デザイナー 佐藤オオキ インタビュー(前編)
クリエイションの住処としての空間
デザイナー 佐藤オオキ インタビュー(前編)
80カ国250カ所におよぶ「KENZO PARFUMS」の新たなコンセプトによる店舗リニューアル。その一大プロジェクトはいかなる理由で、佐藤オオキ氏率いるnendoに委ねられることになったのか。そして、KENZOらしくもあり、nendoらしくもある、ユニークな空間デザインは、どのようにして生まれたのか。佐藤氏本人が、KENZOとのプロジェクトを振り返る。
文=田村十七男photo by Jamandfix
──何ゆえ佐藤オオキさん率いるnendoがKENZO PARFUMSの仕事を請け負うことになったのか、まずはその経緯から教えてください
僕らにもよくわからないんです(笑)。1年ほど前、突然に「こういう内容だけど、興味ある?」とオフィスに電話がかかってきて、それからあいだをあけずに数名のフランス人とKENZO PARFUMSの日本の方がオフィスにいらっしゃったんです。もちろんそのなかには、KENZO PARFUMSのクリエイティブ・ディレクター、パトリック・グエージさんもいらっしゃいました。
パトリックさんの印象は強烈でしたね。世界的ブランドの顔ともいえるクリエイターなのに、かなりラフなスタイルなんです。足元なんかは相当に履き込んだコンバースですから。
で、オフィスに上がるため脱いでもらったそのコンバースを、ウチのスタッフが気を利かせて片付けちゃったんですね。そうしたら帰り際に「僕のコンバースがない」と、パトリックさんが何ともいえない表情を浮かべたんです。その姿が今でも忘れられない……。
──肝心の、というか、nendoに依頼した理由は、そのミーティングで明らかになったんですか?
どうやらイタリアのカッペリーニ社から発売されているnendoの家具を見て、それで僕らに空間をやらせてみようと思ってくれたらしいです。
──何とも思い切りのいい発想ですね
家具から空間ですからね。しかもnendo指定で。とにかく僕らがいちばん驚きましたよ(笑)。当時の話をもうひとつ付け加えると、実は1軒だけのリニューアル・プロジェクトだと思っていたんですね。なのにフタを開けたら、80カ国250カ所をまかせるという話でしょう。「うわっ!」てなりました。
──うわっ、て(笑)
マジメな話をすると、というのも変ですが、ブランドの成り立ちに僕との共通点もあるんだろうなと思ったんです。
いうまでもなくKENZOは、高田賢三さんという日本人が生み、フランスが育てたブランドです。しかし、どんなときも日本的な美学を捨てなかった。
そして僕もまた、カナダで生まれ日本の影響を受けながら育ち、現在は東京にいる。そういう意味では互いに一風変わった存在だし、またKENZO自体、そうしていろんな血が混ざり合うことで進化してゆくんだと。それも何かの雑談の折にパトリックさんたちと話し合ったことでした。
──実際に仕事を進めていく上で、パトリックさんからはどんなリクエストがありましたか?
ひとつだけお題がありました。ネスト(鳥の巣)でいきたいといわれました。KENZO PARFUMSの商品は、各々が個性的で際立っているから、そのすべてを包み込むようなイメージを考えてほしいと。空間自体が前面に出るのではなく、いわば商品の住処となるようなコンセプトとして、ネストというキーワードを提案されました。
──その要望に対して、どんなアプローチをしましたか?
発想の初期に、KENZOのブランド・ロゴが枝みたいなバーに見えたんですね。そのロゴを解体して、バラバラになった枝を鳥が集めて巣にしてみたらどうなるだろうと考えました。
──誰もが知っているロゴを解体するというのも大胆ですね
僕もそう思いました(笑)。でも、その案が通っちゃいました。はじめて会ってから2週間後の最初のプレゼンで、パトリックさんが言ったんです。「これでいこう!」と。