(1)バカラ パシフィック 小川 博さん「趣味人の粋」
バカラ パシフィック社長 小川 博さんと語る
(1) 趣味人の粋
世界最高峰のクリスタルガラス製品を扱うブランド「バカラ」。そのバカラ パシフィック代表取締役社長である小川 博さんは、世界初の直営バー“B bar”を創案、設立するなど、斬新なクリエイションと実行力を兼ね備えた経営者として広く知られています。
松田智沖が経営者としても男性としても尊敬する人生の先輩に、趣味の話、ビジネスの話、靴、お酒の話などを深くうかがいました。
edit by Daisuke Hata (City Writes)photo by jamandfix
クリエイションには 「自己解放」 が必要だ
松田智沖 小川社長は多趣味でいらっしゃいますよね。シガーに、男の料理に、それから陶芸、オペラ……。
小川 博 今は陶芸とオペラに特に傾倒していますね。陶芸はちゃんと始めてから6年目。最初の頃は知らない者の怖さで、どんどんどんどん作品をつくれたのですが、すると途中で芸術の壁みたいなものにぶち当たる。クリエイションがなくなってしまうんですよ。それが今は、何をすればいいのかわからないのを突き抜けて、これだ! というものを作れるようになった。
自分の描いたものが作品になるというのはすごく楽しい。それは仕事でも同じで、店舗や新しい商品をつくっていく作業というのは私にとってすごく楽しいですね。
松田 陶芸作品をつくる際、何か大切にされていることはあるのでしょうか。
小川 先日、NHKの番組で楽焼のつくり手が特集されていたんですね。その人は 「楽」 という伝統を受け継ぎながらも、ものすごく新しい感覚でつくっていた。そんな姿を見ていると、素人で、まだ始めたばかりの私が陶芸のつくり方に縛られるのはよくない気がしたんです。自己解放が大切なんじゃないかと。
松田 自己解放ですか。
小川 ええ。今、陶芸をやっている仲間に外国の方が3人ほどいるのですが、彼らは陶芸なんてもちろん初めての経験ですし、粘土すらいじったことがなかったかもしれない。
ところが 「こんなものをつくるのか」 と舌を巻いてしまうようなものをつくってしまうんです。
陶芸の技術云々ではなくて、クリエイションや楽しさといったものが作品から滲み出ている。彼らにとっては他人がどんなものをつくっているかなんて関係のないことで、自分の表現したいものを表現したいようにつくっている、まさに自己解放です。
オペラと会社には共通点がある
松田 オペラの方はいかがですか?
小川 私にとってオペラを観るというのは薬のようなもので、リフレッシュの手段でもあります。
いいオペラは、町の通行人からその他大勢の脇役たちまでもが、大切な役割を演じているんです。トータルでの立ち位置や衣装のバランス、そして立ち居振る舞い、これを観ていると本当に素晴らしい絵画だと思うときがある。さらに彼らが歌うわけじゃないですか。町の通行人もこれに参加し、それが美しいハーモニーを生む。
この構図は会社にも当てはまるような気がします。うちでいうと、もしかしたら指揮者が私であって、劇場主は株主かもしれませんね。指揮がダメだと言われたら下ろされちゃうんだけど (笑)、今は指名されてやっているからオーケストラを集め、配役まで決めて公演している。その際、全員がオペラのスターになることはありえないのですが、町の通行人までもが頑張って主役たちを引き立ててくれないと、決して完成したオペラにならない。
誰が通行人だとは言えないけれど、誰しもに役目がある。主役を任される人間はスポットライトを浴びる立場だけれども、その分、成果を上げなければならないプレッシャーにも耐えてもらわないといけない。私はタクトを振ってすべてをマネージメントする。
これらを評価するのはオーディエンス、つまりお客さまであり、劇場の二階席から眺めている劇場主=株主というわけです。もちろんオペラを観るときに会社のことなんて考えませんが (笑)。
松田 昨年、エルメスの銀座店がリニューアルしたときにパーティが催されたんですね (※松田はエルメスジャポン出身)。エルメスは自分の家に大切なお客さまを招くというコンセプトで店づくりをしているもので、そのときにスタッフが何かおもてなしをしようという話になりました。
それで、実は作曲家の三枝成彰さんに指導をお願いして “スタッフ全員で歌を歌おう” という話になり、スタッフは閉店後に猛練習しましてね。でも途中で 「そんな恥ずかしいものエルメスとして出せない」 と三枝さんが怒ってしまった。三枝さん特有のポーズだったのかもしれませんけれど (笑)、スタッフはその言葉に感化されてさらに練習を積んで。ありふれた表現かもしれませんが、本番ではアットホームな雰囲気のなかで素晴らしいものが披露されていました。
小川 素晴らしい。そういうのがエルメスの文化なのかもしれませんね。
ところで三枝さんが立ち上げた六本木男声合唱団があるじゃないですか。もともとは六本木元美少年合唱団という名前だったのですが (笑)、ご存じのとおり政界や芸能界をはじめ各界で活躍される方を集めた合唱団なんですね。このあいだ久しぶりにモナコの会で公演を聴いたんですよ。俳優の奥田瑛二さんや民主党の羽田 孜さんら総勢100人くらいでしょうか、もう鳥肌が立ちました。すごい上手で。でも皆さんお忙しい方ばかりじゃないですか。三枝さんは 「継続は力だよね」 とおっしゃってましたが。
三枝さんの指導でエルメスの方が歌ったとなれば、それは素晴らしいものになったでしょう。
Profile
バカラ パシフィック株式会社 代表取締役社長
小川 博さん
1948年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。'70年エッソ石油(現エクソン) 入社。'83年バカラ パシフィック設立に参加し、代表取締役常務などを経て'94年から現職へ就任。シンガポール法人の代表、米国法人の取締役も兼務する。
'97年にはフランス政府より、国家功労賞シュバリエを受賞。
Baccarat Shop Marunouchi バカラショップ 丸の内
千代田区丸の内3-1-1 国際ビル1F
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平日10:00~20:00 土日祝11:00~20:00
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B bar Marunouchi
(バカラショップ 丸の内地下)
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平日・土16:00~翌4:00 日祝休
information
2007.7.14(土)~8.31(金)限定
Baccarat × 森美術館
B bar Roppongi 限定 オリジナルカクテル
『ルミエール・ド・ロンシャン』
9月24日まで森美術館で開催中の「ル・コルビュジエ展:建築とアート、その創造の軌跡」と、バカラ直営Bar「B bar Roppongi」がコラボレーションし、期間限定で、B bar オリジナルカクテル『ルミエール・ド・ロンシャン』を提供中。
フランスが誇る建築の巨匠ル・コルビュジエへのオマージュを込め、
彼の好んだ南仏のお酒、パスティスと代表的な宗教建築「ロンシャンの礼拝堂」の白と輝きをイメージし、夏にぴったりのカクテルを創作した。価格は3,000円(税込)
B bar Roppongi
東京都港区六本木6-12-1 六本木ヒルズ 六本木けやき坂通り
TEL 03-5414-2907
Open: Mon-Sat 16:00-28:00
Sun/Holidays 16:00-24:00