祐真朋樹対談|Vol. 3 デザイナー トム・ブラウンさん
祐真朋樹対談 Vol. 3
第3回のゲストはデザイナーのトム・ブラウンさん(1)
南青山に「THOM BROWNE. NEW YORK(トム ブラウン ニューヨーク)」の東京フラッグシップショップがオープンして1年が過ぎた。それを記念して、トム・ブラウンさんが来日。それでは、ということで、ショップやショーの話、健康管理の話、そして寝間着の話などを聞いてきました。
Interview & Text by SUKEZANE TomokiInterview Photographs by JAMANDFIX
いまや観光名所となっているTHOM BROWNE. NEW YORKのショップ
祐真朋樹(以下、祐真) お久しぶりです。
トム・ブラウン(以下、トム) 本当ですね。
祐真 青山にショップができて1年が過ぎましたが、これまであのショップについて詳しく話を聞いたことがなかったので、まずはそこからお伺いしたいと思います。トム ブラウンのショップは僕のオフィスの入っているビルの真ん前なので、毎日店の様子を見ながら過ごしているわけなんですけどね(笑)。
トム 僕よりずっと、あのショップを見て下さっているわけですね。
祐真 そういうことです。僕はあの界隈がとても好きで、それでオフィスもあの場所に決めたのですが、トムさんがあの場所を選んだ理由は何だったのですか?
トム 僕は東京という街をそれほどよく知っているわけではありませんが、それでもあのエリアはずっと好きでした。大通りから1本入っていて静かだし、なんだか妙にしっくりくる感じがしたのです。
祐真 なるほど。僕ももっと広いところに引っ越したいな、と思うこともあるのですが、でもやっぱりあの場所から離れることはできません。僕がオフィスをあそこに決めたころは、トムさんのショップのあるビルの場所は、広い駐車場でした。夜になるとかなり暗くて、いまとは全然ちがう雰囲気だったのですが、それでも妙に落ち着く感じがありました。いまではいろいろなショップができて、休日ともなると海外からの観光客も含め、たくさんの人が訪れる路地となりましたね。トムさんのショップの壁の前で記念撮影をしている人もよく見かけますよ。なかには着替えを持ってきて、わざわざお召し替えして写真を撮っていたり。ファッション誌がゲリラで撮影したりもしてるんじゃないかな~。
トム おやおや、それはロケーション・フィーを取らないといけませんね(笑)。
祐真 ウェブでTHOM BROWNEをサーチしてみたらソウルのショップが紹介されていて、それがまた非常に格好よかったのですが。
トム ソウルはGALLERIA百貨店の中にあって、ウィメンズだけを扱っています。
祐真 あ、そうなんですね。でも、スペースはちがえど、NY、青山、銀座のDOVER STREET MARKET GINZA、そしてソウルのGALLERIAのショップと、すべて統一された空気感を感じます。トムさんのこだわりとは何なのでしょう?
トム DOVER STREET MARKET GINZAの場合はスペースも小さいので、よりコンセプチュアルな作りになっていますが、イメージの統一は大事だと考えています。なので、ショップには常におなじ素材を使っています。つまり、グレーの大理石とテラゾ、それにブラインドは必ず使うようにしていますね。ソウルのGALLERIAの店はウィメンズオンリーなので、NYのレストラン「フォーシーズンズ」のイメージを取り入れています。
祐真 GALLERIAの店は、僕、ウェブでしか見ていないのですが、素敵な雰囲気ですね。でもあそこにはグレーの大理石は使っていないのでは?
トム そう、ウィメンズの店なので、グレーの大理石は使っていません。でもソウルにあるメンズの店(10 corso como)ではちゃんと使っていますよ。
祐真 僕、ウィメンズは疎いんですけど、東京でもどこかでウィメンズは扱っているのですか?
トム 青山のショップの2階にもありますよ!
祐真 あ、そうでしたか(苦笑)。僕、いつも1階と地下のメンズフロアしか行かないもんで……。地下、いいですよね。とくにシャンパンが飲めるスペースが(笑)。
トム NYの店にもああいうバーを作りたいと思っています。
祐真 いいですね。青山のバー・スペースはすごくいいですよ。バーとして営業してほしいくらい。
トム OK、考えてみましょう(笑)。
祐真朋樹対談 Vol. 3
第3回のゲストはデザイナーのトム・ブラウンさん(2)
トムさんが旅からインスパイアされるものとは?
