青木定治さん(3)夢は叶うか!?
青木定治さんにパリでの暮らしをうかがう(3)
~夢はかなうか !? ~
対談を通じてお菓子と仕事、パリという街にフォーカスしてきましたが、
シリーズ最終回は青木さんのプライベートについてお聞きします。青木さんの奥さまは、
元TBSの人気アナウンサーであり、現在もエッセイスト、TVキャスターとして活躍される雨宮塔子さん。
4才の紗綾ちゃんと2才の政哉くん、ふたりのお子さんに恵まれた青木家の家族模様、また、将来の「夢」とは?
構成と文=秦 大輔(City Writes)写真=Jamandfix
パリスタイルの子育ては自然体
松田 奥さまの雨宮塔子さんとの出会いもパリだったのですか。
青木 ええ。僕は彼女のアナウンサー時代をよく知らなかったのですが、彼女がお菓子教室を取材したいとうちへ来て、付き合いはそれからですね。
松田 じつはファンでした(笑)。いまお子さんがふたりいらっしゃいますよね。子育てで気を遣われていることはありますか。
青木 4才の女の子と2才の男の子がいます。子どもって親が1から10まで教えるものではなくて、自分で学ぶものだと思うんですね。魅力のある世界にさえ置いてあげれば、あとは自分で吸収する。だから親としてその世界を用意してあげたい。“自分もそれで学んだ”と奥さんにいったら「あなたより出来がいいんだから、いっしょにしないでよ」といわれましたが(笑)
レストランへ行くにも、映画館へ行くにも、子どもだからとベビーシッターに預けるのではなく、できる限りいっしょに連れていくようにしています。
街を歩くにしても、いつまでも子どもを両親で挟んで手をつないでいるのではなく、夫婦は夫婦で手をつないで歩き、姉弟は姉弟で手をつないで歩く、それが自然なことのように思います。おなじ時間を共有しながら、大人の時間の過ごし方も同時に見せようと。
松田 それは、素晴らしい考え方だと思います。
青木 そういえば先日、幼稚園の先生に「子どもほどいい靴を履かせてください。スニーカーで歩くことに慣れるとO脚になりますよ」といわれまして、仕方なくボンポワン(※フランスの高級子供服ブランド)に革靴を買いに行きました。
松田 ボンポワン! 値段、高いですよね(笑)。
青木 高いです(笑)。ただ、きちんとした靴を早いうちから履かせて、もし痛ければ歩き方が曲がっているんだよ、歩くときは引きずらずに足を上げなさいというのを教えるのは理にかなっていますよね。
フランス人は靴に対する意識がきちんとしている気がします。僕も昔「どんなにショボい格好でも靴だけは綺麗にしておけ」とお菓子屋の旦那にいわれたことがあります。
そういえば先日、ジャガーのクラシックカーに乗ってホテルへ食事に行ったんですね。そうしたらクルマから降りた瞬間に、クルマとジョン ロブの靴のふたつを褒められました(笑)。
松田 ありがとうございます。
青木 いい靴を履くようになってからというもの、人に見られているという意識が出てきました。20年もお菓子づくりに没頭してきたので、新しい何かを知るというのはエキサイティングなことですね。
以前、J-WAVEの葉加瀬太郎さんのラジオ番組にゲストで招いていただいたのですが、葉加瀬さんが打ち合わせのときに一所懸命、僕の好きな音楽とか美術とかを引っ張り出そうとしたんです。でも知ったかぶるつもりもないので、「ぜんぜんわかりません。だけど、好きな小麦粉なら語れます」とお答えしました(笑)。葉加瀬さんはそれでは自分が分からないと困っていましたが(笑)。
いろいろなスペシャリティをもった友人知人が増えてきたのはうれしい。そういう人の輪に入れたのだから、お菓子バカで本当に良かったと思います。
松田 大切な方への粋な贈り物について皆さまにお聞きしているのですが、青木さんはどんなものを贈られますか。
青木 僕の場合はやはり食べ物。その方の好きなフルーツを乾燥させたものを練り込んだ、スペシャルなフルーツケーキを贈りますね。
フルーツケーキは僕の出発点でもあり、代表作ですから、いつかはトラヤの羊羹ではなく、アオキのフルーツケーキが“菓子折りもってお詫びに”……の定番になることを目指しています(笑)。
目的はかなうもの。夢はかなうか分からないもの
松田 青木さんは以前からニューヨークへ進出したいというお話をされていますよね。最後にお聞きしますが、それは青木さんにとっての「夢」でしょうか。
青木 本当は20年くらいでパリのお菓子づくりのすべてを学び、それからニューヨークへ打って出ようと思っていたのですが、こんなにも20年があっという間だったのは計算外でした。やればやるほどパリという街とそのお菓子にハマっていくので、これだと永遠にニューヨークには行けないんじゃないかと思うこともあります。ただ、いつかは必ず行きます。それは、夢ではなくひとつの目標です。
夢は、自分でかなえようとしてもかなわないもの。僕は、自分が70、80才のおじいちゃんになったときに、自分が中心になって孫までずらりと並んでいるファミリー写真が撮りたい。イタリアの大家族のような家族を築きたい。夢を挙げるとするならそれですね。そのためにビジネスだけでなく、もっと家族を大切にしたいと思っています。
松田 今日はありがとうございました。
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