九谷焼作家・河田里美氏が語る「九谷BE@RBRICK NAGNAGNAG × COOP(EDITION1) 」ができるまで | MEDICOM TOY
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2021年10月18日

九谷焼作家・河田里美氏が語る「九谷BE@RBRICK NAGNAGNAG × COOP(EDITION1) 」ができるまで | MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

『AKASHIC RECORDS 2021 〜まぼろしのパレード〜』にて抽選販売

10/23(土)〜31(日)、RAYARD MIYASHITA PARK South 3F「En STUDIO」にて開催される『AKASHIC RECORDS 2021 〜まぼろしのパレード〜』。メディコム・トイ代表取締役社長 赤司竜彦氏がキュレーションを行い、赤司氏が敬愛するTHE COLLECTORSの初期の名曲にちなんだテーマの通り他では手に入らない“まぼろし”のアイテムをはじめ、アート、トイ、アパレルが数多く展開されるポップアップイベントだ。
昨年に続いて2回目となる今回も、OPENERSでは同イベントをさらに楽しむための特集記事を掲載しているが、ここでは「九谷BE@RBRICK NAGNAGNAG × COOP(EDITION1) 」(1体限定/会期中WEBにて抽選販売予定)にスポットを当て、このプロジェクト実現のキーパーソンとなった九谷焼作家・河田里美氏のインタビューをお届けする。 

Text by SHINNO Kunihiko|Edit by TOMIYAMA Eizaburo

九谷BE@RBRICKの可能性を新たに示したワンオフモデル

オリジナルソフビ1作目「暴力原人」以来、作品を発表するたび世界中に衝撃を与えながら、いまだ正体は謎に包まれたまま。昨年の『AKASHIC RECORDS』では全高6フィート(約180cm)もある巨大フィギュア「6FT NAGNAGNAG FOUR EYES(EDITION1)」を発表した孤高の存在 NAGNAGNAG。
ロウブロウアートの第一人者であり、Nirvana、Sex Pistols、Soundgardenなど名だたるロックバンドのポスターやアルバムカバーを数多く手がけ、近年はNAGNAGNAGとのコラボレーションが話題になったアメリカ西海岸を代表するアーティスト COOP。
先代から受け継がれてきた美術工芸分野のハイカルチャーと、マンガやアニメに代表されるサブカルチャーを結び付けることで新たな芸術性と価値観の創造を理念に、可動ジョイントが組み込まれた九谷焼製400% BE@RBRICKをプロデュースする 株式会社midland creation。
この三者とメディコム・トイによる夢のプロジェクト「九谷BE@RBRICK NAGNAGNAG × COOP(EDITION1) 」について、midland creation代表取締役、中 祥人(なか・まさと)氏は語る。
「九谷焼による『ぼうりょくげんじん』の忠実な再現には、昨年『九谷BE@RBRICK 花鳥風雅』で多くの人々に衝撃を与えた絵付師・河田里美さんを起用しました。その目を疑わずにはいられないほどの『ぼうりょくげんじん』の再現性は、再び私たちに“河田インパクト”を与える出来栄えとなっています。それはまさしく、九谷BE@RBRICKの可能性を新たに示した証であり、NAGNAGNAG様とメディコム・トイ様との信頼関係により生まれた特別なワンオフモデルです」
九谷BE@RBRICK 花鳥風雅
BE@RBRICK TM & ©️ 2001-2021 MEDICOM TOY CORPORATION. All rights reserved.
昨年の『AKASHIC RECORDS』で展示販売されたこの「花鳥風雅」は、“未来からタイムスリップしてきた九谷BE@RBRICK”として、今後の九谷BE@RBRICKのインデックスモデルに位置づけられた。赤司氏も結果的に、奇しくも私が想定したAKASHIC RECORDSの“未来は自分が創造(想像)した分だけ形を変える”というテーマをそのまま体現したような傑作に仕上がりましたと最大の賛辞を贈っている。
河田里美氏に当時の話をうかがった。
「『花鳥風雅』は、midland creationの中さんから“いつもお世話になっている赤司社長の奥様に感謝の気持ちをプレゼントで表したいので描いてもらえませんか?”という依頼をいただいたのが最初です。まさか自分がBE@RBRICKの絵付をできるなんて思ってもいなかったので嬉しくて、ぜひ引き受けたいと思いました。
打ち合わせの際、中さんは「感謝」という言葉を何度も繰り返して、製作費は気にしなくていいので気持ちが表せるものを作ってほしいということでした。そのため花を敷き詰めて隙間をなくす「花詰(はなずめ)」という古くからある技法を使い、花言葉で感謝の意味のあるもの、上品で高貴なイメージを組み合わせながら、中さんの思いが伝わるよう少しでも良いものになるようにと願いつつ描き込ませていただきました。
完成したものを赤司社長に見ていただいたところ、手元に置いておくのはもったいないのでぜひお客様にお渡ししてあげたいとおっしゃってくださって、急遽『AKASHIC RECORDS』での販売が決まったと中さんからうかがっています」
絵付師・河田里美氏

