全高6フィートのNAGNAGNAG「FOUR EYES」が完成するまで|MEDICOM TOY
DESIGN / PRODUCT
2020年10月9日

全高6フィートのNAGNAGNAG「FOUR EYES」が完成するまで|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

世界でたったひとつの巨大アートピース

正体不明ながら世界中のTOY ARTISTに大きな影響を与え続けているNAGNAGNAG。その代表作のひとつ「FOUR EYES」が、6フィート(約180cm)の巨大サイズで登場。2020年10月16日(金)~11月3日(火・祝)、渋谷PARCO1階「POP BY JUN(ポップ バイ ジュン)」で行われるメディコム・トイのポップアップイベント『AKASHIC RECORDS(アカシックレコーズ)』にて抽選販売されることとなった。この世界で1体のみのアートピースはいかにして生まれたのか。製作に携わったメディコム・トイの赤司竜彦代表取締役社長、ZOMBIE STOCKの中田彰輝代表、カネバン 表面処理事業部 事業部長の三枝智行氏に話をうかがい、このプロジェクトの全貌に迫ってみたい。

Text by SHINNO Kunihiko|Edit by TOMIYAMA eizaburo

6FT NAGNAGNAG FOUR EYES(EDITION1)

  • 価格|280万円(税別)

『AKASHIC RECORDS』のランドマークにしたい

NAGNAGNAGとメディコム・トイの出会いは数年前に遡る。同社の赤司竜彦代表取締役社長は語る。
赤司 西麻布のあやしいライブイベントでお会いしたのがファーストコンタクトです。以来、メディコム・トイではこれまでBE@RBRICKやTara Mcpherson(タラ・マクファーソン)とのプロジェクトなどでご一緒させていただきました。非常に鋭い視点でクリエイティブワークを遂行される印象があります。多分に感覚的ですが、時節に流されない強さがあり、NAGNAGNAGの揺るがない視点を敬愛しています。
オリジナルの「NAGNAGNAG FOUR EYES」は全高約30cmのソフトビニール人形。異形の怪獣という呼び名がふさわしい風貌に、ドールアイを使用し横に寝かせると目を閉じるギミックを内蔵していることが大きな特徴である。これを同ギミックも含めて6フィートサイズで作ることになったのは、赤司氏がキュレーターを務める『AKASHIC RECORDS』に出品するためだった。
赤司 『AKASHIC RECORDS』開催を決めた段階で、NAGNAGNAGと催事のランドマークになるような立体をご一緒したいと考え、当初24フィート(約730cm)での展開をご提案しました。設置場所や絶対製作時間、強度検証など様々な経緯を経て、6フィートになりました。
大人の身長と変わらない巨大なフィギュアといえば、60年代後半~70年代前半の怪獣ブーム時に製作された店頭用ディスプレイフィギュア、もしくは近年KAWSに代表されるアーティストが展開する屋外インスタレーションが想起させられるが、今回のプロジェクトはそうしたものと関係はあるのだろうか。 
赤司 おそらく、どちらとも関係があるとも言えますし、無いとも言えます。どちらも意識下には刷り込まれていると思います。しかし根源的な理由はNAGNAGNAGの大きな立体物を見てみたいという極めてシンプルなものです。NAGNAGNAGの魅力は世界中の誰とも似ていないところです。それはとても難しいことです。
製作が決定すると、赤司氏は実作業をZOMBIE STOCK、カネバンの両社に依頼する。ZOMBIE STOCKは、映画・テレビ・コマーシャル・MV・舞台などジャンルを問わず、特殊メイク・特殊造形に関わる仕事を多数手がけてきた会社だ。これまでの参加作品を見ると、映画『来る』『関ケ原』『ザ・ファブル』、テレビ『世にも奇妙な物語』『牙狼』『仮面ライダーゼロワン』、舞台『劇団☆新感線』など、誰もが目にしたことのある作品が並ぶ。一方、カネバンはもともとイタリアンバイクの販売・修理から始まり、現在はキャラクターグッズ生産・開発やコンテンツ開発・配信事業など幅広く展開。フィギュア製作も経験豊富なスタッフを擁している。

6フィートサイズで作ると聞いたときは正直驚きました(中田)

