アレッサンドロ・デラクアが語る美意識と革新性|N°21
N°21|ヌメロ ヴェントゥーノ
アレッサンドロ・デラクアが語る美意識と革新性。
デザイナー、アレッサンドロ・デラクアは、1996年春夏シーズン、他のイタリアンレーベルとは一線を画す、儚く静かなセンシュアリティに満ちたコレクションで世界のファッションシーンに現れた。彼が打ち出す控えめな美意識は、ファッションの過剰なセクシュアリティに疲弊した人々をたちまち魅了し、ここ日本でも多くの共感者を生んだ。後にデラクアは自身のレーベルから離れるが、2009年に始動した「N°21(ヌメロ ヴェントゥーノ)」と名付けられたあたらしいブランドで、再びその美意識を開花させたことは、ファンにとってこの上ない喜びだったにちがいない。
さて、そのヌメロ ヴェントゥーノの世界初となる旗艦店が、2014年8月、東京にオープンした。居心地の良さと、デラクア流の静かなる美しさに満ちた3層からなる空間には、着る人の自然な魅力を引き出す繊細で軽やかなコレクションが並ぶ。めまぐるしく変化するファッションの世界で、変わらぬ独自の美意識と「今日的であること」を両立させるデザイナーに、話を聞いた。
Photographs by YUASA TohruText by NAGO Maya
ファッションを発信し続ける原動力
――レーベル名が変わっても、変わらず自身の美意識を育み続け、ファッションというメディアを通して発信し続ける原動力は、一体どこから来るのでしょうか?
ファッションに対する情熱の火が消えたことは一度もありません。その原動力となるのは、いつも、より良いものを希求する探究心と好奇心でしょうか。マーケットの声に耳を傾けながら、どうすれば、もっと良いものへと自分の表現を革新できるのか、それをつねづね考えています。その意味で、いつも自分に厳しくなければいけません。
――マーケットの声に耳を傾けるとは、具体的にどのようにされているのですか?
ファッションという移り気な世界において、今、皆に愛されるものとは何か。それを積極的に知ろうとする行為は、当然ながら、デザインだけでなくビジネスにおいても重要なことです。私はつねづね、インターネットやソーシャルメディアを通して若者のライフスタイルに注目していて、そこから世界が何を求め、どこに向かおうとしているのか、その動向をチェックするのが習慣になっています。さまざまな境界を越えて、より多くの人に愛され、シェアされたいというのは、非常に今日的なモチベーションですよね。
――「新しい」ということは、常に更新され続けるファッションにおいて重要な要素ではあると思いますが、同時に、今の時代においては「新しさ」だけではない何か、例えば、メッセージやストーリーといったものを今まで以上に求める潮流もあると思います。デラクアさんご自身は、新しくあることの重要性をどのように捉えていらっしゃいますか?
確かに、「新しいもの=良いもの」とは思いません。本当の意味での斬新さを生むことは、もはや不可能なのではないかとさえ思います。そういう時代において、ファッションを通じてどのように「新しさ」を打ち出すかというと、既存の概念や考え方を今日においてどのように再解釈し、更新していくかという視点が、とても大切だと思います。
――デビューから現在にいたるまで、デラクアさんが一貫して提案されてきた美意識は、ある部分ではとてもイタリア的であり、同時に、不思議と日本人の美意識にも共通する繊細なセンシビリティを内包しています。それは今現在においても、とても今日的な美しさであると思いますが、ご自身で意識されたことはありますか?
そんなふうに日本とイタリアの共通点を私のコレクションを通じて発見してもらえるのは、とても嬉しいことです。それは私のなかから自然に出てくる美意識で、自分のアイコンであると自負しています。世のなかのトレンドがセクシーさを強調しようとも、その控えめなセンシュアリティをずっと表現してきました。微妙なライン、ニュアンスのある色、微細なディテール……。時に、トレンドとはまったく関係のない表現をしていることもあります。自分のスタイルを信じて、そのなかでどのように更新していけるか、それがテーマです。
N°21|ヌメロ ヴェントゥーノ
アレッサンドロ・デラクアが語る美意識と革新性。
願望を投影するキャンバス
――2015年春夏メンズコレクションでは、軽やかで洗練されたストリートスタイルを描いていらっしゃいます。そのコンセプトは?
起点となったのは、アメリカの1950年代のサーファーとイタリアの50年代のエレガンスという両極端なものを融合させるというアイデアです。サーファーのインスピレーションを通じてストリート感やリラックスした雰囲気を表現し、そこにイタリアのバカンスを彷彿させるような素材や色を乗せました。
――都会的でありながら、エフォートレスなくだけた空気がある。着心地だけでなく、デザインそのものを通じて着る人の気持ちをリラックスさせるようなコレクションだと思いますが、ご自身のライフスタイルにも共通点がありますか?
僕のライフスタイルもそうであればいいのに! そう、コレクションは私の夢の世界ですね(笑)。でも、ファッションにおいては、そういったファンタジーがとても大切だと思います。自己表現だけではなく、こうであったらいいのに、という願望を投影するキャンバスでもありますから。
――ショップの空間においても、コレクション制作と同じような考え方が取り入れられています。細い線の無機質な素材と、歴史を感じさせるような天然素材が、絶妙なバランスで共存していて、かつ、とても居心地の良いリラックスした空気が流れています。ショップをつくる上で、必要不可欠な要素とは何でしょうか。
まず、まるで友人の家に招き入れられたような居心地の良さが、とても重要だと考えます。緊張を強いるような空間は、あまり好きではありません。ここでは、コンテンポラリーな素材と、イタリアのクラシックを象徴する素材がミックスされていますが、要素を最小限に抑えながら、いかに印象的な空間が表現できるかということに腐心しました。
――デラクアさんの作られるコレクションからも、この空間からも、ともに「時間の移ろい」や「プロセス」のようなものを感じます。時間や時代を断定しない美意識というか。
私は、自分のクリエーションの核となるDNAを強く信じていますし、大切にしています。言い換えれば、あるひとつの美意識に留まっているとも言えるかもしれませんが、一方で、それをどんなふうに革新していくか、という挑戦を日々行っています。止まっていることと発展していくこと、そのいずれもが自分らしさを形成する上で不可欠な、クリエーションの両輪なのです。
――では最後に、ファッションがあなたに与える力があるとすれば、それは何ですか?
表現者としての「自由」ですね。とてもシンプルですが、重要なことです。
N°21
東京都渋谷区神宮前4-3-17
Tel. 03-3746-0021
営業時間|11:00~20:00
http://www.numeroventuno.com/
Alessandro Dell’ Acqua|アレッサンドロ・デラクア
1962年ナポリ生まれ。82年に美術学校のアッカデミア・ディ・ベッレ・アルティでグラフィックデザインの学位を取得。弱冠23歳で、イタリアのファッションブランド、ジェニーとデザイン契約を結ぶ。アイスバーグやレ コパンなどのデザイナーなどを経て、96年に自身の名前を冠したブランドを設立。2002年には、イタリアファッション協会から新進デザイナーに与えられる、オスカー・デラ・モーダ賞を受賞。10年、新しいシグネチャーブランド「N°21(ヌメロ ヴェントゥーノ)」を発表した。