BOOK APART|トラックの移動本屋が“集合住宅”に新店舗をオープン
BOOK APART|ブックアパート
移動本屋「BOOK TRUCK」を手がける三田修平氏にインタビュー
“集合住宅”に初の固定店舗「BOOK APART」をオープン
昨年春に、週末のさまざまなイベント会場に“青いトラック"であらわられる移動本屋「BOOK TRUCK(ブックトラック)」を立ち上げた三田修平氏。このたび、初の固定店舗となる「BOOK APART(ブックアパート)」を、先月下旬オープンさせた。その場所は、集合住宅の一室。昨年末オープンしたフランス ルーブル美術館の新館「ルーブル ランス」を設計し、世界的に注目されている日本人建築家ユニット「SANAA」の妹島和世氏が手がけた「大倉山の集合住宅」だ。移動本屋ってなに? 住宅で店舗をはじめた理由とは? BOOK APARTオープン当日に、オーナーの三田氏に話を伺うことができた。
Photographs by JAMANDFIXInterview & Text by OKADA Kazuyuki(OPENERS)
何かひと工夫で、本を“面白い”と感じてもらいたい
――本屋の仕事をはじめたきっかけを教えてください。
大学時代は会計士になりたくて、会計学を学んでいました。その時に、大学の構内で本を読む機会が多かったんです。
学食で読もうとすると、もともと本を読む場所ではないので、やっぱり騒がしいんですよね。静かに本が読めて、軽い食事がとれて、コーヒーが飲める場所があったらいいなって。
それと、僕は本が「他の何より良い」とは思わないのですが、選択肢の一つとして本の楽しみ方を身につけると、生活がちょっとだけ豊かになると感じていました。でも当時、僕の周りには本を読む人が、少なかったんです。
本を読むきっかけって、すごくちょっとしたものなんですけど、読まない人にとっては高いハードルなんですよね。普段あまり本を読まない人にも、たとえば、それを何かひと工夫で「意外に面白いな」って思ってもらいたいなと。
そんな経験があって、当時はまだ少なかった「ブックカフェ」を仕事としてやりたいと、考えるようになりました。
大学卒業後、本とカフェの関係を学ぶために、TSUTAYAがスターバックスと一緒になっている六本木ヒルズの店舗「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」で働きはじめました。これが、本屋としてのキャリアのスタートですね。
2年間働いた24歳のときに「やっぱり自分の店をやりたい」と。その資金を貯めるために一度会計士を目指そうと思い、書店員を辞めることを考えました。そのことを、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIの本のディレクションをされていたBACH(バッハ)の幅允孝(はばよしたか)さんに伝えたら「本のことをわかる人間が現場にほしい」と声をかけていただいて。同じくディレクションをされていた青山ベルコモンズの地下に入っているインテリアショップ「CIBONE AOYAMA」の、ブックコーナーの担当として働きはじめました。結局、会計士を目指すのをやめて、2店舗目のキャリアをスタートさせました。
その後1年くらい働いた25歳の時に、また幅さんに声をかけていただいて。今度は「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(以下、SPBS)」がオープンする時の店長として移って。ここでは4年間働きましたね。
――どれも、セレクトに定評のある書店ですね。その時の経験で、いまにつながっているものはありますか?