「このデザインを再現していただける絵師さんはいらっしゃらないでしょうか?」

大きな反響を呼んだ「花鳥風雅」の公開から程ない2021年の年明け早々、中氏のところに赤司氏から1通のメールが届いた。そこには4枚の写真画像と1枚のイラスト画像が添付され、「このデザインを再現していただける絵師さんはいらっしゃらないでしょうか?」という相談が記されていた。
イラストのタイトルは『ぼうりょくげんじん』で、写真はその『ぼうりょくげんじん』が全面にプリントされた200%の超合金モデルらしきBE@RBRICKの画像。メディコム・トイ社内で製作したサンプルで、既に現物は失われ残っていないという。
4面展開図を見ても側面への回り込み具合など掴み切ることはできず、果たしてどのくらい忠実に立体化できるのか、細かいロゴなどをどれだけ綺麗に正確に描けるのかという懸念が中氏にはあった。加えて『ぼうりょくげんじん』を印象づける「赤」を九谷焼でムラなく塗るためには正確な技術と大変な労力が必要だ。この仕事を任せられる作家として、まず中氏の頭に浮かんだのが河田氏だった。
だが、河田氏がこれまで築かれてきた作風とは対極にあるように思えるデザインであるうえ、作家に他の作家の作品を再現する仕事をお願いするのは失礼ではないかと考え、まず河田さんのお眼鏡にかなう作家さんを紹介していただけないかと打診した。
「私は研修所に講師として教えにも行っているので、卒業生でもいいので描いてくれる人を知っていたら紹介してほしいというかたちで問い合わせがあったんです。ただ、写真を拝見すると非常に細かいため洋絵具を使わないと表現しきれないと感じたので、卒業生にこの再現は難しすぎると思いました。
九谷に用いられる絵具は主に、焼成後にガラス質となる和絵具、不透明で水彩画のように描くことができる洋絵具の2種類あります。現在は和絵具を使われる方が大半で、『花鳥風雅』のように洋絵具をメインに使える人は、私がアシスタントとして10年以上学ばさせていただいている中村陶志人先生に相談しても少ないとおっしゃいます。
洋絵具を使いこなすには鉱物と鉱物の反応や、高温で焼き上げたとき色味がどう出るかのテストを繰り返さないとわからないことも多いので、どうしても経験が必要です。なので「私でよければ挑戦させてもらってもいいですか」とお伝えして、やらせていただきました」
中氏は「振り返ると、河田さんにお引き受け頂けたことは、ここまでクオリティの高い『NAGNAGNAG × COOP』を実現できたブレークスルーポイントでした」と語る。加えてNAGNAGNAG側も「花鳥風雅」での河田氏の仕事を高く評価していたため、全面的な信頼のうえに進行できたことも幸運だった。

