米山庸二 × が~まるちょば 特別対談「既成概念を超えて、その先へ」|M・A・R・S
M・A・R・S|マーズ
米山庸二 × が~まるちょば 特別対談
既成概念を超えて、その先へ
2016年に25周年を迎えた「M・A・R・S(マーズ)」。それを記念して送るデザイナー米山庸二氏の対談連載。今回のゲストは、パントマイムを駆使しながら長編の物語を表現する独自のステージングで、世界中から賞賛を浴びているが~まるちょばのケッチ!氏とヒロポン氏。彼らの結成秘話や経験、そしてM・A・R・Sとの共通点を探ります。
Photographs by NAGAO MasashiText by TOMIYAMA Eizaburo
スーツ+モヒカン+サングラスが生まれたきっかけ
米山庸二さん(以下、米山) が~まるちょばのステージを観に行くきっかけは、甲本ヒロトさんだったんです。「面白いから絶対に行ったほうがいい」と言われて。公演を観たら、自分が想像していたパントマイムと違って、ストーリーの組み立てが素晴らしかった。しかも、ちびっ子たちがすごく楽しそうにしていて最高でした。
ケッチ!さん(以下、ケッチ!) 最初に来ていただいた2013年の公演は、4歳以上入場OKのわかりやすいショーでしたね。「子どもたちの姿を見て喜ぶ親」という裏テーマもあって。
米山 なんでそういうショーにしようと思ったんですか?
ケッチ! 世界中で公演をやっていますけど、地元・東京では大きなホールでしかやっていなくて。次なる挑戦として、東京にある62市町村すべてを回る『東京JACK』を始めたんです。
米山 僕は小笠原まで観に行きましたから。
ヒロポンさん(以下、ヒロポン) 船に揺られ25時間。お互い船酔いで大変でしたよね(笑)。でも、おかげさまでいろいろなところで歓迎してもらって。御蔵島では、最初スタッフの人たちがヘルメットやタオルをかぶってたんですよ。本番始まって、パッと見たら彼ら全員がモヒカンになっていて。女性はリーゼントヘア。
米山 それは感動しちゃいますね。公演のときはいろんな衣装を着ていますけど、が~まるちょばのパブリックイメージといえばモヒカン+スーツ。あれはどうやって決まったんですか?
ヒロポン 基本、パントマイムはひとりでやるものなので、お互いソロだったんです。でも、会場を押さえたりお客さん呼んだりはひとりだと大変で。そんなときに、ケッチ!が熱心に誘ってくれて。とはいえ最初は断っていたんですよね。でも、最終的にはやろうと。僕としては、どうせやるなら作品の持ち寄りではなく、一緒に考えたものを作りたかった。
米山 ふたりでないと、できないストーリーっていうことですね。
ヒロポン パントマイムの歴史は古いので、「まぁ、こんなもんだろう」という既成概念がみんなの中にあって。だから、「無理して観なくてもいいかな」って、二の足を踏むお客さんが多いんです。でも、まずは観てもらわない限り評価してもらえないし、自分たちは独自性があって絶対に面白いという自信もあったので。「パントマイム」と謳わずに「サイレントコメディー」と名乗るようにしました。チラシもコメディーであることがわかるヴィジュアルにして。
米山 うんうん。
ヒロポン 世界中のストリートでやってたんですけど。ストリートでは、お客さんのベクトルを自分たちに向けることがすごく難しいんです。大道芸人さんの多くは「これから始まりますよ~」ってスピーカーを通して言える。でも、僕らは設定上喋れない。ということは、目立たなくてはいけないんです。そこで、一念発起でモヒカンにしたんです。ケッチ!はその頃、ドレッドで。
米山 ドレッドだったんだ(笑)
ヒロポン スーツに関しては、それよりも前に5人くらいでパントマイムをする企画物のショーがあって買っていたんです。モッズスーツのようなデザインがたまたま5000円くらいで買えたし、足下はふたりともドクターマーチンだったし。旅ではとにかく荷物を減らしたいので、一足で済ませたいときにマーチンは最適なんです。
ケッチ! それで1年くらいやってたのかな。そこから冗談で「ふたりともモヒカンにしたら面白いよね」って。試しにやってみたら、世界中どこのストリートでもどんどん人が集まってくる。「あのチャイニーズ・モヒカン」みたいな感じですぐに覚えてもらえて。そうなったら、しばらく止められないなと。そのまま15年。
米山 僕ら世代は、ファッションにも共感できる部分があって。細身のスーツにドクターマーチンは、ザ・スペシャルズとかザ・ジャムを連想できたり。そういうクールな格好をした人たちが、面白いことをやるのもすごくかっこいいと思った。
ケッチ! ふたりともイギリスの音楽が好きだったというのはありますね。だからスーツを買ったときも「これいいね」ってなったし。
海外では「キミたちアニメっぽいよね」と言われたり
米山 イギリス好きってことは、モンティ・パイソンとかも観てたの?