ここからはZOMBIE STOCK 中田彰輝代表、カネバン 表面処理事業部 事業部長 三枝智行氏に製作過程についてうかがっていきたい。
中田(ZOMBIE STOCK) 弊社が参加した雨宮慶太監督の『牙狼』という作品で、登場するヒーローが全身黄金に輝く鎧を身に纏っています。その鎧に特殊なメッキ塗装が必要で、いつもカネバン様にお世話になっています。メディコム・トイの赤司社長とは、おもちゃ好きの私の妻を通して知り合いました。NAGNAGNAG様とは今回初めてご一緒させていただきましたが、素晴らしい才能とユーモアを合わせ持った方で仲良くさせていただいております。
三枝(カネバン) メディコム・トイ様とは他案件にてお付き合いがございましたが、NAGNAGNAG様とは本案件にて初めてお目に掛かりました。
中田 「NAGNAGNAG FOUR EYES」を6フィートサイズで作ると聞いたときは正直驚きました。オリジナルのフィギュアを拝見し、このボリュームを約2メートルのサイズにすることを想像すると、気が遠くなったのを覚えています。でも、赤司さんの奇抜なアイデアは流石だなと感心いたしました。
三枝 等身大フィギュアの製作に関して以前より非常に興味がありましたので、お話を頂いた際は喜んでお引き受けいたしましたが、「NAGNAGNAG FOUR EYES」のデザインを実際に目の当たりにし、そのインパクトに圧倒されました。一見豪快にも見える中にある繊細さを私共が等身大サイズで再現出来るものか、気がかりでなりませんでした。弊社では等身大フィギュアの製作経験が無かったため、ZOMBIE STOCK様に原型及びFRP型の作成、FRP施工などの総合監修をして頂き、弊社では目のギミック(瞬き)の設計・製作、ベースの設計・製作、FRPの施工、彩色を行いました。
中田 カネバンの金子社長からご依頼を請けた当初は、全員がいかに難しいことに挑戦しようとしているのか理解しきれていなかった気がします。私どもの作業はいつも粘土などを使って原型から進めていく事が多いのですが、今回は金子社長(カネバン)のお知り合いにカポックを切削できる業者様がいらっしゃるということで、3Dデータから削り出されたカポックのおおよそのシルエットを元に、組み上げて仕上げていきました。そのディテールなどを含むマスターモデルの仕上げと、シリコンによる巨大な型製作、及び眼球の型も弊社で製作しております。
三枝 材質に関しては必要とされる強度の確保が出来、かつ意匠の再現性を鑑み、FRP製としました。FRPは軽量で強靭かつ成型性、意匠の再現性に優れるなどの特徴があります。等身大で製作する上で、自重や外力に耐え得る強度確保や製作工程上FRPが適しているという側面もありますが、「NAGNAGNAG FOUR EYES」の繊細かつ硬質なイメージを等身大で再現するのに最も適しているのがFRPであると考えました。塗装面では、色調の再現性、耐久性から塗料及び、塗装方法の選定を行いました。完成までの工程としては、ベースの設計・試作(形状、表面処理共に数パターン)→ 可動部(眼球の瞬きギミック)の設計・試作→原型作成(スチロール原型)→ FRP型作成 → FRP施工 → 下地処理 → 彩色 → 各部パーツ組み付け。上記工程と並行して、ベース作成、眼球ギミック作成、まつ毛作成を行いました。

NAGNAGNAGの意向に沿うよう何度も修正重ねた

製作中、NAGNAGNAG側からはどういうリクエストがあったのだろうか。
中田 NAGNAGNAG様が大きなサイズとなったFOUR EYESの原型を見て、「バランス的に肩が弱く見えてしまうのでもう少しボリュームアップをしたい」という依頼がありました。確かにボリュームを足した事によりで力強さが加わったと思います。
三枝 瞬きギミックに関して、当初設計していた物では「動きが早すぎる」とのことで設計変更し、より滑らかに動く物としました。眼球の虹彩は見本としてお預かりしていたフィギュア同様黒塗りの仕様にて彩色を進めていましたが、NAGNAGNAG様のご意向でよりリアルな表現へと変更いたしました。試作を数回繰り返し、そのイメージへと近づけました。また、眼球の彩色後、頭部へ組み込み、確認をお願いしたところ、白目(イエロー部)の奥行き感が足りないとのご指摘を頂き、NAGNAGNAG様ご指導のもと白目部分へのシャドーを追加変更いたしました(頭部、胴体部へもシャドーの追加を行っています)。頭部、腹部センターの淡い色味(肌色)に関しても、NAGNAGNAG様のイメージを忠実に再現すべく塗り直しを行っています。

本当に完成するのか心配になり、精神的にも大変でした(三枝)

