第2回 ジュエリーが秘めた無限の可能性
nineSIXty 加藤博照
第2回 ジュエリーが秘めた無限の可能性
文=佐藤太志(グリンゴ)写真=鵜沢ケイ
試行錯誤の積み重ねで生まれた作品の数々
nine SIXtyはすべてオーダーメイドなので、ご注文される方が望む形に合わせ、ディテールからひとつひとつ作りこんでいきます。ウェブからご注文いただく場合は、レザーの種類やステッチのカラー、中にはめる鉱物を選んでもらうのが基本的な流れですが、お客さんと直接お会いして注文をうかがう場合は、その人自身のファッション観や、どんな音楽が好きかなど、パーソナリティーも考慮して、デザインに落とし込んでいくようにしています。
たとえばリングのサイドステッチの太さや間隔を変えてみたり、鉱物がはまっているリングのフェイス部分の大きさを変えてみたりと様々なので、たとえ同じカラーリングや鉱物を選ばれたとしても、同じものは2つとない、世界にたったひとつだけのデザインなんです。オーダーの選択の幅を広げるため、常に素材や作り方において新しい可能性を模索し続けることが日課になっていますね。
絵を描くのは実は苦手なんですが、作りたいものについては、はっきりとした3Dとして、立体的なイメージが頭の中に明確にあります。現実のジュエリーの形をいかに理想に近づけていくか、試行錯誤を積み重ねていく。その際は、ひとつの見方や考え方にとらわれることなく、いろいろな角度から自由にイメージしていくように心がけています。アクセサリーやデザインというフィールドだけじゃなく、たとえば映像や言葉、いろんなものに置き換えてもいいと思うんです。ジュエリーにはもともと決まった形というものがありません。なにものにも縛られない、あるがままの美しさを追求していくことが大切だと考えています。ジュエリーはどんな形にもなりえるし、無限の可能性を秘めています。それが自分にとってはものすごく面白いんです。
nine SIXtyの代表的なモデルをいくつかご紹介したいと思います。まずはフルスターというモデル。楕円形のフェイス部分に星のレリーフを刻み込み、ダイヤなどの鉱物をその中にはめ込んだりもできるデザインです。ベースにはローズゴールドやシルバーなどが選べます。変形版として、スターが大きなバージョンもあります。鉱物をチェスカットしたモデルは06年から始めた新作。オニキスやターコイズなどを素材として使い、多面的な光の反射が美しいモデルです。光らせるのにとても苦労した作品ですね。
lucien pellat-finet初のジュエリーを手がける
nine SIXtyの人気デザインのひとつが、ルシアン・ペラフィネのスカルをのせたモデル。04年、ルシアン・ペラフィネがパリコレ10年目にして初のジュエリーラインを打ち出したいということで、ルシアン・ペラフィネ氏の来日に合わせてお会いすることに。ルシアン・ペラフィネ氏に会ったときに、スカルのイメージで作り上げたリングを見せたところ、非常に気に入られた様子。ひとつひとつハンドメイドで製作しているものなので、数はこなせないということをご了承いただき、ルシアン・ペラフィネの路面店で販売するリングも私が製作することになりました。
フランスからスカルの画像データを送ってもらい、ジュエリーにしたときにもっとも良いフォルムになるよう、自分なりに細かな調整を加えました。もともと私自身は、スカルというモチーフがちょっと無骨なイメージが強すぎて得意ではなかったんですが、ルシアン・ペラフィネのスカルは柔和で繊細な表情をしていて、好きになったんです。私自身にとっても、ルシアン・ペラフィネと一緒に仕事ができたことは、とても素晴らしい出会いでした。
そして、ルシアン・ペラフィネ氏本人よりネーミングを頂きました。
nine SIXty for lucien pellat-finet 私にとって大切な宝物の一つです。
そして、いまいちばん力を入れて製作しているのが、シルバーのバングルです。スタイリストの樋田さんと何気なく会話していて生まれたデザインが現実になったもので、シルバーにステッチをほどこすという前代未聞のディテールにチャレンジしています。さすがにこれは不可能だろうと思っていたんですが、1カ月かけてようやくここまで形になりました。今後は軽量化を進めて、より洗練されたデザインへと昇華していきたいですね。
次回は私が今もっとも気になるデザイナーであり、私の奥さんでもある吉川あずささんにご登場いただきたいと思います。