マシュー・ワォルドマン|Vol.08 「the cocktail.」
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2015年3月13日

マシュー・ワォルドマン|Vol.08 「the cocktail.」

Vol.08 「the cocktail.」

自分の国のカルチャーに平然とあるものに対して、その国の文化独特のものであると思う人と、文化を超えて普遍なものだと思う人がいるだろう。やはり外国へ旅するまでは、それが、そのどちらにあたるものであるかは明確にはならないはずだ。
NYCで平然と存在しているそのひとつは、cocktail! 15歳から旨いカクテルを飲みはじめ、僕はどこへ行っても美味しいカクテルが楽しめると思っていたのだけれど……。

文・写真=マシュー・ワォルドマン

カクテルがカルチャーとなったのは、なんと禁酒法のおかげ!

19歳のころ、スペインへ行ったとき、カクテルを出すバーも少なくて、テキーラアンドオレンジジュースを頼んでも、ケミカルなオレンジドリンクでつくってくれたり!? はじめて日本へ行ったときも、アメリカでは普通に飲めるカクテルは珍しかった。そのときから時間は随分経ったけれど、「cocktail culture」は、まだまだアメリカ的な現象だと思う。

このトピックを書きはじめて、ちょっと調べてみたのだけれど、驚くことに「cocktail」は、19世紀の、ニューヨーク州で発明されたものだった! たとえば日本の養命酒みたいな飲み方からはじまり、すぐに進化を遂げ、さまざまな種類が増え、急速に広がることによって一般的に飲まれるようになったらしい。

ちなみに、1917年には「Cocktail Party」という言葉が、すでに米語として使われはじめている。あぁ、これは文明の誕生と言えるのかも? そして、カクテルが、カルチャーとなったきっかけは、1920年から33年の禁酒法時代。ニューヨークは禁酒法に強く反対した州だったけれど、しかたなく飲食業は地下に潜り、優秀なバーテンダーはヨーロッパやキューバに散っていった。その影響でカクテル文化はさらに広がり、進化していく。その後、NYC生まれのフランクリン・ルーズベルトは、大統領になって、すぐに禁酒法を破棄したのだ!!

僕の知っている美味しいカクテルバーを紹介しよう

断言するけれど、カクテルのレシピはアートだ。割合や順番を間違えれば、素晴らしいカクテルも薬のような味になってしまう。さらに、パーティや幸せな気持ちを溶け込ませることができるかどうかも重要なポイント。感情の入れ方のうまい僕は家でも楽しめるけれど、出かけるときはいつだって冒険。また、飲み方も大切。急いで飲み過ぎれば味をしっかりと理解は出来ないし、とはいえ、待ちすぎれば今度は水っぽくなる可能性がある。なによりも、今のNYCのバーカクテルは馬鹿みたいに高いので、すごく美味くなければお金は出せない。

なぜ、僕はカクテルにこんなに注目するのだろうか? ビールは好きじゃない。ワインを飲むと喘息になる。日本酒と焼酎は、一番身体と頭に合うのだけれど、NYCで好きな銘柄があるかどうかは問題。だから、NYC=Cocktails (ローマに入ればローマに従え)。ただ、NYCのカクテルは安くても$10以上するので、飲みたいなら、100%間違いなく美味いカクテルを飲んで、良い経験をしなければ意味がないと思う。

さて、僕の知っているカクテルの美味いバー3ヵ所を紹介しよう。下記は、その内のひとつ、「11 Madison Park」というレストランのマネージャーとバーテンダーへのインタビュー。

PHOTO BY Jim Franco of Williams Sonoma

――自己紹介をしてもらえないかな?

私の名前は、Sam Lipp。ウィスコンシン州のマディソン郡出身だ。Cornell Schoolでホスピタリティマネジメントを学び、2003年に卒業した。卒業後、ニューヨーク州のラーチモントでレストランを開き、ゼネラルマネージャーを務めた。レストランが無事成功のうちにオープンしたあと、Union Square Hospitality Groupに入社し、Cafe 2のマネージャーとして、MoMAのカフェをオープンさせた。数ヵ月後、Terrace 5に移り、両方のカフェの飲料部門のディレクターに就任し、現在は、ここ、「11 Madison Park」のマネージャーを務めている。

私は、Leo Robitschek。フロリダのマイアミで育って、今はニューヨークに住んでいる。マイアミの大学に通っている間に、収入を得るためにバーテンダーの仕事をはじめたのが、この世界に入ったきっかけだった。けれど、ニューヨークに移ったときに、カクテルとスピリッツに対して、真の情熱をもちはじめるようになったんだ。そして、非常に手の込んだクラシックなカクテルと、この店にしかないカクテルを中心としたバーメニューのリニューアルを手助けしている、この 「11 Madison Park」で働きはじめてから、もう4年になるね。

――「11 madison park」のカクテルのアプローチについてもう少し詳しく教えてもらえないかな?