祐真 外から見ていると、トムさんは自分のブランド以外にもいろいろな活動をなさっていて、ものすごく忙しそうですね。僕が知っている限りでも、パリでメンズを、NYでウィメンズを年に2回発表し、それ以外に「モンクレール ガム・ブルー」もあるでしょう? で、『QUEENS OF THE NIGHT』や『NEW YORK CITY BALLET』のコスチュームのデザインなどもなさってますよね。しかもそれら全てに手抜きがない。本当に尊敬してしまいます。
トム それはどうも。
祐真 春、ミラノサローネに行ったら、そこでもお会いしましたよね。
トム 僕はサローネに行ったわけではなく、モンクレール ガム・ブルーのミーティングに行ってたんですけどね。
祐真 そういう移動の多い生活というのは、クリエーションに何らかの影響を及ぼすものですか?
トム そうですね。僕の場合、いろいろなアイデアが浮かぶのは、おもに飛行機の中なんです。NYにいると、オフィスでいろいろな雑務もしなければなりませんが、飛行機の中は誰かと話す必要もなく、自分だけの静かな時間がもてますからね。何かをじっくり考えるには絶好の場所です。ショーの構成とか演出は、ほとんど飛行機の中で考えているんですよ。
祐真 いいアイデアが浮かぶかどうかはともかく、僕も飛行機で過ごす時間は好きなんですよね。とくに好きなエアラインってあるんですか?
トム ん~、行く場所によってまちまちですね。NYからミラノに行くときはエミレーツを使います。
祐真 エミレーツ、いいですよね。NYからミラノにダイレクトに行ける便が飛んでいるんですか?
トム 飛んでいます。
祐真 へ~。いいですね。東京からはないからな~。
トム ドアがビュイーンと閉まって個室になって、“Don’t Disturb”にもできるんですよ。
祐真 まるでホテルみたいですね。乗ってみたい。
トム とても美味しいシャンパンも出してくれるしね。そう言えば、今回NYから東京に来るときに乗ったのは、12:30出発の便でした。僕は通常、「夕方まではシャンパンを飲むのを我慢する」というのをポリシーとしているのですが、乗ってすぐのドリンクサービスのときにクリュッグのシャンパンを見て、思わず飲んじゃいました(笑)。まだ早い時間なのに。
祐真 そういうポリシーはねぇ……僕もすぐ破っちゃう(苦笑)。
トム だからと言って、僕は断じてアルコホリックではありませんからね(笑)。
祐真 機内ですぐにシャンパンを飲んでしまうトムさんですが、以前、毎朝早起きして8マイル走るというお話を伺いました。現在もその習慣はつづいているんでしょうか?
トム その日の仕事によっては走らない日もあるし、朝早くに仕事が入っていれば午後に走ることもあります。最近は、膝と背中を痛めないように、ジムで走ることが多いですね。
祐真 東京でも走ってるんですか?
トム 東京では、宿泊しているホテルのジムを利用しています。
祐真 そういえば、トムさんも気に入っているホテルオークラの本館、建て直すんですよね?!
トム そうなんですよね。でもロビーは残すとか、オーキッドバーはサウスウィングに移設するとか、という話を聞いています。オーキッドルームで朝食を取ることが多いのですが、思わず「ここは残して下さい!」とお願いしてしまいました(笑)。従業員の皆さんも、とても残念に思っているようですよ。
祐真 あそこが壊されちゃうのは僕も本当に残念です。壊す前にあそこで1回、ショーをやったらどうですか?
トム アメリカ大使館も近いし?? 考えてみましょう。
祐真 話は戻りますが、トムさんはそれだけ移動しまくって、時差ボケはないんですか?
トム 東京に来だしたころは、だいぶひどい時差ボケに悩まされましたが、最近は慣れました。
祐真 へ~、時差ボケって慣れるんですね。僕はいつまで経ってもダメ。とくにヨーロッパへ行くと、時差ボケがなかなか直らなくって困っています。時差ボケにならない人っているけど、何がちがうんだろう。やっぱり内臓の強さなんだろうか? トムさんは3食ちゃんと食べるタイプですか?