SPBSで働いていたときに「外部のイベントに出店しませんか?」みたいなお話を、たくさんいただきました。しかし、SPBSは新刊書店だったので……。新刊の掛け率って高いので、外部に出店してその売り上げからイベントの出店マージンなどを支払うと、経営としては成り立たないんです。なので、その企画を引き受けるのはむずかしくて。
でもせっかくお声掛けいただいたし、なにかやりたいなって思っていました。そこで、もしそのようなイベントに出店するならば、商材は「古書かな」と考えるようになりました。
――古書だと、価格が自由ですね。
そうなんです。それと、仕入れの自由度も生まれます。
あと、僕が小さい頃、家の近所に移動図書館が来ていました。あれは子供ながらに、とても嬉しいイベントで。小さい頃は本を全然読まなかった僕でも、テンションが上がるくらい楽しみだったんです。そういうきっかけみたいなのがあれば、本に馴染みがない人も、ちょっと興味を持ってもらえたりするかなと思ったんです。
それでまだぼんやりとしたイメージですが、自分でクルマを使って、何かやりたいなと考えていました。でも国産車だとサイズの問題で、できることは限られてくると。そんなタイミングで、たまたまネットで輸入車のトラックをみつけたんです。本屋のビジネスを、具体的にどうしようといったことは、本当にまだ固まっていなかったのですが、ひとまず、トラックを販売していた熊本のお店まで、飛行機に乗って見に行きました。
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移動本屋“BOOK TRUCK”を手がける三田修平氏
“集合住宅”に初の固定店舗「BOOK APART」をオープン(2)
求められている場所に出向く
――熊本にまで! ずいぶんと遠い場所にあったんですね。
はい、そうなんです。で、実際にトラックを採寸してみて、このサイズなら中に本棚も置けるし、人も入れる。さまざまな可能性を感じて、購入しました。86年製のシボレーのトラックです。
購入して1年くらいかけて準備をして。整ったタイミングでSPBSを辞めて、移動本屋の「BOOK TRUCK(ブックトラック)」をはじめました。
――やりたいことを上手くミックスできたのが、古書の移動本屋だったと。
固定のお店で売れる本って、立地にすごく影響されるんです。たとえば、どんなにアートブックが売りたいって思っても、お客さんが求めていないと、置き続けるのは、むずかしくて。そういう、売りたいモノを売れないもどかしさを感じていました。
それなら、アートブックを売りたければ、アートブックを求めているお客さんが多いところに持って行けば、自分の売りたい欲も満たせるし、求めているお客さんにも届けられると。なので、まずは移動の本屋をやってみよう、と。
――たしかに合理的ですね。では実際に、出店される場所によって扱う本が違うのでしょうか?
だいたい全体の2~3割ぐらいを、出店する場所にあわせてセレクトしています。コアになる部分は大きく変えず。ただ、場所があまりにも特徴的だった時は、臨機応変に対応していますね。たとえば、お子さんしかいない、みたいときには絵本ばっかりにしたり。
――なるほど。BOOK TRUCKの出店は、どのような手順でおこなわれるのでしょうか?
知り合いの方、もしくは、BOOK TRUCKのFacebookアカウントがあるので、それを見て下さった方から、声をかけていただくことがほとんどです。あまり自分からは「出店させてください」って、トライできてないんです。
――では、三田さんが今後出店してみたい場所はありますか?
唯一、こちらから出店を持ちかけてみたのは、大学です。普通の大学だと、出会えないカルチャーとかがあるじゃないですか。なので、構内に出店してみたいなと。
――若いタイミング、しかも学生時代の影響って大きいですよね。
そうなんですよね。生協とか図書館に目立つようにおいてある本、その本以外にも選択肢はあるのに、気付かない状態っていうのは、やっぱりもったいなくて。「こっちが良い」っていうわけじゃなくて、選択肢は多い方が良いと思うんです。
「なるべく大きな会社に入って、安定した会社に入って」って、そういう時代じゃないですか。でも、大手企業に新卒入社する以外に、他にどういう選択肢があるかわからなくて、モヤモヤしてる人がいると思うんです。いろんな生き方があるので、そういうのを知ってもらえるだけでも良いな、と。だから、その人たちのためにも、行きたいなと思うんですけどね。
企画を持ちかけた大学の人に言わせると「生協があるし図書館もあるので、間に合ってる」と。
――意外とむずかしいんですね。
なかなかむずかしくて。
――では、今回、固定店舗をはじめた理由をお聞かせください。
BOOK TRUCKの本の在庫をうまく稼働させること。それと、出店してて「普段はどこで営業されているんですか?」という質問をよくされていたので、それに対する答えを考えていました。
発展系として、さまざまな形態での営業をイメージして、たくさんのプランを考えました。その結果、シンプルに固定の店舗はどうかと。
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移動本屋“BOOK TRUCK”を手がける三田修平氏
“集合住宅”に初の固定店舗「BOOK APART」をオープン(3)
有名建築家の設計した空間で、営む本屋
――住宅の一室に店舗をかまえたのには、どのような想いがあったのでしょうか?
