DESIGN /
FEATURES
2022年12月1日
日本刀の造形美と機能美を宿した 最高峰の包丁“関孫六 要”の実力|SEKI MAGOROKU KANAME
Seki Magoroku Kaname|関孫六 要
国内シェアトップを誇る貝印の包丁に美しき最上位モデルが登場
男性用グルーミング用品や女性用ビューティーケア用品、さらにツメキリまで含めると、必ずと言っていいほど貝印の製品が我々の日常生活に溶け込んでいる。同社は家庭用包丁でも国内トップシェアを誇り、中でも高い評価を得ているのが“関孫六”ブランドだ。その最上位にあたるマスターラインに、“要(かなめ)”というシリーズが登場した。なぜ、貝印の関孫六が特別な存在であり続けるのか、工場取材を経てそのルーツと実力に迫る。
Text by KAWASE Takuro
使い捨てカミソリで飛躍を遂げた100年企業
最初に訪れた工場は、岐阜県関市にある小屋名(おやな)工場。同市はドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並ぶ世界3大刃物産地のひとつ。本工場では、主力製品のひとつであるカミソリ刃と医療用刃物の生産を手がけている。国内での圧倒的なシェアはもちろんのこと、全製品の売り上げの49%は海外ということからもお分かりの通り、近年は刃物のグローバルブランドとして展開している。
工場内にあるミュージアムには、これまでのエポックメイキングな貝印製品が展示されている。110年以上の歴史を紐解くと、その発端は1908年。当時幅広く国民に愛用されていたポケットナイフの製造を始めたことに遡る。戦後、二代目遠藤斉治朗が使い捨てカミソリの製造を手がけるようになり転機を迎えた。高度経済成長期の60年代に次々と工場を新設し、70年代には家庭用包丁の生産を加えて大きく成長した。
関の刃物作りのルーツは800年前の刀匠にあり
貝印の創業の地であり、同社初の大規模工場である小屋名工場を擁する関市が刃物の産地となったのは、鎌倉・室町時代の刀鍛冶が約800年前にこの地に移り住んできたことに由来する。不純物の少ない水、良質な松炭、焼刃土という刀作りに欠かせない自然条件を満たした関は理想的な土地だったから。そうして、集落ごとに炉と金床を備えた野鍛治がその技を競い合い、多くの名刀を生み出した。
小屋名工場からほど近い関鍛治伝承館では、現代の刀匠による日本刀の鍛錬の実演に加え、関で生まれた様々な名刀を見学することができる。室町時代から江戸時代を経て、現代まで続く刀匠の兼元。その中でも特に名高いのが室町時代後期に関で活躍した二代目の孫六兼元である。彼の地に伝わる刃物作りの伝統を継承し、その切れ味と美しさを現代に活かした包丁ブランドとして、貝印が選んだのが“関孫六”という訳だ。
最新技術を用いながらも最終工程は職人の手
伝承館に続いて訪れたのは、関市からクルマで1時間ほど北上した郡上市の大和剣(やまとつるぎ)工場。多くの家庭用包丁の製造が行われ、この工場では主に研磨と仕組みと呼ばれるハンドル部分を取り付ける作業が行われている。刃体とハンドルをつなぐ金口部分は、水の侵食による錆を防ぐために溶接され、継ぎ目が見えなくなるほど研磨を繰り返す。気を抜くと刃体があらぬ方向に飛んで行ってしまう危険な作業でもある。
関孫六の包丁作りには、大きく分類しても30以上、確認作業を含めるとさらなる工程数が必要とされる。コンピューター制御された最新加工技術や特殊機械を多用した分業制で、生産の効率化と均一化が推し進められている一方、幾度となく繰り返す研磨作業の多くは人の手に委ねられている。特に関孫六の切れ味を左右する湿式刃付けという最終工程は、熟練した職人だけに許される特別な工程でもある。
日本刀の美しさと強さをデザインに反映
このようにして貝印の最新のテクノロジーと刃物職人の経験によって生み出されるのが、マスターラインである関孫六 要である。2年ぶりのアップデートに際し、デザイン部の大塚氏が解説。「対象物に効率的に力が加わる日本刀の形状に着想を得て、“反り”を取り入れたことが大きな特徴です。上下でテーパードさせた8角形の柄も、刃体に合わせて美しく反り上がるようにデザインしました」。
コンセプトに忠実に、緩やかなカーブを描いた形状はまさしく日本刀。そこへ、二代目孫六兼元の特徴である三本杉からインスピレーションを受けた刃紋を描き、関に伝わる伝統工芸の美を表現している。握りやすい柄は力を無駄なく刃へ伝えてくれるので、その切れ味と相まって軽い力でスパッと食材を切り落とすことができる。また、金口付近を内側に抉れたようにデザインすることで、正しい持ち方を誘発する。
プロの調理人をも魅了する抜群の切れ味
いよいよ、関孫六 要で試し切りを体験。まず、柄を手にした瞬間の自然なフィット感と重さを感じさせないことに気が付く。果肉が柔らかく、薄く切るのが難しいトマトに刃を当てるだけで、ほとんど抵抗を感じることなく刃がスッと入ることに驚かされた。さらにまな板まで刃を押し込み、5ミリ幅で何枚も形を崩すことなく薄切りができた。料理好きはもちろん、道具にこだわる男性も、切れ味の違いが如実に感じられるはずだ。
工場見学を終えた後、プロの調理人によるインプレッションが披露される機会にも恵まれた。リニューアルを経たばかりの長良川清流ホテルで総料理長を務める小松氏による、関孫六 要を実際に使用していただき、その感想を伺った。「刃の入りがよく、包丁が“走る”感覚があります。ご家庭でお使いになる人は、きっと料理の腕が上がったと実感できるはず。普段使っている包丁よりもよく切れるので、自分用にも手にしたい1本です」
日本伝統工芸の粋を日常に取り入れる贅沢を
今回の関孫六 要はこちらの3種がラインナップ。十分な刃渡りと刃幅があり、手の込んだ料理で真価を発揮する6寸半(195mm)¥27,500、野菜や果物から肉や魚までオールマイティに活躍する5寸(150mm)¥24,200、野菜の皮剥きや薄切りなど小回りがきき、下ごしらえにも重宝する4寸(120mm)¥22,000。料理の腕に覚えのある男性ならば6寸半を選び、爽快な切れ味で肉や魚を調理してほしい。
問い合わせ先
貝印 お客様相談室
Tel.0120-016-410
関孫六ブランドサイト
https://www.kai-group.com/products/brand/sekimagoroku/masterline/