(2)バカラ パシフィック 小川 博さん「伝統とこれから」
Fashion
2015年5月14日

(2)バカラ パシフィック 小川 博さん「伝統とこれから」

バカラ パシフィック社長 小川 博さんと語る

(2) 伝統とこれから

第1回では主に小川社長の趣味のお話を伺いましたが、今回は「バカラ」というブランドについてお聞きします。大きな歴史を背負いながら、さらに進化を続ける“老舗”の魅力について迫ります。

edit by Daisuke Hata (City Writes)Photo by JAMANDFIX

モダニティ ・ ウィズ ・ ルーツ

松田智沖 いまどんなブランドでも言われていることだと思うのですが、“伝統と革新” の両立が大切だとされていますよね。「バカラ」も伝統あるブランドである一方で、たとえばフィリップ・スタルクをデザイナーに起用したりと斬新なことをされています。小川社長はそのあたりどのようにお考えですか。

小川 博 モダニティというのがひとつのキーワードだと思うんですね。私は企業にとっての最大の目的は「存続し続けること」だと思うんですよ。存続し続けるということは、株主に対してきちんとコントリビュートしていくこと、そして会社を支えている従業員に支持されること、最後に社会から認知され支持され続けることです。

バカラのことを240年の伝統と歴史あるブランドとみなさまおっしゃってくださりますが、私は完全に近代性こそがバカラなのだと思っています。近代性を求め続けてきたからこそ、株主にも従業員にも社会からも支持され継続できたのだと。

これは私の造語なのですが、“modernity with roots”、ルーツのあるモダニティこそが大切なんです。モダニティだけでも飽きられてしまうし、ルーツに固執するばかりでも新しいものをメッセージとして発せられない。

それから、卑近な表現ですが今日のコンシューマーに対しては 「お父さんお母さんのブランド」 ではなく 「私のブランド」 と思われないとダメなんですね。いくつかのブランドはおじいちゃんおばあちゃんのブランドになってしまっている。

ジョン ロブと同様に、バカラには大きな歴史があります。だからこそ “モダニティを追求しなさい” というのが私のやってきたオペレーションなんです。

たとえば1998年から99年にかけて、日本の4つの美術館で、バカラのミュージアムから400数点の歴史的な逸品をもってきて 「永遠のきらめき バカラ展」 という美術展をやったんですね。そのとき美術館の担当の方とお話したのが、過去を過去としてみせたくない、未来へのメッセージとして発信したいということでした。だからベルサイユ宮殿のような絢爛なインテリアではなく、ものすごくモダンで洗練されたインテリアをクリスチャン・ビシェールという建築家につくっていただき、会場のセッティングをしたんですね。ダイレクトメールひとつにしてもモダニティを追求しました。

ちなみに今日胸に挿しているワイングラスをモチーフにしたラペルピンは 『アルクール』 というシリーズのもので、このデザインというのは166年前にあったものなんですよ。それが今でもベストセラーとして残っているということは、それだけ未来を見据えたデザインだったといえます。ケリーバッグも然りですね。

コンシューマーにとっての製品価値

松田 日本人は物に対する文化を重んじる国ですよね。物に対する付加価値として、物に宿る精神性を大切にする。ブランド主義というような言い方もされますけど、いい物に対しての認識は非常にしっかりした国だと思います。

小川 同感ですね。各ブランドにもコアの部分を理解されているコンシューマーが必ずいると思います。ジョン ロブはまさに良さを理解してくださるお客さまに支えられたブランドだと思います。そういうお客さまがいるのは強いですよね。

松田 本当にありがたいことです。

小川 そして新しいお客さまには、最初の一足をいかに履いていただくかが勝負。

松田 ジョン ロブはクラシックなものが非常に多くて、2004年くらいまでは新作をシーズン2型くらいしか発表していなかったんですね。それが2005年から毎シーズン、10型ずつくらい発表するようになりました。一部のお客さまからは新しいものはジョン ロブらしくないといわれることもあるのですが、もちろん継続してきたクラシックなものも柱としてあるわけでして。私はそのバランスが大切だと思っています。

──バカラには最近、光の魔術師とも称されるアリック・レヴィ氏がデザイナーに起用されましたが、そのことによってバカラの変化を感じますか?

小川 ええ、ただデザイナーが変わればもちろんテイストの変化が生じるわけですが、その変化によってブランド自体が変わるほどバカラのルーツは浅くない、というのが私の理論なんですね。だからテイストが変わったのではなく、新しいモノが増えたという認識です。

アリック・レヴィが素晴らしいのは、デザイナーでありながら自分のデザインをただ押しつけるのではなくて、バカラの工場に長いこと入り、その製法を詳細に学んだところにあります。クリスタルガラスは手仕事で、それ以上に非常に特殊なプロダクトなので、細工の工程ひとつひとつがコストに影響します。お客さまからすれば、どうしてこんなにも高いんだと思うようなものもある。だから彼は、「コンシューマーに伝わらないような分かりづらい細工が価格に反映されても、物としてのバリューはないんじゃないか」 という結論を導いたんです。そしてそれを自身のデザインにもマッチさせ、リーズナブルな価格に抑えた。

松田 ふつうのデザイナーにはできないことですね。

Profile
バカラ パシフィック株式会社 代表取締役社長
小川 博さん
1948年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。'70年エッソ石油(現エクソン) 入社。'83年バカラ パシフィック設立に参加し、代表取締役常務などを経て'94年から現職へ就任。シンガポール法人の代表、米国法人の取締役も兼務する。
'97年にはフランス政府より、国家功労賞シュバリエを受賞。

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