ネイルケアツール「MIMUNO」プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(3)
DESIGN / FEATURES
2015年3月13日

ネイルケアツール「MIMUNO」プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(3)

新しいネイルケアツール「MIMUNO」にみるデザインの未来
プロダクトデザイナー・喜多俊之インタビュー(3)

これまでにないラグジュアリーな話題のネイルケアツール「MIMUNO(ミムーノ)」のデザインを手がけたプロダクトデザイナー、喜多俊之さんへのインタビュー後編。世界で活躍してきた喜多さんだからこそ見える、日本のモノづくりの未来。今回の新作にも、これから日本が向かうべき方向性が示されていた。

文=竹石安宏(シティライツ)写真=jamandfix


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日本人ならではの「極める」という精神

――日本の工業製品は、昔から世界でクオリティが認められながら、デザイン性についてはいまいちの評価でした。そうした世界の評価は現在も変わっていないのでしょうか?

いま中国では、“技術の日本、デザインの韓国”ともいわれており、韓国がデザインの世界でのし上がってきています。携帯電話をはじめ、自動車も大変いいものが出てきているんです。さらに中国も、現在は国を挙げてデザイン国家を目指しており、デザインの学校を500校もつくっている。このようにアジアはダイナミックに動いていますから、そういったなかで日本のモノづくりはひとつの岐路に立たされているんです。安物か高級品かという岐路ですが、安物のほうにいくわけにはいかないと私は思います。

かといって無策に高級品へ向かっても結果はおなじなので、ここでもう一度、“本当の高級品とはなにか、品のあるデザインとはどういったデザインなのか”を考えるべきです。

幸い日本には品質が高くセンスも良い素晴らしい伝統産業がありますから、そこに一旦舞いもどってみるのもいいでしょう。そうしたうえで、新しい道具や工業製品をつくっていけば、日本は目の前の山を越えていけるのではないかと思います。そんな日本のモノづくりに対して私自身は楽観的に捉えていますが、さまざまな努力はやはり必要でしょう。

喜多俊之氏

――いまあるものを最大限活かしていけば、山は越えられると。

そうですね。もっとも大切なのは、モノをつくるうえでの気持ちです。どこへ向かって、なにをつくるのか。
たとえば日本のお菓子は、パッケージがとてもキレイですよね。海外では食べた後も日本のパッケージを捨てずに取っておくひともいるくらいです。日本はこうした「極める」という伝統をもっており、これもこれからは役に立っていくと思いますね。
手づくりだけではく、コンピューターや先端テクノロジー、ハイテク素材を使って極めていく。これが未来の日本のモノづくりなのではないかと思っています。ちょうど今回は先端技術との出合いがあったので、私もそういった極めていく気持ちで取り組みましたね。

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「MIMUNO」ネイルファイル(ツメヤスリ)

「MIMUNO」キューティクルナイフ(甘皮切り)

サスティナブルな飽きのこないデザインとは

――なるほど。「極める」という考えもそうだと思いますが、今後日本人デザイナーに必要な要素とはなんでしょうか?

世界の企業がデザイナーを起用するとき、出身国だけで選ぶようなことは現在ほとんどないんですね。基準はひとそのものであり、キャラクターなわけですが、日本のデザイナーは世界に通用するキャラクターを磨かなければならないでしょう。これはメーカーにもおなじことがいえるわけで、どの国のメーカーだから売れるということはありません。やはりこれからは、特色のあるいいものをつくらなければ売れない。そうしたデザイナーやメーカーを、世界のマーケットは待っているんです。

――喜多さんはプロダクトをデザインするとき、どこに気持ちの重点を置いていますか?

そうですね、やはり売れてほしいということでしょうか(笑)。実際、売れないデザインでは困りますからね。そして、それが持続していくことが重要でしょう。最近はよく「サスティナブル(持続可能な)」という言葉が使われますが、デザインにも持続性がないとダメだと思います。つづかないと、ブランドとして確立していかないですから。そういった意味でも、今後は歳をとらない、飽きないデザインがより重要になってくるかもしれません。ただそれだけではなく、新しい技術などを導入していくことも必要でしょう。

――飽きのこない普遍的なデザインは、デザイナーにとって永遠のテーマであると思うんですが、飽きのこないデザインに必要な条件とはなんでしょうか?

ひとつは必然性を備えているということでしょう。人間の身体や動きはほとんどおなじですから、それに対する必然的なデザインは自ずと決まってくるものです。ただほとんどおなじながらも、その最後の部分にほんの少しのちがいがあり、そこにはストーリーが必要になってくると思います。たとえば、今回の「MIMUNO」とはこういったストーリーのものだということを伝えるために、わざわざケースも立派なものにしたわけです。色もシックなものにし、部分的に光らせてみたり。そしてこれが10年後、20年後にはどうなるかという、自分のなかでのフィルターも通しました。

――では最後に、オウプナーズの読者へメッセージを

自分が気に入ったものに囲まれる暮らしというものを、日常生活のなかで考えてほしいですね。自分自身にもよく言い聞かせているんですが、ひとが使うものをつくるデザイナーは人のことが中心になって、自分自身を振り返ることが少ないんですよ。日常生活で、たまには自分を振り返り、本当に自分が気に入ったものを選んでほしいと思います。

――ありがとうございました

KITA Toshiyuki|喜多俊之
1969年よりプロダクトデザイナーとして活動をスタートさせ、イタリアをはじめヨーロッパ各国で活躍。家具やインテリア製品から家電、日用品、ロボットにいたるまで幅広いジャンルのデザインを手がけ、数多くのヒットアイテムを生み出す。その作品はニューヨーク近代美術館やパリ国立近代美術館、ミュンヘン近代美術館など世界のミュージアムに所蔵されている。日本の伝統工芸への取り組みをライフワークに、国内地場産業の活性化にも日々尽力している。

喜多俊之 オフィシャルサイト
http://www.toshiyukikita.com/

           
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