作業工程において大変だったことを訊ねると、細かい部分まで修正、改良を重ねてきたことが伝わってきた。
三枝 まずは眼球の瞬きギミックの作成です。3Dモデリングにより設計を行いましたが、動きの適正化や製作工程上の問題から、設計変更を何度も繰り返しました。それから、まつ毛の製作。等身大へスケールアップするのに伴い適した材料(毛の太さ、質感等)が中々見つからず苦労しました。実際に十数種の材料を集め、表面処理や成型方法など、数十パターンの組み合わせから適した物を選定しています。FRP成型時のパーティングラインの処理も大変でした。意匠が細かく複雑な為、通常の処理(研磨など)を行うと意匠を崩してしまいます。いかに原型を保ったまま違和感無く処理を行うか、トライ&エラーを繰り返しました。NAGNAGNAG様のこだわりは非常に細かいため、完成に近づくほど修正が多くなってきたので本当に完成するのか心配になり、精神的にも大変でした。
中田 弊社の制作担当・笠井は「自分の身長よりも大きなものを作るので、全体のバランスをしっかり見ながら製作していく事を心がけていました。全体のディテールもオリジナルのイメージを崩さないようサイズに合わせて造り出しています」と話していました。さらに大変だったのは、そうやって仕上げたマスター原型をシリコンで型取り、FRPのジャケットを製作することでした。
三枝 重量は約31kg(本体のみ、ベース含まず)です。自立させるためには、重心を本体のセンター(足部の中心に掛かるよう)に置く事が必須になるかと思います。この点に於いては見本となるフィギュアの段階で既にバランスが取れており、さらにZOMBIE STOCK様によりその重心までをも忠実に再現した原型を製作していただいております。弊社ではこのバランスを狂わせない様、FRP積層、各部パーツ接合の段階では気を遣いました。万が一、何らかの外力が加わった際の転倒防止としてベースに固定しておりますが、ベースがなくても不安なくシャキッと自立出来ます。
塗装に関してもオリジナルサイズの色味を忠実に再現するため、培われてきた技術のノウハウが大いに役立ったという。
三枝 塗装の色味にもこだわられていることが窺い知れましたので、イメージを再現出来るよう気を遣いました。また、色味だけでは無く、顔料の粒子感もスケールアップして再現する事を念頭に置き調色を行いました。塗装に関しては、実際に見本となるフィギュアを穴の開くほど凝視、観察し、塗装順序は勿論の事、塗装を行う際のスプレーガンの向き、透け具合、ミストの飛び方などを再現すべく細心の注意を払い作業にあたりました。この辺りは、ヴィンテージのバイクや車の再生を長年行ってきた、弊社の経験が役立ったかと思います。
こうして完成した「6FT NAGNAGNAG FOUR EYES」。実物を前にしての感想を訊いた。
赤司 驚愕の一言です。まず、本当に多くの修正(18回くらいでしょうか?)を繰り返しながら、無事完成にたどり着いた事にNAGNAGNAGと今回の製作チームであるカネバン様、ZOMBIE STOCK様に感謝申し上げます。
三枝 初めてとなる等身大フィギュアの製作に手探りながら精一杯挑みましたので、完成したフィギュアを見ると感慨深いです。
中田 このサイズになったことで改めてNAGNAGNAG様の造形センスの素晴らしさを存分に味わっていただけるのではないかと思います。やはり、存在感・迫力が違いますね。私自身もフィギュアやおもちゃが大好きで、特にホラー系のものを集めていますが、大きいサイズは持っていて満足感が全然違うんです。とはいえ、この大きさの物は持っていませんが(笑)。でも、今後こうした斬新な企画の物が増えて、ファンの方々がこの上ない満足感を得られるのなら、どんどん製作に参加してみたいですね。

NAGNAGNAGが全世界にもっと認知されてほしい

その圧倒的な存在感は当初の予定通り、『AKASHIC RECORDS』のランドマークとしての役割を確実に果たすことだろう。最後に、今回の「6FT NAGNAGNAG FOUR EYES」は、現在のアートトイを取り巻く状況にどのような影響を与えるのか赤司氏にうかがってみた。
赤司 正直に申し上げれば、アートトイというフィールドに何かの影響をというニュアンスではなく、シンプルにNAGNAGNAGが全世界に対し今以上の認知と評価を受けられる事を望んでいます。既にNAGNAGNAGとの新しいプロジェクトも動き始めていますので、楽しみにしていてください。
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AKASHIC RECORDS

  • 主催|株式会社スタイル ヴォイス
  • 協力|株式会社ジュン
  • 会場|POP BY JUN(ポップ バイ ジュン)[渋谷PARCO 1階]
  • 会期|2020年10月16日(金)~2020年11月3日(火・祝) ※会期中無休
  • 営業時間|11:00~21:00 ※10月16日(金)のみ17:00から
  • 入場料|無料
※会期中、店頭での混乱・トラブル防止のため、WEB 上にて抽選を行い、入店制限を行わせていただく日程がございます。
問い合わせ先

メディコム・トイ ユーザーサポート
Tel.03-3460-7555