ヒロポン 僕は観てました。ゲバゲバ90分とかも記憶にあって。あれはモンティ・パイソンですよね。
米山 他に何かサイレントコメディーをやるうえで影響を受けているものはある?
ヒロポン 僕ら世代はドリフの影響が強くて。ドリフもモンティ・パイソンとかサタデーナイトライブとかが入っているのかもしれないけど。そういうのは無意識に自分の中に入ってますね。海外のストリートでやっていると「キミたちアニメっぽいよね」と言われたりするから。無意識に染み込んでいるんでしょうね。
米山 「志村、後ろ後ろ!」もパントマイム的なギャグですよね。
ヒロポン マイムが先なのか後なのかはわからないけど、僕らも「志村後ろはココでやろう」とかすでにパーツになっているので。
ケッチ! 「今日は志村後ろを長めで行こう」とかね(笑)。僕の場合は、モンティ・パイソンを大人になってから知りましたけど、感動しました。社会風刺として見ることもできるし、何も考えずに笑うこともできる。これはすごいなと。でも、が~まるちょばに関しては、社会性とか意識していないです。
ヒロポン パントマイムって、モノも言葉も使わないから何でもできるイメージがあるんです。でも、実はそうじゃなくて、制約の中で面白いモノを作るのはかなり難しい。しかも物差しは自分にしかないので、自分が面白いと思うものを作るしかない。米山さんはどうやって発想していくんですか?
米山 モノを作ろうと考えるのではなくて、日々いろいろなものを取り込んでいるんだと思うんです。
ヒロポン アンテナを常に立てている感じ?
米山 そんな感じ。そこから、そのときの気分だったり盛り上がっている課題についてチョイスして、「これは世の中にない」「これが今すごくかっこいいと思う」っていうデザインをしていく。
ヒロポン 僕もアンテナは常に立てているけど、「よいしょ!」ってやらないと作れない。作ろうと思い立ってから、アンテナで集めた引き出しを開ける感じですね。
米山 僕は6割とか7割で止めておいて、あとはゴロゴロ転がして9割近くなったら出す。生殺し状態が好きみたい。
ヒロポン ビートルズタイプですね。『LET IT BE』が最後の音源ですけど、あれは『Abbey Road』以前に録音したものですから。
米山 そうやって何年も寝かすこともあるよ。それは、作り方や手法が浮かばないからっていう側面もあって。でも、寝かしたままでもゆっくり進行はしているんだよね。
ヒロポン カスタムができるM・A・R・Sのコンポジットシリーズは発明だと思うんです。僕らも、まったく喋らずにふたりで1時間のストーリーものをやったのは発明だと思っていて。
米山 宝石は本来オーダーから始まっているから、あれをカスタムと言っていいかはわからないけど……。お客さんが好きなものを付け加えられるっていうのは、作り手と買い手の距離が縮まるひとつなのかなって。
ケッチ! 謙虚ですね。
Page02. 人は、年齢と共に自国文化の影響が強まる
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米山庸二 × が~まるちょば 特別対談
既成概念を超えて、その先へ (2)
人は、年齢と共に自国文化の影響が強まる
米山 が~まるちょばは、自分たちで演出して自分たちで演じていて。ある意味で、舞台をデザインしているわけですよね。
