。サルトリはベルルッティに新たな息吹を吹き込んだが、そのベースには常に、マダム・オルガが築いてきた伝統的なシューメイカーとしてのヘリテージが見え隠れしている。それがこのブランドに安定感を与えていると僕はおもう。彼は、マダム・オルガから受け継いだヘリテージを守りつつ、新たな挑戦をためらわない。その姿に、僕は老舗ブランドのあらたな可能性を感じる。今回、あたらしいシグネチャーシューズとして登場した「Alessio(アレッシオ)」は、ベルルッティを代表するシューズ、「Alessandro(アレッサンドロ)」のアッパーにスポーツシューズの超軽量ミッドソールとアウトソールを搭載したもの。ブランドのフィロソフィーがそのまま体現された一足だ。
パリのアルティザンブランドであるベルルッティが、職人気質に満ちあふれたイタリア人デザイナー、アレッサンドロ・サルトリとのコラボレーションによってリブランディングを遂行しているという状況は興味深い。リブランディングが快進撃を続けているのも、アレッサンドロの堅実な仕事振りによるものだとおもう。僕も今年50歳。ベルルッティにふさわしい年齢になってきた。この先もずっと、僕はあたらしいベルルッティの動向を見守っていきたいとおもう。
ベルルッティ インフォメーション デスク
0120-203-718
http://www.berluti.com