GRIFFIN|デザイナー ジェフ・グリフィンが語る「Life is Journey」
GRIFFIN|グリフィン
英国ノースデボン、ハートランドに移住!
ジェフ・グリフィンが語る「Life is Journey」(1)
OPENERSでは過去、2008年と2010年に、「GRIFFIN」のデザイナーであるジェフ・グリフィン氏にインタビューしている。下に当時の記事があるが、そのときどきの彼の思想や志向性が、そのまま容姿にあらわれている点がじつに興味深い。さて、2011年はツナギでの登場だ。ツナギの背中には“LOVE LAND FARM HARTLAND, DEVON”という一文と、豚のイラスト入り。かなり目を引く格好だが――ジェフ・グリフィン氏にいったい何が起こったのか?
Photo by SUZUKI KentaText by KAJII Makoto(OPENERS)
「どうして休日しかリゾート地に行かないんだろう?」という素直な疑問
これまで年に2回は来日していたジェフ・グリフィン氏、今回は2年ぶりの来日だというが……なぜか前歯が1本ない!
――前歯はどうしたんですか?
今年の3月、“LOVE LAND FARM”(グリフィンが手がける農場)の下準備をしているときにぶつけて、なくなったんです。とても協力的なハートランドの老人たちにも、歯がないことはウケていますよ(笑)。
――2年ぶりの来日ですが、なぜ時期が空いたのですか?
10年ほど前まではロンドンのポートベローエリアにいたんですが、「自分自身に変化が必要だ!」「どこかより自然に近いところへ移らなければ!」と感じて、はじめイングランド南部のWiltshire(ウィルトシャー州)に移りました。さらに2年前からよりワイルドな環境を求め始めて、住む場所のリサーチや移転に1年かかり、そして英・大西洋岸の半島、ノースデボンのハートランドに住んでようやく1年。そんなわけで日本に来るのが久しぶり、ということなんです。
――なぜハートランドを選んだのですか?
ハートランドはロンドンの南西にあって、イギリス首相も訪れるリゾート地です。私は旅行でカリフォルニアやバンクーバー島のトフィーノなど有名なリゾート地を訪れるたびに、なぜみんなそういう場所に、休日にしか行かないのだろうか、本来なら住むべき場所なのに……と疑問に思っていました。そんな折り、ハートランドの地に立ったとき、「ここが自分と家族が住むべき場所だ」と確信したんです。
――ハートランドはどんな場所ですか?
ワイルドで未開発の土地が多くとても美しいところです。半島のすべてが自然景勝地として指定されているイギリス唯一の自然保護区で、ツノメドリ、シカ、キツネ、珍しいラン、アザラシ、イルカなど、ユニークな動植物や海洋生物などを見ることができます。
――実際に住んでみていかがですか?
ひとは誰しも夢があって、それは「将来実現できたら……」というものだと思いますが、先日とても親しい友人が亡くなったことを受けて、“Don’t wait”、つまり一日一日を大切にしていく、夢を現実にしていくことを優先させようと思ったのです。
ハートランドには80年代以降手が入っていない畑(いまのLOVE LAND FARM)があって、これはまさに自分たちの土地だと直感したんです。1年をかけて土の耕し方から気候の読み方、実際の野菜づくり、家畜の飼育などを経験し、とても刺激的な生活を送っています。
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英国ノースデボン、ハートランドに移住!
ジェフ・グリフィンが語る「Life is Journey」(2)
それはまさにラブリー・ライフ!
ハートランドは、英国でももっともドラマチックな景観を有する場所だ。花崗岩岸からは大西洋を臨み、ひとけのない入江や湾は、セイリング、クライミング、サーフィン、ウォーキング、サイクリングのホットなスポットとして年々人気が高まっているという。
――グリフィンさんの一日のスケジュールを教えてください。
早朝に1時間ほど仕事をして、家畜やペットに餌をあげて、3人の息子を学校に送り届けます。10時まではロングビーチで犬の散歩をしたり、家族との時間ですね。10時からはオフィスでスケジュールを立てたり仕事をするんですが、ディナーのために暖炉にハムを置いておきます。午後は、家の修理やLOVE LAND FARMの手入れです。もちろん仕事もします。4時半になると子どもが帰ってきます。7時にディナーをとって、そのあとはパブに出かけたり、散歩をしたりして、9時半には寝てしまいます──ラブリー・ライフですね。
――なんて理想的な……。
ハートランドに移り住んだ目的は、本物で、素朴で、質の高いものに接することで、自分たちのクリエーションを別のステージに進めたかったからです。つまり、都会から遠く離れた、自然が豊かで動物が近くにいるような場所にデザインスタジオを設けたかった。だから5エーカー(約6100坪)もあるLOVE LAND FARMを手に入れたし、まずはじめに豚、鶏、アヒルから飼育をはじめて、つぎにスイギュウの“Bella”と“Shaggy”を連れてきて、自分たちなりの持続可能な生活スタイルをつくりはじめました。
――家畜は大変そうですね。
たとえば豚を飼うと、「おいしい肉にするためには、どういう餌をあげて、どう飼育して、どうカットすればいいのだろう」と考えます。そして肉をスモークしたり、ハムやベーコンにしていくプロセスに手間をかけると、とってもおいしく食べられる。なにがベストを考えるのは本当におもしろい。
バッファローは日本にはいないかもしれませんが、ローファットでいいチーズがとれます。そしてこの水牛の角、すばらしいでしょう。デザインに行き詰まったときに、水牛を見ると気持ちが晴れていくのです。畑に手を入れて、家畜を育てていますが、ミルクやチーズをつくるには多くの時間が必要。いずれは全部をおこなうのがいまの夢です。
――都会のロンドンから移って寂しくはないですか?
