list|FPM 田中知之がファッションをリミックス? あらたなファッションのプラットフォーム「list」誕生
list|リストFPMこと、田中知之がファッションをリミックス?
うあらたなファッションのプラットフォーム「list」誕生(1)
世界的に活躍する、FPMこと田中知之、デニムブランド「FULLCOUNT(フルカウント)」デザイナーの辻田幹晴、日本屈指のヴィンテージディーラーである出村淳也という3人の“ファウンダー”によるファッションブランド「list(リスト)」が、この春夏シーズンよりスタートした。まったく異なる背景をもつ3人が、文化的遺産ともいえるヴィンテージウェアを再解釈。これまでにない“ストーリーのあるファッション”を提案する。そのこだわりのモノ作りについて、3人を代表して田中知之氏に話を聞いた。
Text by FUJITA Mayu(OPENERS)Photographs by TAKADA Midzuho
過去の価値感を“いま”に置き換える、まるでDJのようなモノ作り
――「list」とはどういったブランドでしょう?
数あるファッションブランドのなかでも、「list」にしかないおもしろさといったら、膨大なヴィンテージのアーカイブのなかからデザインソースを選び出し、現代的に再解釈している点でしょう。ただヴィンテージのデザインをそのまま復刻するだけならこれまでにも数多く提案されてきたと思いますが、僕らはデザインを現代的に再構築し、さらにソースとなったヴィンテージアイテムの時代背景やデザインの意味まで伝える、“うんちく”のあるモノ作りにこだわっています。ただファッションとしてかっこいいというだけでなく、デザインやモチーフの背景にあるストーリーまでデザインのひとつなんです。
――なぜこの3人だったのでしょう?
もともとデニムブランド「フルカウント」の辻田幹晴さんと僕は旧知の仲なんですが、去年の夏頃に「フルカウント」のスペシャルラインの制作のお手伝いをさせてもらうことになったんです。その企画段階で、お互いヴィンテージ好きが高じて話がだんだん大きくなり、「フルカウント」の別ラインという枠では収まりきらず、まったく別のブランド「List」を立ち上げることになったんです。出村淳也さんは富山にある「Hayabusa Cat Clother(ハヤブサ キャット クローザー)」というハイエンドなヴィンテージウェアを扱うディーラーなんですが、田中凛太郎さんが主催する、ロサンゼルスでおこなわれるヴィンテージウェアのイベントで知り合いました。よくよく話を聞いたらおなじ京都の、しかも後輩で(笑)。
僕も辻田さんもヴィンテージについてある程度知識はあるものの、より深い知識をもつ出村さんが参加してくれればデザインの幅も広がるし、厚みも増す。3人だったらおもしろい化学変化が起きるのでは、と思ったんです。でも彼はヴィンテージ一筋でやってきた男ですから、あたらしいモノ作りには興味ないかなって思ってたんですけど、意外にも、じつはずっと興味があったと快く受けてくれて。こうして3人ではじめることになったんです。
MILOS
価格|7245円
美の象徴として名高い彫刻、ミロのヴィーナス。宇宙空間でもっとも美しい数値だと考えられる黄金比によるバランスで作られており、両腕を失った不完全な状態で発見されたにも関わらず、その美しさに人びとは魅了される。これまで欠けた両腕を復元しようと古今東西のアーティストや学者が試みているが、正解を導いた者はいない。いまなお発見されていないヴィーナスの断片を探し出す、あるいは想像することと、「list」がおこなうクリエイトは通じることがある、と考え、ミロのヴィーナスをブランドのアイコンに起用。ファーストシーズンとなる今季は、このブランドアイコンをフィーチャーしたアイテムを多数制作している。
――自分たちのことを“デザイナー”ではなく“ファンダー”と称する理由は?
