カリフォルニアデザインの新しい息吹(後編)
ガラス工芸の本場イタリア・ムラノを経て、カリフォルニアの豊穣な大地で華開いたガラスアーティスト、ケイレブ・シーモンのインタビュー3回目。
カリフォルニアでの生活やモノ作り、そして伝統技術を継承するために行っているワークショップまで。飾り気のない言葉に、若きクラフトマンのスピッリトを垣間見た。
photo&text by Aya Muto
Glass Blowing
ガラス工芸の伝統を紡ぐために
――ワークショップを沢山やっているとか。
イタリアから帰ってきたばかりの頃は、僕が学んできたイタリアの伝統を伝えるのが最も大事なことだと思ってたんだ。さっきも言った通り、帰国後まもなく自分の工房をつくり始めて、安定させようといろんな努力をして、苦労しながらとにかくがむしゃらにやってきた。
トレーラーに住んで、昼間は一緒にものを作って、なんだかヒッピーのコミューンのような生活をしていたから、あまりお金を使わずに生活できていたんだ。だから少しでもお金ができれば、何かをやろうとしていたんだ。
ある時はイタリアで一緒に作業していたコールド部門の職人を呼び寄せて、僕らのコールド工房のしつらえを手伝ってもらったり、この非熱処理のテクニックを手ほどいてくれたりしたんだ。二回来てくれたんだけれど、半分はテクニック享受という教育目的で、半分は彼らにカリフォルニアを案内して楽しんで。彼もベニスに住んでいるから水の文化があるけど、ここには大きな波もあるし、また別の水文化があるからね。彼にカリフォルニアを見せられることが楽しかった。
そして次は足つきコップ作りの名手を呼んだ。彼は奥さんと一緒に2週間来てくれたんだけど、僕の工房でその2週間、イタリアの伝統的なゴブレットを作りまくったよ。ここいらの大学でガラスプログラムがあるところに連絡して、生徒で興味がある人がいればぜひ見に来て、と招待もして。それも面白かったね。それ以外には僕がイタリアで師事していたマスター・ピノも2回来て、僕の工房で作業して行ったよ。
ごめんごめん、気が散っちゃった。何の話をしてたっけ? イタリアの……
――マスターを招いたという話。
そう、彼も来てくれて、ガラス作りを僕の工房でしてくれた。こういう時は必ずガラスに興味のあるだろう人たちに見学に来るよう奨励していて。そうして情報をできるだけ多く伝えようと心がけている。2年前は僕のスタジオで「ユニフィケーション・プロジェクト」という大きなイベントを企画したよ。何かっていうと、このエリアのガラス吹きたち、ガラスプログラムのある学校、ガラスに興味のある人たち、ガラスコレクターなんかをみんな一つの場に集めよう、という試みで、デモンストレーションをしたりして。基本的には同じ興味を持つ人々をつなげて行こう、という試みだった。この回りにもガラスを吹いている人は沢山いるけれど、多くの人が家の庭に小さなセットアップがあって、そこで作っているだけ、という場合が多いから、こういう機会を通していろんなネットワークを生み出すきっかけになればな、と。ここにいるみんながガラス吹きで、同じ情熱を共有していて。1000人もの人出があってね。僕の工房もきゅうきゅうだったよ。ニューヨークからパフォーマンスアートをやるガラス作家を呼び寄せて、またモルトングラスを使って4つそれぞれの型抜き作品という別の趣向のものを作ったり。ガラスという素材の全く違う見方を人々に見せることができて、面白かったよ。いい時間だった。
ガラスを吹けば吹くほど、自分がいかに知らないことがあるか思い知らされる一方だよ。確かに自分のテクニックに自信をつけてきてはいるけれど、でもまだまだ道のりは長いと思うんだ。だって最初にガラスを作り始めた時は、まさかここまで来るとは思わなかったし、だからいつも距離を置いて「そろそろ人に教える準備ができたかな?」と見ている自分がいたりする。いつがその時なのかわからないけれど、とにかく日々僕は、イタリアで学んできたテクニックを他のガラス吹きたちに教える準備ができているか、ということを意識しながら制作に励んでいるよ。
工房の朝は8時に始まる。機材が必要温度まで暖まるのに最低1時間はかかるから、作業開始時間までに華氏2000度(約摂氏1100度)にするには、誰かが早く行って火を入れ始めてくれなくてはならない。まずは朝の早番がいて、色をつけてくれる2人のカラーチームがいて、すべてのカラリングを担当している。それが渡され、僕はメインのガラスを巻き取り吹き始める。その一連の作業を一日中、4時半の終業時まで、できる限りの数をこなし続けるんだ。たとえば大き目の作品だったら、一つ一つに時間がかかるから一日8個くらいしか作れないんだよ。
――ゴーゴーちゃん(娘マルゴの愛称)がいる今、週末は休むようにしているの?
うんうん、始めの頃は昼も夜も、週末も関係なくいつでも働きっぱなしで、曜日のことなんて考えなかった。その頃は週末なんて何の意味も持たなかったからね。でもじきに単純に心を置くためにも休むことも必要だって実感して。それにインスピレーションのためにも必要なことだなって。自然の中で過ごすというだけで感じられるインスピレーションを大事にしたいなと思っているよ。だから今では許される限り、そうしているよ。週末を利用して家族との時間を持つようにしてね。
Caleb Siemon
1975年、南カリフォルニア生まれ。10代の頃より父親のジュエリー産業を手伝ってデザインしたり、陶芸に興味を持つなど、モノ作りがそばにある環境で育つ。1993年に「RISD」に入学。アメリカ、ニュージーランド、日本、スコットランドなど世界各地でガラス工芸を学ぶ。その後、イタリア・ムラノ島にわたり、ピノ・シグニョレット氏に2年間師事。1世紀以上続く本場のガラス工芸を吸収。1999年、南カリフォルニアに自身のスタジオ「UNITED GLASS BLOWING」を設立。現在は、サンタアナの地で作品制作に励んでいる。