ハートランドの老人たちはとても親切で、私がしたいことを支持してくれます。こうやって名前入りのツナギを着て作業していると、ジョークを言ってきたりしますよ。もちろん友好的に。ファッションをやっていく情熱を持続し刺激を受けるために、自分の生活をチェンジしたんです。
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ジェフ・グリフィンが語る「Life is Journey」(3)
自然に回帰するのは自然なこと
グリフィン氏は、ハートランドに移住して「自分の生活の大部分を占める“服づくり”においても、あたらしいインスピレーションや刺激をもらいました。仕事の進め方やデザイン活動を見つめ直し、コラボレーションする相手にも影響をあたえるきっかけになりました」と言う。
――この砂浜のビジュアルはとても印象的ですね。
家からちょうど1マイル離れたところにある海岸で、あえてアーバンなイメージのある黒人と、ユニオンジャックの対比を狙いました。
――ハートランドに移り住んで、生活や仕事に変化は?
都会から離れることで、伝達の方法、コミュニケーションが変わってきました。世界は資本主義が進むにつれて、どの都市でも職住近接が当たり前になっています。僕も15年間ロンドンに住みましたが、こうやって離れてみて、自然に回帰することはとても自然なことだと確信しました。なにより、季節を感じられるのがいい。
――デザインへの影響は?
自然は考える時間をあたえてくれます。そして、クオリティにかんして前向きになれます。
――2011秋冬コレクションのセイリングジャケット“Quay Coat”はすばらしい一着ですね。
英国のトラディショナルなFox Brothersのヘビーウエイトウールを使用して、伝統的なピーコートを最新技術を用いて仕立てました。私は、伝統的な考え方を踏襲するのが好きです。そして、このコートはハートランドにいたからこそ生み出されたものです。
というのは、都会に住んでデザインすれば、生地を縫うことは当たり前ですが、このコートのようにすべてのシームに防水テープをほどこすというようなアイデアは出てきません。時間があるからもっと深いところまで考えられるのです。縫い目がないので、表面がフラットで、クリーンなイメージになり、シルエットもきれいに見えます。
純粋なアイデアや誠実なアイデアは、ハートランドに住んでより一層リアリティをもってきました。
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英国ノースデボン、ハートランドに移住!
ジェフ・グリフィンが語る「Life is Journey」(4)
自分がやりたいことをやるためにすべてを構築していく
ブランド「GRIFFIN」の2011年秋冬コレクションは、“テクノロジーとトラディションのミックス”をテーマにして、「かなりデザインも楽しんだ」という。そして2012年春夏コレクションは、“ミリタリーとトラディションのミックス”がテーマとなる。
――2012春夏コレクションの見どころを教えてください。
今回は、ずばり、「シンプルであることがきれいに見える」を心がけました。アイデアの出発点はミリタリーとトラディショナルのミックス。たとえばとてもいい生地を使って、コンピュータで穴を開けたり。止水ジップを縫わずに貼ったり、端をカットオフしたり。自分の経験に基づいてデザインしています。
――あなたの過去のインタビューを読むと、自然、コミュニケーション、本物、ローカルなどがキーワードになっていると思いますが、いまも変わりがありませんか?
Life is Journey――人生は冒険です。人生にはいろんなサイクルが巡ってきますが、私はいま人生にチャレンジができてラッキーだと感じています。ハートランドについては、将来コテージ的なホテルを開きたいと思っているし、仕事もあたらしい冒険にトライしています。
15年前にはじめて日本に来たときは、とてもエキサイトして、夜遊びに夢中になったりしていました。こうして時間が経って、人生を落ち着いて、リラックスして考えられるようになりました。そして現在は、よりハードにビジネスをやる。自分がやりたいことをやるためにすべてを構築していく、という価値観に変わってきたのです。
――日本は今年の3月に大変な地震と津波に襲われました。これもまた自然の災いですが……。
被災された方には大変な思いをされていると想像します。今回の大震災にかんしては、世界中の人たちが、自然の力は脅威だと感じているのではないでしょうか。
――最後に、ファンへメッセージを。
先にも言いましたが、いまの私のモットーは「一日一日を大切に生きる」です。みなさんもそのように人生を生きてみてください。2012年の秋冬には「GRIFFIN」であたらしいラインがリリースする予定なので、ご期待ください。
――ありがとうございました。