ネイルケアツール「MIMUNO」プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(2)
新しいネイルケアツール「MIMUNO」のオリジナリティ
プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(2)
これまでにないラグジュアリーな話題のネイルケアツール「MIMUNO(ミムーノ)」のデザインを手がけたプロダクトデザイナー、喜多俊之さんへのインタビュー第2回。話題は喜多さんが憂う日本のモノづくりへと移り、もっとも大切な職人のマインド面へと迫っていく。
文=竹石安宏(シティライツ)写真=jamandfix
世界市場で日本の製造業の高級品には「席」がある
――たしかに、ネイルケアの高級トータルツールはいままであまり見かけませんでしたね。ネイルケアというと女性をイメージしますが、「MIMUNO」は男性も親しみやすい印象を受けます。
今回は男性・女性を意識せず、兼用ということでデザインしています。身だしなみとしては、ネイルケアは男女に共通するものですからね。
――それでは少し話しを変えますが、現在日本の製造業は中国やベトナムなどに押され気味になっています。そういった現状について、喜多さんはどうお考えでしょうか?
現在は日本がかつて辿ってきた道を、アジアの各国が辿っている最中だと感じています。やはりこれからの日本は、いままで経験していないことをやっていかなければならないでしょう。
日本は資源が乏しいといわれますが、これからは知恵やセンス、テクノロジーなどが最大の資源となってくるはずです。今回のMIMのようなテクノロジーを開発し、それをデザインでカタチにし、大量生産品ではなく高級品として世界の市場に発信する。こうした流れが、ひとつのビジネスモデルとして確立していけばと思いますね。
日本の企業には、すでに一流品をつくるという席しか世界に空きがないんですね。そういった意味でも、今回の「MIMUNO」は中途半端なプロダクトにはしたくなかった。国内だけではなく、世界中のマーケットのなかでもアッパーな層にターゲットを合わせたデザインとしたんです。ですから、日本の市場だけでは革のケースをここまでつくりこむ必要はなかったかもしれませんが、世界に目を広げていくとこれぐらいは必要だと思ったんですよ。ましてや新しい技術を使った製品ですから。
デザインとは、そうしたターゲットに向けて、技術や機能、安全性などをまとめる作業なんです。
一番大切なのはモノづくりに対する職人マインド
――では、喜多さんの考えられる一流品の条件とはなんでしょうか?
まず、オリジナリティは不可欠だと思います。それから、私が今回努力したのは品のあるデザインですね。あとは、たとえ時間が経っても飽きないデザインであることでしょう。古さを感じさせない、時代を超えた要素は必要だと思います。
――喜多さんは国内の地場産業を活性化させるための活動も行っていますが、そこにもデザインの果たす役割は大きいのでしょうか?
非常に大きいと思いますね。日本の地場産業、とくに伝統産業にかんしては、そのほとんどが世界でいえば超一流品なんです。しかし、そこには時代時代の感性をキャッチすることが必要です。長い伝統と超一流の技術、そして現在の感性をデザインの力でまとめることが重要でしょう。伝統産業の技術を今後どう利用するかという答えはまだ出ておらず、現在は少しずつ衰退している。問題のひとつはやはり価格なんですが、手づくりだから高くていいものとは必ずしもいえない。
たとえば、イタリアやフランスの高級ブランド製品に、100パーセント手づくりといえるものはほぼありません。ほとんどが機械の力も借りてつくられていますが、一番大切なのはモノづくりに対する職人マインドであり、これにかんしては一流なんです。つまり、これからの日本の一流製品も、ハイテクの機器を使ってつくってもいいんです。
しかし、心には伝統的な一流の職人マインドを備えていなければならないし、その心をモノづくりに込めていく必要があるでしょう。このまま昔ながらの手づくりだけをつづけていては、日本の伝統産業はおそらく消えていくと思います。
今回の「MIMUNO」も最新のテクノロジーを活用していても、マインドは職人的です。こうしたモノづくりこそが日本の産業を支える力になっていくと思いますね。
プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(3)につづく
KITA Toshiyuki|喜多俊之
1969年よりプロダクトデザイナーとして活動をスタートさせ、イタリアをはじめヨーロッパ各国で活躍。家具やインテリア製品から家電、日用品、ロボットにいたるまで幅広いジャンルのデザインを手がけ、数多くのヒットアイテムを生み出す。その作品はニューヨーク近代美術館やパリ国立近代美術館、ミュンヘン近代美術館など世界のミュージアムに所蔵されている。日本の伝統工芸への取り組みをライフワークに、国内地場産業の活性化にも日々尽力している。
喜多俊之 オフィシャルサイト
http://www.toshiyukikita.com/