“ファウンダー”とは、いわゆる会社の設立者って意味ですよね。でも“ファウンド=物を見つける”の意味もあるなっておもったんです。たとえばサンプリングする元ネタを見つけることもファウンドだし、おもしろいコラボレーターを見つけることもそう。クリエイトするって、見つけることからはじまると思うんです。僕の場合、DJという音楽活動がまさにそれで、過去の音源のなかからいまの気分に合う楽曲を見つけるのもそうですし、過去の音源の一節をサンプリングすることで現代的な音楽に置き換えたり。たとえば1920年代の音源と70年代の音源を2012年のテクノやハウスに落とし込んで、お客さんにとって新鮮な“いま”の音楽として楽しんでもらう、とか。過去の財産ともいうべきデザインや価値観を現代風に置き換える「list」のモノ作りは、音楽でトライしているクリエイトの考え方や方法と基本的には変わらないんです。
――DJがあらゆる年代の音楽を知っているように、デザインも知識が多ければ多いほど広がりがありますよね。
サンプリングソースを見つけてくる先であったり、入手の方法だったり、出村さんは僕らよりもはるかに多くを見てきたぶん、そういう部分で断然強い。また辻田さんはアメカジブランドを20年間やってきたなかで培ったテクニックや生産背景があったり。「list」というひとつのプラットフォームで、それぞれがアイデアを出し合って、ブランドとしてモノをクリエイトしていく、それが「List」なんです。
テーマは“SPEED”! アメリカのカウンターカルチャーをフィーチャー
――ファーストシーズンのテーマとは?
今季は“SPEED”をテーマに、1930、40年代頃から起こるホットロッドやMC(Motercycle)といった、アメリカのカウンターカルチャーをモチーフにしています。ホットロッドとは要するに、超巨大エンジンを積んだオールドファッションなボディのクルマでスピードを競うというもので、MCは、アウトローなバイク乗りという感じでしょうか。どちらも男の憧れですよね。そうした憧れを、たんにファッションとしてスタイルだけ伝えるのではなく、カルチャーとして提案したいというのが「list」のこだわりです。
――たとえばどういった部分でしょう?
たとえば、「0.1%er」と書かれたTシャツですが、60年代末頃、アメリカではアウトローなバイク乗りたちが社会問題になったんです。そのときバイク協会の代表者が、「99パーセントのライダーは善良です。本当に悪いバイカーは1パーセントなです」といったコメントを発表したんです。そこで当時のアウトローなバイカーたちはそれを逆手にとり、「自分たちはその1パーセント、“1%er”だ!」といって菱形の図形のなかに“1%er”と書かれたカラーズ(パッチ)をライダースジャケットの胸につけて走ったんです。この“1%er”のモチーフをソースに、“0.1%er”と、さらにワルくするという遊び心を効かせつつ(笑)、デザインしています。
「GHOST」
価格|7245円
フロントに“0.1%er”と描かれたTシャツのバックには、ゴーストライダーの後ろ姿をプリント。当時“1%er”たちが着ていたMCジャケットに付いていたカラーズには1枚1枚意味がある。カラーズは日本でいうヤクザの代紋のようなもの。バイクチームに入ると何年もの見習い期間を通じてトップロッカー、ボトムロッカー、ロゴと、段階的にカラーズが支給されるが、脱退するとき、またはライダーが亡くなったときにはチームに返納するという規約があった。ここに描かれたゴーストライダーのジャケットは、彼が亡くなっている証に、すべてのカラーズがはがされた跡だけが残っている。
――シーズンを代表するアイテムは?
まずシーズンテーマである“SPEED”という文字をモチーフにしたアイテムです。この文字はすべて、1940年代から70年代に発行されたホットロッドの専門誌『ホットロッドマガジン』に掲載されていた“SPEED”の文字を厳選し、コラージュしています。当時はいまのようにパソコンではありませんから、ひとつひとつ手書きで書かれているため、それぞれ味があるんですよね。それから特別なヴィンテージのモチーフを使ったスカジャンも作りました。
当時、スカルのモチーフというのは珍しく、今回、出村さんがなんと159万円で売却したという非常に貴重なスカジャンに描かれていたスカルのモチーフを使用しました。そのスカジャンを購入されたコレクターの方からわざわざ現物をお借りして、オリジナルの刺繍とまったくおなじ刺繍で柄を再現してもらっています。1着8万針、仕上げるのに24時間かかる代物です。
「和ドクロ」
価格|8万2950円
