柳本浩市|第12回 寺山紀彦氏にオランダデザインを聞く(前編)
第12回 寺山紀彦氏にオランダデザインを聞く(前編)
最近、80年代前後に生まれたデザイナーと仕事で絡むことが多くなっています。ただ、実際会うときは仕事の話が中心になるので、彼らが本来もっている顔をあまり理解していない部分があります。これから次世代を担うデザイナーたちと対話をしながら、彼らのパーソナリティを引き出していきたいと思います。
Text by 柳本浩市
よし、オランダへ行こう!
まず一人目は、studio noteを主宰する寺山紀彦さんです。
仕事でかかわわる若いデザイナーのなかでも、少し発想の起点が違っていて面白いのです。その発想はどこから生まれるのか? 彼に聞いてみたいと思います。
柳本 寺山さんとはまだ個人的な話をしたことがなかったので、聞いてみたいことがたくさんありました。なぜプロダクトデザインを学ぼうと思ったのか、また留学先にオランダを選んだ理由を教えていただけますか?
寺山 もともと東京で建築の勉強をしていましたが、建築の場合は模型だけで終わってしまうことの方が多く。それがまた悲しく、自分のなかで葛藤がありました。
そこでプロダクトデザインならば自分の手でもつくれると思い、改めて専門学校へ行きました。ある日、droog design(オランダを中心に展開されているデザインプロジェクト)の「ドゥシリーズ」を見る機会があり、衝撃を受けたんです。
そこには自分が学校で学んでいることとは、まったく別の世界があって。最初は意味がわからなくても、しばらく見ているとだんだんとわかってくる。そして僕もこういうものをつくりたいと思うようになりました。そこでいろいろ調べてみると、Design Academy Eindhoven(オランダ南部の工業都市アイントホーフェンにあるデザインの名門大学/以下アイントホーフェン)の存在を知り、「よし、オランダへ行こう!」と。
「なにをつくる」から考えさせられるアイントホーフェン
柳本 日本とオランダで学んでいたことで、根本的に違うところはなんだと思いますか?
寺山 コンセプト重視、そして同じ手法をやりつづけるという点ですかね。ピート・ヘイン・イーク(クラフトマン寄りの人気デザイナー)が廃材を使いつづけているように、ひとつのことをずっとつづけていける教育をしていると思います、アーティスト寄りの。それが根本的に違うところでしょうか。
柳本 日本のデザイン教育は、職業訓練所のようなところがありますね、モノづくりの「仕方」を教えるように。ですが海外は「自分になにができるか」って考えさせるんですよね。
以前、アイントホーフェンの卒業生に聞いたところ、内観した後に自分のなかから生み出す作業が一番辛いと言っていました。
寺山 僕もはじめて哲学書を読みましたよ。「読んでからモノをつくれ」でしたから。
柳本 日本だと「これをどうデザインするか」と考えはじめるけど、海外、とくにアイントホーフェンでは「なにをつくる」から考えさせられる。
寺山 そうですね。僕がアイントホーフェンでいた科では、「まず旅行をしろ」って先生がいうんです、アイントホーフェンからアムステルダムまで。しかもみんなと違う手段で。そして、それを「記録に残せ」というカリキュラムで、なにをつくれと言われることもなく。
僕は交通手段にバスを選んで、一分間に一回写真を撮ってムービーにしました。つづいてその経験から「モノをつくれ」という。
柳本 漠然とした経験から形にするのってハードですよね。とくにオランダのデザインはリサーチからはじめることは多い。
自分で旅をする→まわりがどういう環境かを調べる→モノに落とし込む。
こうしたプロセスは日本のデザイン教育にはないでしょうね。だからマライエ(マライエ・フォーヘルサング。デザインをバックグランドにもつ)のようなフードデザイナーが生まれたりする背景があるかと。
それから、寺山さんはリチャード・ハッテン(オランダデザイン界の重鎮のひとり)のところで下宿していたそうですが、そのときのエピソードをお聞かせ願いますか?
寺山 下宿というか事務所に住んでいたんです。在庫管理していたところに拾ってきたベッドを運んできて。海沿いで風が吹き込んでくるところでした。広くて暗くて、最初は怖くて眠れませんでした(笑)。
リチャードのところへ研修に行った経緯は、アイントホーフェンに先生として彼がきたんです。学校のカリキュラムで半年間インターン制度があるので、リチャードにお願いしたところ快諾してくれました。オランダデザインの代表的な人でしたから、学んでみたくて。
次週は寺山氏が経験したオランダのデザイン事務所でのエピソードをご紹介します
寺山紀彦(てらやま のりひこ)
デザイナー。1998年中央工学校、2001年KIDI(Kanazawa International Design Institute)プロダクト科卒業。
翌年オランダDesign Academy Eindhoven入学、在学中にStudio Richard Hutten、 MVRDVへ研修、2006年卒業。
同年にstudio note立ち上げる。