「MARUNI COLLECTION 2008 BY NAOTO FUKASAWA」前編
2008年1月18日、待望のコレクションがついに発表となった。広島に拠点を置く、家具メーカー「マルニ木工」と世界的な工業デザイナー、深澤直人氏による「MARUNI COLLECTION 2008 BY NAOTO FUKASAWA」。会場内では多くのプレス関係者が詰めかけ、なかでも初披露となった「HIROSHIMA」とマルニ木工の定番商品をリファインした「トラディショナルシリーズ」に大きな注目が集まった。OPENERSはプレス発表会に密着。デザイナー深澤直人氏にお話をうかがい、今回のコンセプトとモノ作りのプロセスについて語ってもらった。待望のインタビューがいよいよはじまった。
文=武井正樹Photo by KAWABE Yoneko
デザイナーと職人、それぞれの敬意の上に成り立つプロダクト
──「MARUNI COLLECTION 2008 BY NAOTO FUKASAWA」のコンセプトをお聞かせください
木のイスである、ということが重要なポイントです。モノによりますが、デザインは新しい方が良いと思いがちで、買ったときの感動がいちばん大きい。でも木のイスは「使うこと」「退化していく」ことを楽しみにもっています。それは「どんどん良くなっている」ということを含んでいる。木の良さを家具にして、生活の味をしみ込ませていく。そういうこと含めてデザインしようと思いました。朽ちていくことは、壊れていくことだけでない。10年くらい経ったときに「ああ、いいな」と思えるものであって欲しいと期待しています。
──2005年のnextmaruniから深澤さんとマルニ木工さんとのプロジェクトがスタートしましたが、その後、深澤さんと家具職人さんとの関係も変わってきたのではないでしょうか?
家具職人のみなさんは口にはしませんでしたが、自分は「難しいことを言っている」とわかりはじめたのは少し経ってからです。「なんでもできる」と僕は思っていましたから。でもよく考えてみると、イス全体のバランス、構造などそんなにやさしいものではない。いま、自分も知識が蓄積され、「難しさ」がわかりました。難しさがわかると邪道なことはやらなくなります。邪道なことをやると新鮮なこともできますが、あとでつまらない。椅子は本来、人間のカラダを支えるものですから、デザイナーがいとも簡単に作れるものではありません。ですから「マルニ木工」が育んできた伝統、技術があったからこそ今回のコレクションができました。
Yチェアのように愛されるイスを──
──マルニ木工の開発本部長の山中 武さんが「Yチェアを超えるイスに挑みたい」とおっしゃっていました。また「HIROSHIMA」のダイニングチェアはYチェアとちがい座面は木製ですが、座り心地がとても柔らかい印象を受けました。
Yチェアは座面が編んであるので、乱れた座り方をしたときも、イスが受け止めてくれます。とまりがいいんですね。カラダにもいいデザイン。「HIROSHIMA」のダイニングチェアが柔らかい座り心地なのは、座面の適度な丸みと精密な構造からだと思います。「Yチェアを超える」ことよりも、Yチェアのように誰からも愛されるものを作りたい、デザイナーであれば誰でも思うでしょうね。
深澤直人
プロダクトデザイナー
1956年日本・山梨県生まれ。 1980年多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業。1989年渡米しデザインコンサルティング会社IDEO (サンフランシスコ)で8年間の勤務ののち帰国、IDEO東京支社を設立。2003 年に独立しNaoto Fukasawa Design設立。B&B ITALIA、Driade、Magis、Artemide、Danese、Boffi、vitra をはじめ、ドイツ、北欧など 国内外の大手メーカーとのプロダクトを多数手がける。「MUJI」壁掛け式CDプレーヤー、「±0」加湿器、 「au/KDDI」INFOBAR, neon はN.Y.MOMA永久収蔵品となる。 2006 年Jasper Morrison とともに 「Super Normal」を設立。2007年 ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を授与される。米国IDEA金賞、ドイツif賞金賞、英国D&AD金賞、毎日デザイン賞など受賞歴は50 賞を超える。無印良品のデザインアドバイザリーボード。21_21 Design Sight のディレクター。武蔵野美術大学教授、多摩美術大学客員教授。著書に「デザインの輪郭」(TOTO出版)、共著書「デザインの生態学」(東京書籍)、「デザインの原形」(六耀社)、作品集「NAOTO FUKASAWA」(Phaidon)。
株式会社マルニ木工執行役員開発本部長 山中 武氏にお話を伺います。