この建築、元々知っていたのですが、たまたま見たサイトで入居者の募集をしていて。しかも、集合住宅なのに店舗営業が可能。クルマのときもそうでしたが、ここで店舗をやるなら、どんな感じになるのかなとイメージをしました。
“住宅”なので、リビング、キッチン、ダイニング、寝室、それぞれに合う本を並べるとたのしいだろうなと。この広さなら在庫も増やせるし、駅からも近い。最寄り駅は東急東横線なので、渋谷や横浜からも乗り換えなしで、来店してもらえる。いいなって思って、ここに決めました。
集合住宅なので、お店の名前は「BOOK APART(ブックアパート)」にしました。
――この集合住宅を設計したのは建築家ユニット「SANAA」の妹島和世さんですね。SPBSの店舗の設計は「NAP」の中村拓志さん。建築へのこだわりは、優先順位として高かったのでしょうか?
そうですね。空間の良さは考えています。場所のロケーションなども、それも建築といえば建築かもしれないですけど。
店舗の本棚はBOOK TRUCKのときと同じく手作りで、ディスプレイとして使っているダイニングテーブルは、わが家に古くからあったものを使っています。このテーブル、今にも壊れそうだけど大事に使いたいと思います。家具や本によって、ほどよく生活感が生まれて、この建築がもつ非日常感と、良いバランスが保てていて。良いなって思っています。
――今後はこのお店、どのようにしていくのでしょうか?
この店舗も徐々に、もっと居心地の良い空間にしていきたいと考えています。3Fにある、大きなテラスが気持ち良いので、1階のエントランスの脇にコーヒースタンドをつくって、そのコーヒーをテラスで飲んでいただきたいなと。家のように、くつろいでもらいたいですね。
――まさに、ブックカフェですね。
そうですね。あとはキッチンに食べ物とか。書斎に合った文房具、ダイニングにはちょっとした器とか。テラスでグリーンなどを販売したいと考えています。それと、新刊の数をもっと増やしていけたらなと。
――BOOK TRUCKは今後も続けていくのでしょうか? また、他にはどんな活動をされているのですか?
BOOK TRUCKは週末にオープンさせます。いまは僕以外にもスタッフがいるので、こちらの店舗と並行して続けていきます。
他の仕事としては、本のディレクションの仕事をさせていただいています。
ひとつは、ソニーの電子書籍ストア「Reader Store」の運営サポート。毎週、何百コンテンツを配信する中で「こんな特集組もう」とか「こんな特集組んでもあんまり売れないな」とか、そういう編成のお手伝いをしています。基本的には本屋と同じで、発売する書籍が届いたら売り場に並べる、みたいなイメージですね。
それと、馬喰町にある飲食店「イズマイ」で、そこで取り扱っている本のセレクトをしています。
――今後の進展がとても楽しみです。ありがとうございました。
三田修平|MITA Syuhei
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSを経て、2012年に移動本屋「BOOK TRUCK」を立ち上げる。現在、ソニーの電子書籍ストア「Reader Store」の運営サポート、馬喰町の飲食店「イズマイ」にてブックセレクトを担当。
BOOK APART
住所|神奈川県横浜市港北区大倉山3-5-11 大倉山集合住宅I(アイ)号室
東急東横線「大倉山」駅より徒歩2分
営業時間|12:00~21:00
定休日|月曜日
オープン日|2013年10月
公式Facebook
https://www.facebook.com/mybookapart
BOOK TRUCK
※出店情報は公式Facebookにて告知
公式Facebook
https://www.facebook.com/Booktruck