MAISON TAKUYA|創設者自身が語るレザーブランド「メゾン タクヤ」のすべて
FASHION / MEN
2015年2月2日

MAISON TAKUYA|創設者自身が語るレザーブランド「メゾン タクヤ」のすべて

MAISON TAKUYA|メゾン タクヤ

ブランド創設者、フランソワ・ルッソ インタビュー

レザーグッズブランド「メゾン タクヤ」のすべて(1)

「MAISON TAKUYA(メゾン タクヤ)」というレザーグッズブランドがある。貴族的な風貌で異彩を放つフランス人デザイナー、フランソワ・ルッソ(François Russo)が2008年に設立し、2009年春に販売をスタート。そのブランドポリシーは「一分の妥協も許さない、完璧な皮革製品を作る」こと。日本では阪急メンズ東京1階と伊勢丹新宿店メンズ館1階、阪急メンズ大阪1階にコーナーがあり、“ITライン”を展開するウェブショップrumors(ルモアズ)でもファンを増やしている。

Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by TAKADA Miduho

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ブランドに自分の名前をつけたくなかった

今回、なんと62回目の来日を果たしたフランソワ・ルッソ氏だが、「メゾン タクヤを正式に日本のジャーナリストに紹介するのは初めて」というプレス向けイベントを無事終了してからのインタビューとなった。取材がはじまると、自分のために作った市販されていない手帳を、きれいに並べて話しはじめた。

──最初に、ブランド名「メゾン タクヤ」の意味を教えてください。

まず、フランス語で“MAISON”とは、古くから品質と高い完成度を目指したビジネスの屋号につけられてきた言葉です。「メゾン タクヤ」というブランド名は、フランスとアジア、とくに日本とのハイブリッドをイメージして名づけました。

──ブランド名の“TAKUYA”は日本語からのインスピレーションとか。

私は1986年に初来日して以来、日本からさまざまな影響を受けています。それで、自分のブランドをスタートさせるときには日本語を入れたかったのです。もちろん私自身はフランス人のDNAが強いのですが、そこにアジア・日本のDNAをミックスしてあたらしい価値観を打ち立てたかった。国境を超えて複数の国民性をミックスアップさせたブランドが、メゾン タクヤなのです。そして、ブランドには自分の名前はつけたくなかったんです(笑)。

メゾン・タクヤ|フランソワ・ルッソ 02
メゾン・タクヤ|フランソワ・ルッソ 04

アジア発信のラグジュアリーブランドを打ち立てたい

──メゾン タクヤのもう一つの特徴が、タイの自社工場で製造していることが挙げられます。なぜ、タイ、アジアなのですか?

「メゾン タクヤ」は、私の気持ちのなかでは壮大なプロジェクトの一つという位置づけです。ものを作る以上は、自分が投影できるものでありたいし、アジア発信のラグジュアリーブランドを打ち立てたいという気持ちも強いのです。

──なぜアジア発信なのですか?

メゾン・タクヤ|フランソワ・ルッソ 06

皆さんも感じていると思いますが、いわゆるヨーロッパのラグジュアリーブランドは過渡期にあります。18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで産業革命が起こり、ヨーロッパのライフスタイルはものすごいスピードのなかで成熟し、それに伴ってラグジュアリーも発展・拡大していきましたが、今日ではつぎのソリューションを見つけられずにいます。

そこで、今大きな変化を遂げ、成長しているアジアに着目しました。現在のアジアには注目するだけの価値があると思っています。

MAISON TAKUYA|メゾン タクヤ

ブランド創設者、フランソワ・ルッソ インタビュー

レザーグッズブランド「メゾン タクヤ」のすべて(2)

「メゾン タクヤ」はシンガポールを活動拠点としている。タイに工場を設立し、100%自社生産体制を確立。タイの若い人材に高度な技術を教育するなど、地元ではあらたな産業として歓迎されている。発売4年で日本、アメリカ、フランス、シンガポールをはじめ世界17カ国で展開され、パリのコレット、ニューヨークのバーグドルフ・グッドマンなど、各国の高級ショップでも好調な売り上げを獲得している。

シンプルを突き詰めて、エッセンシャルな価値に行き着く

──お話をうかがっていると、とても日本の影響を受けているように感じますが、最初にどんな影響を受けましたか?

それは食べものです。私は生粋のフランス人だと思っていますが、食べものにかんしてはフレンチに心酔したことはありません(笑)。まだ子どものころにパリに初めて和食の店が同時にふたつオープンしたのですが、当時まだ珍しかった日本料理を食べました。

──口に合いましたか?