トム 2食半といったところですね。朝はトーストと珈琲だけです。食事も大事だけど、時差ボケにはエクササイズも効くんじゃないかな? 僕が時差ボケに悩まされないのは、エクササイズのおかげかもしれません。
祐真 なるほどね。僕も見習います。よく行く都市に定宿はありますか?
トム パリはずっと「ランカスター」に泊まっていましたが、親しくしていた友人が辞めてしまったので、いまはランカスターには泊まっていません。ミラノは「フォーシーズンズ」ですね。
祐真 ロンドンはあんまり行きませんか?
トム いえいえ、行きますよ。最近はスティーヴン・ジョーンズと帽子を作っているので、結構よく行きます。ロンドンで泊まるのは「クラリッジズ」。バーがいいんですよね。
祐真 クラリッジズはいいですよね~。NYは……ホテルには泊まらないですよね。
トム 人に勧めるのは「カーライル」ですね。
祐真朋樹対談 Vol. 3
第3回のゲストはデザイナーのトム・ブラウンさん(3)
トム ブラウンのショーは常にアイデアが満載
祐真 これまで、ユニークな場所でのショーをたくさん見せていただきましたが、会場はどうやって決めるのですか?
トム プロダクションを担当する会社がベルギーのブリュッセルにありまして、そこと話し合いながらいっしょに決めます。
祐真 フランス共産党本部でショーをなさったこともありましたよね。
トム オスカー・ニーマイヤーの建物ですね。
祐真 あれはすごかったですね。確か「アポロ」がテーマのときでしたよね。
トム あのときは、まず最初に場所ありきでした。あのスペースを見て、どうしてもここでショーがしたいと思い、そのためにコレクションの内容も変更したほどです。
祐真 サンクスギビング・ディナーを舞台にしたショーも面白かったです。あれはインターコンチネンタルでしたよね? みんな、映画の『バリー・リンドン』みたいだね、って言ってました。ガーデンでのショーも面白かったし、ミリタリーのときもとても印象的でした。
トム パリのミリタリー・アカデミーを使わせてもらったときですね。あの場所は、はじめてファッションショーに使わせてもらったんです。
祐真 エルメスが別のスペースでショーをしたことはありましたけど、あの回廊でのショーははじめて見ました。
トム あそこをどうしても使いたくて、拝み倒しました。
祐真 面白かったです。最近は広いスペースの中に建て込みを作って見せるショーが多いですね。
トム そうですね。インスタレーションのような感じで見せることが多くなりました。インスタレーションで使ったものを、ほかで見せたりもできますしね。2014年AWのコレクションはグレーのシリーズで、ランウェイに布でくるんだ動物を使いました。
そのプロダクションの会社はブリュッセルにあるので、なかなか電話やメールでは伝わりきれないことも多いんですよね。「動物を布でくるみたい」と言っても、人によって「くるむ」イメージがちがったり。やっぱり実際に会って打合せするのが一番なので、あのときは2回、1泊でブリュッセルに行って打合せしました。
祐真 いつもそうやって、ブリュッセルに出向いて打合せするんですか?
