LYTHA|協働と連携がアパレルを救うカギ!
FASHION / FEATURES
2015年2月4日

LYTHA|協働と連携がアパレルを救うカギ!

ポスト東日本大震災の東京MAP - Fashion(1)

大切なのは人の技と昔ながらの機械

協働と連携がアパレルを救うカギ!

東日本大震災が起きるまえから、デザイナー中野 靖氏は、LYTHA(リター。注1)というブランドをとおし、消えつつある日本の技術や職人技を残そうとしていた。今回の震災でそのなかの工場が被災したという。日本の服づくりの“技”はどうなってしまうのだろう? その実情を知るべく、千駄ヶ谷のあたらしいアトリエで、中野氏に話を聞いた。日本製の服づくりを真摯に考え、その持続への熱い情熱をもつデザイナーの思いとはいかに?

Text by OPENERSPhoto by JAMANDFIX

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リターのデザイナー中野靖氏が語るこれからの日本の工場への熱きエール

──実際に被災した工場はありますか?

津波による被害を受けたところはありませんでした。うちがお願いしている工場はいわきなのですが、建物は地震で壊れたりしましたが、人的な被害はなかったのが幸いです。

──壊れた工場は稼働してないのですか?

稼働していません。そこにはいまはひともいないです。もともとお父さんとお母 さんと、あとパートのおばさんでやっているような小さなコート工場です。昔は大手のコートなども手がけていたような実力のある工場ですが、いまはリーマンショック後、海外への生産拠点の流出が深刻化されるなかで、ただでさえ厳しい環境下だっただけに心痛のいたりです。

──その方たちは避難をされているのですか?

いまは埼玉にいらっしゃいます。建物が倒壊してしまったので、ミシンなど機械を移して引っ越しされました。工場はけっこう海沿いでしたが、水には浸かっていないようです。いまのアパレルは、自然から生まれるものを取ることからはじまる産業ではありません。昔はそうだったとしても、織物屋さんだったらまず織機があって成り立つ仕事なんです。パソコンで仕事しているひととおなじで、それがあればどこでも仕事ができる世界。ですので、ミシンがあればどこでもできる。それが救いです。

ANSNAM|アンスナム 01

ANSNAM|アンスナム 02

──次のコレクションへの影響は?

正直なところ工場は、選ばなければほかにもあるというのはたしかです。原材料でいうなら、たとえば絹なら青森や新潟でもできるし代わりがあるんです。ですので、生産地においても問題はありません。問題はソフトというか、つくるひとです。ひとで大きくできが変わるのです。うちもジャケットをつくるのに5回工場変えているくらいです。その意味で被害にあい、埼玉に越されたのはお気の毒ですが、信頼できる職人とミシンがそこにあるのは、僕にとってはとても大きな意味があります。

──これからも職人さんたちをサポートしていきますか?

もちろんリターというブランドをつづけていますので、そのつもりです。つくる場所はとくに問題ではなくて、大切なのはひととそれをつくる機械をもっていることだと思っています。いまは各社が競争してお金を稼ぐというシステムになっていますが、どこかが弱くなったからどこかがカバーして連携をとる、そんなうまい日本チームとしてアパレル業界全体を盛り上げていけないのかと思います。ですが、なかなかそうならない。この矛盾をどう解決したらいいんだろうって、この震災後とくにつよく思っています。

──これから目指すことはなんでしょう?

たとえば取引先の浜松の工場には織機が5台しかありません。それをオーバーする受注量になったら、そこは近所の知り合いの織機を借りるらしいです。すると一緒にあがってくる。僕はほかをつぶしあう仕事じゃなくて、みんながちょっとずつ控え目になって、どっかが引率してくれるやり方もいいかなと思います。うちのリターのシステムと考え方の根っこは一緒です。最初ちょっと救いの手を出してあげることで、「じゃあ、みんなでやろうよ」となり、みんなでカバーしあえる。そのタイミングをつくるのが、リターのいまの使命だと考えています。

地震、震災、原発事故……。いま、われわれは苦しい状況に立っていることは確かだ。アパレル業界も打撃を受けていることはまちがいない。だが、中野氏は前しか見ていない。なぜなら中野氏は服がとことん好きなのだ。われわれだってファッションが好きなことでは、負けてはいられない。ポジティブにお洒落を楽しむことが、経済を活性化し“復興”へと近づく一歩であることを願ってやまない。

注1:商社をとおさず、信頼関係にある工場とじかに取引。紡績、縫製、加工、付属品など製造サイドの工場にかんする詳細情報をブランドタグにすべて表明する。商品には多くのタグがつくことになるが、それに対し工場はサンプルの段階から生産者とし携わる。こうして先行投資のリスクをさげ、価格を引き下げる。つまり製作から消費までのすべてのレベルにおいて、利他主義をもたらす。リターとは利他に由来している。


中野 靖|NANANO Yasushi
アンスナム/リター デザイナー
2000年 エスモードジャポン メンズコース卒業。その後、さまざまな文化様式や伝統服飾に触れる目的で、のべ30カ国を巡る。帰国後、アパレルメーカーにてアシスタント、生産をつとめる。2005年に独立し、ANSNAM(アンスナム)を立ち上げる。翌年よりミラノ、パリでコレクションを発表。2009年より、新ブランドLYTHA(リター)を立ち上げる。自身でトロリーに自作の服を詰め、世界の有名ショップに売り込みにいったという経歴もある。

           
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