misa harada|テーマは“旅” 2012春夏コレクション到着!
misa harada|ミサハラダ
デザイナー 原田美砂、2012春夏コレクションを語る
“旅”にドラマを生む帽子(1)
ザ・ローリング・ストーンズ、ジャネット・ジャクソン、サラ・ジェシカ・パーカーなど、多くのセレブリティをファンにもつmisa harada(ミサハラダ)から、2012年春夏コレクションが届いた。今季のシーズンテーマとは? 発表会のため日本に帰国していたデザイナー 原田美砂さんに聞いた。
Text by FUJITA Mayu(OPENERS)Photographs by TAKADA Midzuho
旅へと駆り立てられる、男のロマンを象徴する帽子
――コレクションテーマは?
2012年春夏コレクションのコンセプトは “旅”です。そのなかで、ウィメンズ、メンズコレクションそれぞれテーマを設けています。メンズは“voyage”。“voyage”自体、旅という意味なんですけど、私の中では“旅人”というイメージで使っています。スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、ヘンリー・ミラー、ピーター・ビアード……ある本との出合いをきっかけに“今ここにないなにか”を――探求する旅をつづけてやまない。
男性というのは、そんな本質をもっているものではと考えたんです。では、そんな旅する男が“出発するぞ!”と意気込んでかぶる帽子とは、いったいどんなものだろう? と、ストーリーを膨らませていきました。
――男性は旅に駆り立てられるものだ、というイメージはどこから?
ある本との出合いから探求の旅へ、というコレクションのストーリーは、おなじく私がある本と出合ったことがきっかけなんです(笑)。『エグザイルス』というロバート・ハリスさんの著書なのですが、じつは私もそういった内容の小説がもともと好きで、よく読むんです。男性って冒険を語るのが好きでしょう? これを読んでやっぱりそうなんだ、と思ったんですよね。本当はコレクションのテーマも“Exile”にしようかと思っていたくらい。ただ“Exile”って、“追放”“亡命”という意味ももっているので、とりかたによってはネガティブなイメージになってしまうんですよね。なので“自分が望んで旅立つ”というイメージで “voyage”にしました。
パターンで遊んだコンテンポラリーなパナマハット
――どういったところにシーズンテーマが反映されているといえるでしょう?
冒険家の帽子の象徴でもあるパナマを使ったトリルビーやフェドーラ、ポークパイ、ボウラー・ハットなどが、今季コレクションを代表するアイテムといえるでしょうか。特徴的なのは、柄ですね。2色づかいのモノトーンやチェック柄でコンテンポラリーなスタイルに仕上げています。また、一見ツートーンに見える帽子、じつはペーパーを使った異素材の組み合わせなんです。
ボウラー・ハットのようなトラディショナルな型に遊びを――自由な旅人らしいアイデアかなと思っています。こうして素材感のコントラストを表現しつつ、高級なパナマやサイザルのみで作るより、じつは経済的でもあるんですね(笑)。時計の文字盤や貝殻でできたボタンなど、旅をイメージしてコラージュのように集めたディテールを遊び心としてプラスしています。
旅にもいろいろシチュエーションがあると思うんです。たとえばディテールにメタリックな刺繍をほどこしたエレガントなハットは、旅は旅でもラグジュアリーなホテルのレストランでディナーを愉しむ、そんな紳士をイメージしています。また、エッセンシャル・コレクションで展開されるラゴス柄――“ラゴス”というエチオピアの旧首都の名前なんですけど、異文化のなかへひとり飛び込んでいく旅。どんなシチュエーションにも、“旅立ち”を演出する小道具としての帽子があるんです。
英国のマテリアルにフォーカスしたエッセンシャル・コレクション
――ラックス・コレクション、エッセンシャル・コレクションのちがいとは?
メンズもウィメンズも、ラックス・コレクション、エッセンシャル・コレクションというふたつのラインを設けているのですが、シーズンテーマが色濃く表現されるのはラックス・コレクションです。エッセンシャル・コレクションは、価格帯もお求めやすい、いわゆるカジュアルライン。こちらは型の入っていない、布はくを使ったアイテムを展開しています。
――エッセンシャル・コレクションではどういったアイテムが?