トム たいていは、イメージを絵に描いてやりとりして進めています。あとは彼らにパリまで来てもらって打合せしたりとかね。
祐真 ハルクのときも面白かったです。
トム あのショーは、まず場所がもっとも大きなポイントでした。パリのナチュラルヒストリーミュージアムでやったのですが、とくに博物館がいいというのではなく、ちょっと薄暗くて荘厳な雰囲気が欲しかったのです。
祐真 最近は、ランウェイがはじまる前から会場にモデルがいるという設定のショーが多いですよね。ほかのブランドでもこのスタイルで見せるところが増えています。ショーが終わってから、モデルがずっと立ってるというショーも多いですよ。みんな、帰るときに写真を撮ったりしています。トムさんは早かったですよね。これはとってもいい方法だと思います。みんな何回でも見られるし、写真も撮れるし。
トム 皆さんに、ディテールをよく見ていただきたいショーのときには、そういう見せ方をします。
祐真 面白いと思います。東コレでもおなじようなやり方をしているブランドがありました。モデルがずっと立ってる。「あ、これ、トム ブラウンのやり方じゃん」と思った(笑)。モデルはずっと立ってなきゃならなくてかわいそうですけどね(笑)。
トム 確かに。
祐真 ついこの前の東コレのショーで、このスタイルで見せていたブランドがあったのですが、ちょっと面白い光景を見ました。立っているモデルを、みんないろんなところから撮影するわけですが、メイクさんが汗を拭いてやろうと横からパフを持った手を顔に近づけた。でもモデルはそれをカメラだと思って、危機感を感じたのかパッと払いのけた(笑)。メイクさんの手からパフが飛ぶ……。モデルもすぐにその手がメイクさんのものだったと知って謝ろうとするんだけど、みんなはカメラや携帯で撮影しているわけで、モデルは瞬時に我に返ってまたポーズを取る……と(苦笑)。いろんなアクシデントが起こりますよね。
トム 見ているときには気づかなくても、あとでビデオを見ると気づくこともありますね。たとえば、プールでやった「モンクレール ガム・ブルー」のショーを覚えていますか? 冒頭で、モデルがみんなで並ぶところがあるんですが、まあ全員おなじローブを着ておなじゴーグルを着けているので、並び順がちがってもたいした問題ではない。でも、一応、順番は決めてあって、ちょうどみんながパ~っと並んだとき、ひとりのモデルが自分がちがうところに立っているのに気づいて、パパパっと本来自分が立つべき場所に移動したことがありました。動きさえしなければ彼がまちがったなんて誰もわからなかったのに、かえって目立ってしまった(笑)。みんなおなじローブとゴーグルをしていたから、観客からしたらまちがったかどうかなんて、全然わからなかったんですよね。
祐真 アクシデントは、見てるほうからすると面白いですよね。
トム サンクスギビング・ディナーの設定でショーをしたときにも面白いことがありました。モデルは最初、全員テーブルに座っているのですが、実はテーブルには赤いランプが設置されていて、そのランプが点いたら立ち上がって歩く、という演出でした。でもひとりだけ、座りっぱなしで1回も立ち上がって歩いていないモデルがいたんです。私たちは「まあそれでもいいかな」と思って見ていたんですが、もうショーも終わろうかというそのとき、急に気づいたように立ち上がって歩いた(笑)。
祐真 ガーデンでやったときも面白かった。なんか大きなかぶり物を付けてモデルが歩いてくるんだけど(左下の写真でモデルの足元にあるのが、そのかぶり物)、多分、あれを付けていると足元が見えにくかったんだと思うんですよね。モデルはひとりひとり、歩みを止めて立つべき場所が決められていたんだけど、みんなその場所を見つけるのに四苦八苦していて、その様子が面白かった。
トム 何回も練習したんだけど、転んだモデルもいました(笑)。
祐真 トムさんはいつ会ってもおなじ感じですね。
トム あはは。僕は変わらないよ。祐真さんは会うたびに変わってますね(笑)。
祐真 そう! 毎日変えるのが僕のスタイルなんです。ところで夜寝るときはパジャマですか?
トム いや、ボクサーショーツとTシャツです。
祐真 ボクサーショーツは自分のブランドの?
トム そうです。シャツ地のものを愛用しています。
祐真 ジョギングするときは何を着るんですか? トム ブラウン?
トム ナイキですね。シューズはナイキかニューバランスです。
祐真 気に入っているモデルはありますか?
トム ほぼ毎日8マイル走っているので、5週間ごとにいろいろなランニングシューズを履きつぶしています。
祐真 ほ~、すごいですね。自分で作らないんですか? ランニングシューズを。
トム いや、ランニングシューズはまず機能性が大事でしょ? その点でファッションのカテゴリーのシューズとはまったく別の領域なので、自分では作りません。選ぶときも、色やかたちというよりは、自分の足に合って、走りやすいシューズを選びます。
祐真 コラボレーションしたら面白いのにね。それでは最後に、近々予定しているプロジェクトは何かありますか?
トム そうですね、来年1月のパリでのメンズコレクションに向けて準備を進めています。もう場所とアイデアは決まりました。日にちも最終日に決まっています。
祐真 1月のパリコレ最終日って1月25日ですよね? それって僕の50歳の誕生日なんですけど。
トム お~、そうなんですか! 若く見えますね。
祐真 気持ちはね(笑)。今日は有り難うございました。