とても驚きました。「なんてシンプルで贅たくでおいしいのだろう」と。シンプルを突き詰めたところの、すばらしい価値の中核まで達するその味覚に、大きなインパクトを受けたのです。フランスはルイ16世の新古典主義など18世紀の影響が色濃く、19、20世紀にも踏襲されています。それは、料理もファッション(服飾)も装飾的であるということ。フランス人はシンプルと対極のDNAにどっぷり浸っている。ですからシンプルとラグジュアリーが結びつかない。

──なるほど。

ラグジュアリーとは、ひと目を引くこと、注目を集めること、ひとの気持ちを高めるものですが、この世にそれとまったく正反対のことが成立することに気づかされました。それが私の転換点でした。シンプルを突き詰めて、エッセンシャルな価値に行き着くこと。それが私の探求であり、これからさらに深まっていくと思います。

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──その探究心とアジア・日本の接点は?

ラグジュアリーは感情や驚きに訴え、過剰であることも価値ですが、日本のいろいろな職人と接し、彼らから“わび・さび”の教えを受け、完成度の高いものに触れた経験はとても大きいものでした。

──ラグジュアリーとシンプルという対比は、西洋と東洋とも言い換えられますか?

物事はコントラストのなかから真実が浮き彫りになります。対比のなかからあたらしさや完璧さ、エレガンスなどが見えてくるのです。

もの作りにおける創意工夫は終わりのない世界

──メゾン タクヤにとって「完璧」とは何を示すのでしょうか?

ブランドポリシーとして「一分の妥協も許さない、完璧な皮革製品を作る」ことを挙げています。しかし逆説的ですが、完璧はありません。完璧は目指すもので、できるだけ近づけることです。芸術や概念には完璧なものは存在しますが、物質的なものには完璧はあり得ないと思います。

──でも完璧を目指すと。

そうですね。完璧を目指すためにデザインからはじめます。ものづくりはそれにかかわっている人びとの気持ちを共有することが不可欠なので、私はオーケストラの指揮者のように、各パーツの演奏者を理解して、その気持ちを一つの交響曲にまとめあげるようにして、ものづくりでもオリジナリティを追求しています。

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私は100人以上いるスタッフと自分の価値観を共有するのです。そうすると、たんなるもの作りではなく、価値を理解したすばらしい感情が入ったものが完成します。

メゾン タクヤでは、職人たちとプロセス一つひとつに気持ちを分かち合いながらもの作りに励んでいます。もの作りにおいて、創意工夫は終わりのない世界で、私たちは完璧を目指しながら、何度も考えを巡らせて、濃厚に煮詰めて作り上げていきます。

MAISON TAKUYA|メゾン タクヤ

ブランド創設者、フランソワ・ルッソ インタビュー

レザーグッズブランド「メゾン タクヤ」のすべて(3)

フランソワ氏が1年半から2年ほどプライベートで使っているクロコダイルのトートバッグ(前ページ最下部)をよく見てほしい。これほど大きな竹斑(竹に似たきれいな柄)は世界的に希少で、「高級車一台分、ベンツCLK350なみ」というプライスに驚かされる。これを選んだ理由を聞くと、「軽くて、モダンなワニ革のバッグを作るにはどうすればいいか?」を突き詰めた結果だと言う。そして「毎日使っていると、別の完璧さが出てきます」と語る。

使いにくいものを使っているひとは、幸せそうに見えません

──それにしてもすばらしいワニ革バッグですね。

重いバッグを作るのは簡単です。年齢の若い硬いワニの革に、強度のためにボックスカーフを貼り、さらにライナーをつければ、それなりのバッグはできますが、とても重くなってしまう。そこで私が選んだのは、長生きしたワニ。厚みがありながら、牛革よりもずっと軽い。内装にはイタリア製の非常に薄いラムを使って、さらに、鞄底にもワニ革を贅たくに使いました。バッグのなかをのぞくともう一匹います(笑)。そして、バッグというものは何も入れない状態でも自立しているべき、という思いをもっているので、製作過程を工夫しています。そうして、布製と変わらない軽さと柔らかさをもったバッグができあがりました。

──そういう工夫、発想の原点は?

見た目に美しい椅子は世の中にたくさんありますが、座って納得する椅子はいくつあるでしょうか。それとおなじで、使いにくいものを使っているひとは、幸せそうに見えません。

──実用性はどこまで突き詰めて考えますか?

実用性というのは、じつはマーケットによって変わってきます。日本とアメリカでは紙幣のサイズがちがうので、ポケットやサイズ感などはつねにリサーチしています。そして、使い手の皆さんの意見にしっかり耳を傾けます。デザインを突き詰めることも大事ですが、独りよがりになるのは馬鹿らしいこと。実用性をないがしろにしたところに、デザインはデザインとして存在しません。しかし同時にデザインがあるからこそ、必要なものがエレガントになり、完成されたものになります。

メゾン・タクヤ|フランソワ・ルッソ 21
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ビスポーク、パターンオーダー、レディメイドが揃う

──メゾン タクヤではビスポーク(オーダーメイド)やパターンオーダーも好調だそうですね。

ビスポークはまさに使い手の皆さんからの貴重な意見をいただける機会でもあります。「ビスポーク」は、デザイン・サイズ・素材・カラーなどすべて自由につくることができ、まずデザインを仕上げたあと、イタリアでモダンなソフトバッグを作るノウハウを習得したパタンナー10人を擁するセクションで型紙を作成します。

──なぜソフトバッグの技術を取得したひとが手がけるのですか?