ヒロポン 僕らは言葉も舞台セットも使わないので。でも、観ている人が想像して、十人十色の背景が見えている。それぞれの人生があるから、それぞれ思い浮かべる風景が違うんです。自分の人生と掛け合わせて観てくれているんですよ。そういう意味では、アンティークとか、あの人が持っていたジュエリーなど、モノ周辺に価値があるとすれば、パントマイムに共通する部分があるかもしれない。
米山 ジュエリーも、身につける人によって変わるからね。でも、あの舞台の凄さは一度観ないとわからないと思う。何度も観れるし、何回観ても捉え方が違う。
ヒロポン 同じ作品を3年後くらいに観た友人から、「前は舞台の上に冷蔵庫があったのに、今回はなんで置いてないの?」と言われたことがあって。そもそも舞台の上に何も置いていないのに(笑)。そういうエピソードで一番感動したのは、ケッチ!の知り合いが「セリフってどっちが考えてるの?」って真顔で聞いてきたんです。
ケッチ! 「どっちも考えてないよ」って答えたんですけどね。「でも、喋ってたじゃん!」って。そこから散々説明して、最後に「あっ、そういえばサイレントだった」と気づいて。そこまで入り込んでくれたら嬉しいですよ。
米山 色があるように見えたり、階段がないのにその勾配まで見えてくる。何より悔しいのが、ケッチ!がすごくかわいい女に見えるときがあって。
ケッチ! 近くで観たらすね毛ボーボーですけど、客席からは勘違いできるかもですね。
米山 石畳の道が見えたり、建物の感じもリアルに見えてきたりもする。あれは一応、ふたりの中では同じ景色を想定しているの?
ケッチ! そうですね、できるだけ同じ背景を思い浮かべるようにしていて。もちろん、そういう設定はお客さんに伝えませんけど。
米山 海外でも、ウケたり感動したりするツボは同じなのかな?
ヒロポン 内容は変えないです。変えるとしたら、お金とかを表現する際のジェスチャー的サインくらい。そういう意味では、世界共通ですよ。
ケッチ! とくに、小学校に上がる前の子どもは世界中で同じ反応です。アメリカはちょっと違うけど。
米山 大人になると変わるの?
ケッチ! 年齢と共にその国の文化の影響を受けますね。アメリカに関しては、多民族国家で映画も説明過多というか、わかりやすいじゃないですか。パントマイムはその対極にあって。たとえば、綱引きでお互い引っ張りあっていたと思ったら、実はつながっていないそれぞれ2本の縄だったというオチがあるんですけど。このネタはアメリカではウケないんですよ。そもそも、1本の縄を引っ張り合っていたことが想像できていないみたい。
米山 へぇ~、そういうのは面白いね。
――最後に、愛用者であるヒロポンさんから見たM・A・R・Sの魅力を教えてください。
ヒロポン 僕がM・A・R・Sをしているのにはすごく意味があって。まず、このスカルリングは憧れの人からいただいたものという背景がある。そして、コンポジットのリングには「5つの星」と「DO」の文字が入っている。まず、5つ星は海外の舞台において最高評価を意味するんです。これは願掛けみたいなもの。そして、「DO」の言葉には映画『フラッシュダンス』にルーツがあって。勇気の出せない主人公に、おばあちゃんが「DO IT」、「DO」「DO」って励ますんですよ。僕も奥手だったので、パントマイムを始めたばかりの頃はカバンに「DO」と刻んでいたんです。だから、これを指にはめるのはただのジュエリーを超えた意味がある。
米山 それはすごくありがたい話。嬉しいなぁ、これからもよろしくお願いします。今日はありがとうございました。