アイリッシュリネンやリバティ・プリントなど、英国のマテリアルにフォーカスしました。なぜ布はくの帽子を作りはじめたかというと、型を入れない布はくの帽子こそ、テクニックが必要なんです。私のもっているオートクチュールの手法を使って、大量生産された帽子ではかなわない端正なシルエットやかぶり心地を提案したかったのです。バイアス・カット(立体裁断)でつくるシェイプには、切り替えのあるハンチングやブリムの短めなソフト・トリルビーが揃います。ブルー、イエローのエスニックやブラウンのフローラルなどリバティ柄にくわえて、アイリッシュリネンはオフホワイトやネイビー、タンブラウンやマスタード・イエローと、ラックス・コレクションにはない自由で鮮やかなカラーも、エッセンシャル・コレクションの特徴です。
銀幕のセイレーンと誘惑
――ウィメンズコレクションのテーマは?
ギリシャ神話に伝わる “セイレーン”の伝説はご存知ですか? 美しい歌声で船乗りの男たちを惑わし、命を奪ったり、船を沈没させたりするという話です。人魚ではないのですが、おなじように美しくも恐ろしい伝説上の生き物です。英語では“セイレーン”ではなく、“サイレン”と発音するのですが、往年の名女優のことを“スクリーン・サイレン”と言ったりもします。そんなふたつの“セイレーン”をソースに、“銀幕のセイレーンと誘惑”というイメージを膨らませていきました。
――往年の名女優というと、たとえば?
ヒッチコック映画の“セイレーン”である、キム・ノヴァク演じるミステリアスな女性像がイメージです。媚びない凛とした強さと柔らかな女性らしさが同居したような、魅力的な女性です。ヒッチコックの『めまい』(1958年)が彼女の一番有名な作品でしょうか? ぜひご覧になってみてください。
――どのようなコレクションとなりましたか?
ラックス・コレクションでは、トリルビーにフェドーラ、アシンメトリー・トークが、モノトーンのパナマ素材や鮮やかなパープルのヴィスコースで展開されます。アイテムの構成は、ずばりキム・ノヴァクが身につけていそう、あるいは似合いそう、というところから(笑)。いつにもましてヘッドドレスが多いのはそのためです。デザインですが、出会うすべての男性を虜にしてしまう、強さとフェミニニティの両方を備えた女性像、そこへ彼女がスクリーンを華やかに飾った1970年代のイメージを盛り込みました。
たとえばグラムロックをイメージさせるメタリックなオーキッドやモチーフ、70年代のイヴ・サンローランのコレクションや、フランスの写真家 ギイ・ ブルダンの作品などに見られる毒々しい美しさを熱帯に咲く花に置き換え、手づくりのシルクフラワーでイメージ。古き良き時代のグラマラスなスタイルを表現しました。
ヘッドドレスの文化を推奨していきます!
――シーズンを象徴するアイテムはヘッドドレス?
エレガントでタイムレスなヴェールやフェザーのヘッドドレスは、「銀幕のセイレーンと誘惑」というテーマにもっともふさわしいアイテムといえるのではないでしょうか。モノトーンにくわえてサファイア・ブルー、フューシャピンクにフローイエローなどのカラーが揃います。日本ではヘッドドレスをつける習慣があまり根付いていませんよね。見た目には扱いが難しいように感じられるかもしれませんが、案外かぶりやすいものなんですよ。
とはいえ最初は抵抗があると思いますので、今回はヘッドバンドのようななじみやすいヘアアクセサリーも提案しています。ウェディングや少し気取って出かけたい日など、もっと気軽にヘッドドレスを楽しんほしいので、これから積極的に推奨していくつもりです(笑)。
――エッセンシャル・コレクションの特徴は?
カジュアルなエッセンシャル・コレクションではメンズ同様、英国のマテリアル――アイリッシュリネンやリバティ・プリント、軽いスコティッシュ・ツイードに注目しました。ワイドなブリムのハットに1940年代調のベレー、ドレープをとったクロッシェやアシンメトリーなフリルのキャップは、レザーやリネンのフラワー、バックルをほどこしてアクセントに。オフホワイトのバリエーションにネイビー、タンブラウンやマスタード・イエローといったカラーで展開しています。
自分を磨く、心の旅
――セイレーンと旅の関係とは?
女優とは、他人の人生を旅しているようなものだと思うんです。そして、ヒッチコック映画でキム・ノヴァクが演じたミステリアスで魅惑的な女性も、自分のスタイルを極める旅というものがあったはずです。どこかに赴くだけが旅ではありません。自分を磨く心の旅、それもまたすばらしいひとつの旅であり、冒険だと思うんです。旅のワンシーンを彩る小道具として、帽子の存在がドラマティックな演出のひとつになればうれしいですね。
――ありがとうございました。