1足目&2足目
いよいよスタートする重松 理さんの「400足の足跡」。ファッションに目覚めた10代から、大学卒業後、原宿をベースに、若者のファッション文化をつくり、発信し、さらに新しい日本の生活と文化の進化と発展を目指したユナイテッドアローズを創業。そして代表取締役会長職の現在まで、実際に履いてきた靴は400余。そのほとんどを現在も所有しているという重松さんの一大「靴」連載。
靴をベースに、ファッション人生も織り交ぜながら、特上の“モノと私”のストーリーをお楽しみください。では、1/400は、「今いちばんお気に入り」の靴から……。
#1 今いちばん気に入っている靴
GUILD/2006
ギルド・オブ・クラフツを主宰する山口千尋さんにお願いした一足です。彼とは初めてのビスポークでしたが、仮縫いのときにちょっと話をしただけで、とても満足できる出来映えになりました。つい2、3ヵ月前の最近の靴です。
僕は海外などでもいろいろ靴をつくってきましたが、製法上のクオリティはもちろん、客の好みのつかみ方や、最終的なフィニッシングを含めて、とても気に入っています。今いちばんの靴ですね。大学を卒業してずっと洋服屋なので、スタイルは紆余曲折してきましたが、この8年ぐらいはロングノーズのエレガントな靴が好きです。
着こなしの基本はジャケットスタイルですが、昔のようにブルージーンズにこの手の靴を履くという意識は今はまったくありませんね。靴下のセレクトは2通りあって、靴の色に合わせるか、スーツの色に合わせるかですが、最近は靴の色に合わせることが多いです。
自分の外見的スタイルをつくる衣服・靴という部分での完成されたものと思っているのは、30年代、40年代のウインザー公であったり、彼に影響を受けたハリウッドスターのスタイルです。
そのスタイルの足元に最高なのは、ロンドンのジョン・ロブのビスポークで、幅が狭く非常に細くきれいな貴族的な靴。それが私なりのエレガントの最高峰、理想です。
(2006年/価格は38万円+木型代別)
#2 全然売れなかったのも思い出です
CIKIU/1996
山口千尋さんがロンドンから帰られたときに、彼がユニオンロイヤルと監修した靴を見せてもらって、ユナイテッドアローズの「束矢」ブランドのオリジナルに加えたのが、山口さんとのお付き合いのきっかけでした。原宿本店はオープンしていましたから、10年ぐらい前でしょうか。
これは“Since1952 handcraft ENGLAND”の「CIKIU」と「束矢」のダブルネームで、製法はセメントかマッケイです。70年代調のストラップ使いですが、70年代にはなかったバランスで、センターシームもかなり先取りしたデザインでした。素材はゴートスキンで、独特な味があります。
94年頃に「束矢」をスタートさせたときのコンセプトが、60年代のサンジェルマン・ルックでした。パリのサンジェルマンを中心に集う若者のファッション、サンローランやレノマを好んで着ていた人たちが履いていたであろう靴の60年代後半から70年代にかけてのデザイン傾向を再現したのが「CIKIU」というシリーズで、自分が大学に入った頃のものなので、懐かしかったですね。
96年頃はクラシコイタリアの全盛期にかかる頃で、次に来る大きな流れとしてサンジェルマン・スタイルを考えていて、ジャケットならコンケープしたスクエアショルダーの細身に移行するだろうという予測もあって、「束矢」でこの靴を出したんですが、全然売れなかったですね(笑)、思い出深いほど。店頭にあっても他の商品と脈略がないから、お客さんにはまったく理解されずに(笑)売れませんでした。
当時は、「束矢」の肩幅が狭く、ボタン位置がかなり上で、アンバランスな面白い形をした着丈の長いジャケットに、太いバギーパンツを合わせてこの靴を履いていましたね。
(1996年/価格は当時3万2000円)