たとえば、カクテルメニューに関して、伝統的なかたちを犠牲にすることなく、地域特産の新鮮な材料を、新しい方法で使うことなどについて

バーに対する我々のアプローチは、以前からまったく変わっておらず、またこれからも変わらずつづいていくことだろう。それはつまり、新しく創造していくなかで、クラシックなカクテル技術とクラシックなカクテルそれ自体を打ち出していくことだ。私たちがインスピレーションを受ける伝統的なかたちのすべては、化学的に創られた味や、大量生産される行為が出現する前に創られたものだ。たとえば、シロップのどれもが、新鮮な材料でつくられており、世界規模の食材の輸送を手段としなければ、疑うことなく、それらは地域特有のものであり、したがって季節的なものとなる。

私たちは提供するもののすべてについて本物であることを求めており、その小さなひとつひとつから全体を形づくっていく。すべての柑橘類を毎日絞り、ザクロとハイビスカスで自家製のグレナディンシロップをつくり、また、リカーやビターも自家製でつくってみたりもしている。

――何がNYCをカクテルの首都としているのかな?

NYCは今までも長い間そうだったように、料理の世界において世界の中心でありつづけるだろう。カクテルについてもその例外ではない。本当に多くの人々がこの小さな場所で生活し、味覚についての競争はほかのどの場所よりも激しい。この競争はクリエイティビティを育てる土壌となり、最後には期待されているよりも、より高いレベルとなる結果になるからだ。

――なぜ、3種類の異なった形状の氷を用意していることが重要なのかな? その違いを説明してくれる?

良く出来たカクテルの大きな部分を占めているのが、水と、そして氷だ。我々は異なった形状の氷を使うが(ブロック状の氷、キューブ状の氷、そしてクラッシュした氷)、それは、それぞれ異なった望みうる結果をもたらすために他ならない。

たとえば、マティーニをつくるときにもっとも重要なのは、いかに効率的に希釈化させることに尽きる。したがって、我々はブロックから砕いた氷と1個のキューブ状の氷の組み合わせでステアする。このことで、最大量の氷の表面を最も多くスピリッツと触れさせることが可能となり、結果カクテルの温度をより迅速に下げることができる。

反対に、バーボンをロックで楽しむときには、我々は通常2つのキューブ状の氷を使う。このことで、低い温度に保ったまま、希釈化を最小限に留めることができる。これはスピリッツそのままの味をできるだけ保つという目的があるんだ。

――2年くらい前から、カクテルにハーブやスパイスなどを組み合わせたスピリッツを使うことがトレンドになっていて、最近ますます多くのバーで見る機会が増えているよね。

今年、僕はカクテルでバーボンやウイスキーをフォーカスしている新たな試みを見るようになったんだけど、次のトレンドは何だと思う?

現在、我々はますますカクテルの正確性とその質について確かな眼をもたねばならない。食事とカクテルの両方において、我々はその内容により大きな注意をはからねばならないんだ。ここに来るお客さまは、一時の休息よりも、適切に準備されたカクテルのために、余分な時間や、余計な一手間をかけることを好む。たとえば、それほど昔のことではないが、バー・シーンでサワーが飛び抜けて人気のある時代があった。今では柑橘系のフレッシュジュースが一般的だけれど。さらに、キッチンがバーのメニューに影響を与えてきているのも見逃せない。たとえば、オリジナルのレシピでソーダをつくったり、スピリッツの香りや口触りを変えるためにカロリーオフしたりと、料理の技術を用いることで、キッチンはますますバーと一体化してきているよ。

君の質問のすべては、我々の中心となる指針を指し示している。我々はクラシックなマインドをもち、クラシックにインスパイアされることで、未来を考えている。我々がベストを尽くすことによって、我々はダイニングルームと、バー、そしてキッチンの壁を無くし、ブレンドさせることで、ここを訪れるお客さまにひとつの体験として提供しようとしているんだ。

to be continue Vol.09 「more the cocktail.」

 

NOOKA

           
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