ビスポークは服のオーダーメイドとおなじで、ゼロから作り上げるもの。それだけ費用や時間のかかる特別なものです。服でもクラシックなスーツを作る職人と、現代的でモダンな服を仕立てる職人はまったくちがいます。私たちは、メゾン タクヤとしてのこだわりと美学をもって設計にあたり、それを、製造に精通したスタッフが作り上げていきます。そして、どんなに高価な一点ものでも、あらゆる角度からメゾン タクヤにふさわしいかを検証します。

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──ビスポークとのほかに、パターンオーダーとレディメイド(既製品)もありますね。

パターンオーダーは既存の商品を好みの素材や色で個別にお作りするシステムで、とても好評いただいています。現在では期間を限っての展開となっています。いずれのものも、私たちの商品そのものが価値を語ってくれないと意味がないので、一度手にとってご覧ください。持っていただき「あー、これはいいな」と思っていただけたら幸いです。

MAISON TAKUYA|メゾン タクヤ

ブランド創設者、フランソワ・ルッソ インタビュー

レザーグッズブランド「メゾン タクヤ」のすべて(4)

このページの写真は、日本で初めて開催されたプレス向けイベントの展示の様子だが、フランソワ氏は、「日本の編集者の皆さんの関心度の高さに勇気を得て、すばらしいイベントになりました。とくに遊び心ではじめた“カモフラージュプリント”の反応が良かったのが強く残っています。多くの反響をいただき、自分にとってプラスになるいい時間でした」と語る。

ファスナー付きのアイテムを発売できた理由

──もう少し具体的に、メゾン タクヤのもの作りの特徴を教えてください。

私たちのもの作りはシンプルですが、無数の選択から成り立っています。素材選び、革のすき方、厚み、ファスナーの付け方、内装とその素材、強度のための芯材の入れ方、のり付けを選ぶのか、縫い合わせなのか、パーツの使い方、コバ磨きなど、細心の注意を払いながら統一感を求めます。のり付けなども小さな選択ですが、それによって感情に訴えかけてくるものがちがってくるのです。

──作り方には、フランソワさんの“好み”も反映していますか?

もちろんです。私は「なにかをするために欠点を隠す」ことが絶対にイヤなのです。ですから、厳選した素材のみを使用しています。型押しは一切使いません。すべて野生(天然)の上質な素材のみを選びます。天然の素材一枚一枚の個性のちがいを、味わいとして大切にしています。メゾン タクヤの製品を大切に長く使っていただくために、作りに妥協はしたくないし、「せっかく作ったのに残念」というのはできる限りなくしたい。そのために、ステッチを入れる箇所や、縫い方、収め方などを徹底的に研究します。

──ファスナー付きのバッグや小物も、やっと納得できるものができたとか。

そうですね。ファスナーはオリジナルで開発したもので、ファスナーの縫い付け方も独自のものです。また、バッグのジップヘッドは本体の革に傷がつかないように、革を巻いて処理をしています。

──そのこだわりは、どこから来るのでしょうか。

やはり、最初にお話ししたように、アジアから現代のラグジュアリーブランドを発信したいという思いですね。ヨーロッパからアジアへという流れは皆さんも感じていると思います。メゾン タクヤの商品を使っていただき、新時代のラグジュアリーを感じてください。

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フランソワ・ルッソ|François Russo
フランス生まれ。アートディレクター、写真家、インテリア&プロダクトデザイナー。カルティエにてキャリアをスタート、カルティエ社による ISMT(ラグジュアリーマーケティング高等インスティテューション)の設立にかかわる。 1995年を転機として、デザインとクリエイティブディレクションにキャリアを移し、フランス大手代理店にて、コンサルティングとアートディレクションの両面を融合した活動で、数々のヨーロッパのラグジュアリーブランドにかかわる。

2001年には独立・起業し、アートディレクション、フォトグラファー、インテリアデザインの分野に集中して活動を展開。ラグジュアリーブランドにかんするエキスパートとしての信頼を集める。

2003年に、フランスインテリアデザイン界の大御所であると同時に、20年来の友人でもあった、アンドレ・プットマン女史に請われ、アンドレ・プットマン社の共同経営者に就任。同社の経営を統括し、世界中で活動を展開する。2005年にはシャネルとデザインコンサルタント契約を締結。

2008年「MAISON TAKUYA」を起業。あたらしいラグジュアリービジネスのあり方を問い、失われつつある完全手製の高級皮革製品の復活を旗印に、同ブランドのデザイナー兼会長として、ブランドマネージメントに情熱を注いでいる。

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問い合わせ
MAISON TAKUYA
Tel. 03-5464-6993
http://www.maisontakuya.com/

           
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