どのアーティストにも裏の意味や深い意図が実はある

「アートトイというカルチャーがあることは知っていましたが、どなたがどういう作品を作っているかまでは詳しく存じ上げていませんでした。今回初めてNAGNAGNAGさんの作品を中さんから画像で見せていただいたときは、とにかくすごいなという感想でした。これはどういう意図で作られているんだろう? 骨や内臓が出てるのはどういうことなのかな? お腹の中にいるのは何だろう? いろんなことを考えながら拝見していました。
グラフィックデザインを学んだ際、学校の先生から絵を描くうえでのコンセプトについて、どのアーティストにも裏の意味や深い意図が実はあると教えていただいたので、どういうストーリーがその中に込められているのか気になっていつも見てしまいます。どうして鉄板で骨が止められているんだろう? おなかの人は誰なんだろうとかどんどん気になって、描けば描くほど面白くなっていく感じはありました」
「人形は顔が命」と考える河田氏は、骨描き(主線描き)では様々な角度から顔の見え方を観察し、写真を撮りながらメディコム・トイ社内で作られたサンプルの写真と見比べるなど細心の注意をはらいながら修正を繰り返した。
特に色味の再現には徹底したこだわりが見られる。ひとつは全身の「赤」の表現に本来は釉薬である「セレン赤」を使うチャレンジ。九谷焼では通常セレン赤は塗りムラや発色の問題があるため筆では塗らないが、河田氏は果敢にも上絵具として筆で塗ることを選択。セレン赤だけでも塗り重ねの工程で6〜7回、他の色味の上絵も含めトータルで8回もの窯入れが行われている。
一般的に窯入れ回数が増えるほど絵具や釉薬の不具合が起きやすくなるため、リスクを避けて窯入れを制限するが、焼成温度を微調整しながら何度も繰り返し窯入れを行うことで高いクオリティを目指した。これだけの作業を引き受けてくれる作家はそうそういない。

NAGNAGNAGさんのファンのため、できるだけ忠実に描くことを心がけました

「スマートフォンを手元に置きながら画像を拡大したり全体図を引きで見たりしながら描いていったんですが、液晶で実際の色味が正確に出せているかを考えながらの作業はとても難しかったです。いままで花を描くときに出てこなかった色は、新しく絵具を買ってテストしながら作っていきました。平面のデザインデータをもとに立体に起こしていくときのバランス調整など細かい作業も含めると、かたちになるまで40日くらいかかったでしょうか。昔からのNAGNAGNAGさんのファンの方に納得してもらえる作品にしなければと思い、できるだけ忠実に描くことを心がけました」
赤の部分以外の骨や内臓などの色再現も、目で見て意識できるレベルではないが、例えば“紫”ひとつとっても場所が違えば同じ色では塗られていない。河田氏はイラストの画像を拡大して胴や頭、脚の紫をそれぞれ見比べて色を分析し、骨についても肋骨や腕、脚や顔など各部位により淡い水色やグリーンが少し入っているなどの違いを見極めて着彩されている。
中氏はこの徹底したこだわりに「意識しないと分からない、しかし意識すると確かに違う。この再現性こそが今回の『NAGNAGNAG × COOP』の真髄だと思います。それはまさに『ぼうりょくげんじん』に秘められたメッセージ性のように奥深いものです」と感服したという。
このような特殊な取組みを行える背景には、河田氏が九谷焼作家になる前にグラフィックデザインを学んだ際に「色彩能力検定二級」を取得し、明度や彩度の見極め方に精通していることが大きい。中氏が当初懸念した後頭部の真円のロゴも、あえてコンパスを使用せずフリーハンドで描かれ、左脚側面のJOKERも手で描いたとは思えないほどの精密さで再現された。

幼い頃から九谷焼はとても身近な存在だった

一時はクリエイターを目指し、広告代理店勤務など数々のキャリアを積んできた河田氏。その後、故郷・石川に戻り、九谷焼研修所を卒業し、中村陶志人氏に師事。2017年には日本伝統工芸士に認定され、現在は能美市内にて作陶に励みながら、金沢美術工芸大学 花詰講師などを務める多忙な日々を送っている。九谷焼の技術を学ぶきっかけについて訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「もともと父がろくろ師、母が染付師として九谷に携わっていたので、幼い頃から九谷焼はとても身近な存在だったんです。両親とも美術が好きだったので美術館にもよく連れていかれ、サルバドール・ダリの絵を好きになりました。ただ、生まれてからずっと九谷の中で育ち、家の中に積まれた器を“割ったらダメ、指紋がつくと油分で絵具が乗らないから触らないで”と言われ続けてきた反動で、いろんな美術作品を見るたび、何かもっと素敵なものが他にあるはずと思ってしまったんです。
手描きより、デジタルで描けばもっとクリアなものができるのにと思って、高校卒業後は地元を離れ名古屋でデジタルデザインを学びましたが、当時アルバイト先だった高級割烹料理屋の大将や板場さんが、両親が作った煎茶椀をお客様に出す器としてものすごく丁寧に扱ってくださっていたんです。驚いてアルバイトが終わってすぐ父に電話して報告したところ、“だったら、ちゃんとしたお店だね。頑張りなさい”と言ってくれました。父も母も実は誇りを持って作っていたことがわかったし、それを遠く離れたところで大事にしてくれる人がいるすごさを目の当たりにして、初めて九谷焼の良さを実感したんです。それで地元に戻って九谷を勉強し直すため研修所に通いました」
【小壷】本金朱花詰に山雀(ヤマガラ)
φ6×H8.2cm。作・河田里美(2021年)
明治時代「ジャパン・クタニ」として輸出され、世界中から高く評価されてきた九谷焼。OPENERSでは2019年、九谷BE@RBRICKを通じて伝統工芸の未来を切り開く中氏のロングインタビュー「家宝として、美術品として、代々引き継いでくれるものを残したい」(前編) (後編)を掲載し、大きな反響を呼んだ。