もともと朝鮮戦争のため横須賀に駐留した米兵へのお土産として作られるようになったスカジャン。なかでもスカルモチーフは人気が高く、また現存数も少ないことからヴィンテージ市場ではつねに高値で取引されている。今回ソースに選んだモチーフは数あるスカルのなかでも大変希少なもので、コレクターのあいだで“和ドクロ”と呼ばれる逸品中の逸品。“和ドクロ”と呼ばれる由来は、西洋のスカルモチーフをあまり見たことがなかった当時の日本人が、浮世絵などに描かれる髑髏をモチーフにしたとしか思えない独特なスカルの表情に由来する。
シルエットはすっきりと現代風にアレンジしています。また、シンプルな黒のサテン地とのリバーシブルにすることで、デイリーに着られるアイテムに仕上げました。脱ぐと裏地にスカルが描かれている、というね。ワードローブとしてスカジャンを取り入れるのはむずかしくても、この貴重な絵柄は所有したい、という想いに応える、洋服好きにはうれしい作りになっているのではないでしょうか。
また、ヴィンテージのスカジャンのネガティブな点……たとえば、洗濯できない、ファスナーが壊れやすい、リブの虫食い、シルクの糸が経年劣化でほどけるなど、耐久面の欠点は素材を厳選することでカバー。根本的な機能性については現代的にアップデイトすることも、「list」のこだわりです。自分が本当にかっこいいと思える、究極のスカジャンを作ろうということからはじまった思い入れのあるアイテムです。
「フルカウント」にはない、「list」らしい遊び心のあるデニム
――さすが、デニムのアイテムも豊富ですね。
ご存知の通り、辻田さんは1930、40年代当時のデニムを再現する、という挑戦を20年かけてやってきた、世界中のデニムマニアを唸らせるトップメーカーです。細かなディテールはもちろん、当時のデニムとおなじ色落ちをするデニムを作るには、なんといっても素材がキーとなります。当時のデニムは手摘みのオーガニックコットンを使用していたわけですが、そこで彼は世界中を探し、ジンバブエに理想的なコットン農園を見つけました。以来、ジンバブエのオーガニックコットンにこだわり、より当時のデニムに近い製品作りを追求しているんですね。
その完成度の高さといったら、ヴィンテージの大家のような出村さんが、まさかと思ってはいて「恐れ入りました」と唸ったほど。そんな彼の作り上げたデニム地を使って、「list」ではどんな提案ができるだろう? と考えた時、「フルカウント」ではできないような、「list」らしい遊び心のあるデザインだと思ったんです。そこでまずトライしたのが、パーツからなにから細かなディテールのすべてが左右対称、鏡に映したような状態にデザインされたデニムです。一見するとわからない、でもよく見るとすごく遊んでいる、ヒネリの効いた「list」らしいアイテムといえるでしょう。
「ピエロパンツ」
価格|3万345円
アメリカではポピュラーな競技、ロデオ。危険を伴うロデオ大会には必ずピエロがいた。デフォルメされたブカブカでユニークなボトムスをはいた彼らは、協議の合間にお客さんを楽しませたり、ライダーたちの安全を守る重要な役目を担っていたのだ。そんなピエロのボトムスをデザインソースとしたデニムは、もちろんジンバブエコットン100パーセント。はき込むことで色落ちし、味の出るデニム地とともに、ステッチ糸も褪色するようにわざと堅牢度の低い綿糸を使用。この綿糸は原料にエジプト綿(超長綿)を使っているため、耐久性の高さも保たれている。
また、いわゆるサルエルパンツと呼ばれる、股上の深いデニムは通称“ピエロパンツ”。ユニークなシルエットで思いっきり遊んだデニムです。1950年代、ロデオ大会がアメリカで盛んにおこなわれていたころ、大会会場には必ず“ロデオ クラウン”と呼ばれるピエロがいました。ロデオといえばカウボーイの文化であり、またデニムとはカウボーイがはくものでしょう? 当然、こうした大会にはデニムブランドがスポサーのようなカタチで関わっていたんですね。ピエロたちはスポンサーであるブランドのアドバタイジングがプリントされたブカブカのボトムスをはき、お客さんの前に立っていたわけです。ユニークなシルエットですが、ただおもしろいだけでなく、ちゃんと歴史のあるシルエットなんですよ。
――アイテムを通じて学ぶことで、さらにヴィンテージへの興味が沸きますね!
教えてあげるとか偉そうなことを言うつもりはまったくないんですけど(笑)。ただ、ショッピングがエンタテイメントだとするなら、ひとつのアイテムのサイドストーリー、ビハインドストーリーまで一緒に届けるべきなのかな、と思うんです。「list」は僕ら3人ではじめたブランドですけど、各方面で活躍している友人や、はたまた未知のクリエイターだったり、いろんなひとが集まってモノ作りができる場所──自由に“List up”されたそれぞれのアイデアをカタチにする、「list」というプラットフォームになっていければいいなと思っています。
――ありがとうございました。