今回の九谷BE@RBRICKは具現化を意味する“リアリゼーションモデル”

今回の「九谷BE@RBRICK NAGNAGNAG × COOP(EDITION1) 」についても、中氏は「メディコム・トイ社内で作られ、失われた“幻のサンプル”。そしてmidland creationとして“幻のように描いていた展開”をカタチにできたことから今回の九谷BE@RBRICKは具現化を意味する“リアリゼーションモデル”と言えるでしょう」と位置付けている。
未来に向けて、家宝として引き継がれていくアートピースとなる奇跡のワンオフ作品。このプロジェクトがこれだけ高いクオリティで実現できたのは、河田氏の誠実な人柄に依る部分も大きいだろう。『AKASHIC RECORDS 2021 〜まぼろしのパレード〜』来場の際は、ぜひともその目で実物を堪能していただきたい。
「時代が変わって百均のお茶碗でも質の良いものが出てきている中、わざわざ伝統工芸、それも特に手描きの絵付けや細密画を施された高額の九谷焼を手にとってくださる方は、本当に好きな人だと思うんです。昔みたいに床の間や仏間が当たり前のようにある生活様式ではないので、これからは生活の中で当たり前のように置いてもらえる作品を作っていかなければ、ということは常々考えています。
私が絵付しているものは茶器や酒器が中心ですが、買ってくださる方にお話を聞くと“自分のご褒美の日にこの器でお酒を飲みたいんだ”というご年配の男性の方がすごく多いんです。自分へのご褒美って嬉しいことじゃないですか? 特別な日に美味しいお酒を飲んでいただけたらという思いで、それにふさわしいものが作れるよう日々ひとつひとつ手を抜かず、常に技術を磨いていくことを心がけています。
【デミタス】本金露草色花詰に青雀(アオガラ)
φ10×H7cm。作・河田里美(2019年)
『花鳥風雅』が完成したときも中さんたちが本当に喜んでくださったんです。納品後、感動しましたと書かれた長文のメールをいただけて安心しました。今回の反響も楽しみですし、また次の展開がある際は私も参加させていただけたら嬉しく思います」
九谷BE@RBRICK
NAGNAGNAG × COOP(EDITION1)

Producer|中 祥人(midland Creation)
絵付|河田里美
SUPERVISOR|NAGNAGNAG
サイズ|全高約 280mm
発売日|2021年10月発売予定。
発売方法|10/23(土)〜10月31日(日)、WEBにて抽選販売。
詳細はメディコム・トイ オフィシャルブログ (http://www.medicomtoy.tv/blog/)をご確認ください。
価格|220万円(税込)
©️NAGNAGNAG
BE@RBRICK TM & ©️ 2001-2021 MEDICOM TOY CORPORATION. All rights reserved.
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『AKASHIC RECORDS 2021 〜まぼろしのパレード〜』
会場|En STUDIO [RAYARD MIYASHITA PARK South 3F]
場所|東京都渋谷区神宮前6-20-10
期間|2021年10月23日(土)〜2021年10月31日(日) ※会期中無休
開場時間|11:00〜20:00
※新型コロナウイルス感染拡大の状況により、営業時間帯等が変更となる場合がございます。詳細は、事前にRAYARD MIYASHITA PARK公式WEBサイト等をご確認ください。
入場料|無料
会期中11:00〜12:15の間は商品のご購入はできませんが、どなたでも自由にご入場・ご観覧いただくことが可能です。
※当日の会場の混雑状況によっては、ご入場できない可能性もございます。予めご了承ください。
問い合わせ先

メディコム・トイ ユーザーサポート
Tel.03-3460-7555

                      
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