デザイナー 佐藤オオキ インタビュー(後編)
クリエイションの住処としての空間
デザイナー 佐藤オオキ インタビュー(後編)
「もっとも注意を払ったのは、KENZOのDNAに組み込まれている日本的な美意識」。「KENZO PARFUMS」の空間デザイン、そのアプローチと派生してゆくブランド哲学について、デザイナー自らが語る。
文=田村十七男Photo by Jamandfix
──ロゴの解体によって鳥の巣というコンセプトを満たし、その上でどんな具体策で空間を構築したんですか?
香水って何だろうと考えてみて、香りというのは必ずしも嗅覚だけに訴えるものではなく、五感すべて、あるいは感情を揺さぶるものだという結論に達したんです。であれば空間も、あらゆる感覚に響くものにしようと。
たとえば手触りの良さを引き出すために木を使ってみるとか。商業空間で木材を採用するのは管理上困難な面もあるんですが、あえて採用しました。鉄にしても繊細さをかもし出すために、紙のような軽いイメージで仕上げてあります。
──すべては巣を演出する効果なんですね
見せたかったのは、包まれるようなぬくもりです。体温を感じてほしかった。そこで、もっとも気を配ったのは光の質の調整です。KENZOといえば鮮やかな色彩が特徴ですが、光の色でもそれは表現できると思いました。
具体的には光の諧調に細心の注意を払いました。KENZOのDNAに組み込まれている日本的な美意識を生かすことを目的として。
──香りの話に戻しますが、香水そのものについては研究されましたか?
今回のプロジェクトは店舗空間のデザインなので、香水自体の知識に関しては、少し勉強した程度です。ただ、打ち合わせで何度かパリに足を運んでみたら、街角にたくさんのパフューマリーと呼ばれる香水専門店があって驚きました。百貨店の1階でも香水ショップが広い売り場を確保していて、香水文化の深さに感じ入りましたね。
──そうしたフランスの文化に影響された部分はありましたか?
デザインそのものにはありません。影響があったとしたら、パトリックさんの感性ですね。彼自身、お茶目なところやかわいらしい面があって、そういう個性を仕事でもスパイスにしています。僕も楽しさやユーモアをふりかけるのが好きなので、今回のプロジェクトはnendoらしさも融合させながら実現できたと思っています。
──KENZO PARFUMSリニューアル1号店が開店してから5カ月後に、「KENZOKI」のインスタレーションを行っています。それは、KENZO PARFUMSによって生まれたつながりですか?
そうです。ブランドがもつ哲学やメッセージを感じてもらうための空間として、「KUUKI」と題して六本木のギャラリー ル・べインで8月に開催しました。KENZOKIのスキンケア商品で使われているローションの容器を400個以上用意し、植物界のルールを形状のモチーフにそれぞれ別の機能をもたせたプロダクトを制作し、一輪挿しのような仕立てにしました。
──400本とは、また大した数ですね
素材にも凝りました。たとえば多孔質樹脂というマテリアルは、強力な毛細管現象を引き起こすもので、容器のなかの水を吸い上げてゆるやかに空気中に発散させるんです。ひとが通るたび、揺らぐように香りが漂うんですよ。
それから、光触媒で空気をきれいにする機能をもたせたものも置きました。それが100本もあれば既存の空気清浄機とおなじ効果が期待できます。ひとつひとつの小さな機能をもつプロダクトを集合させることによって、全体としてゆったりとしたひとつの機能を発揮させる試みですね。
──そのインスタレーションで試されたアイデアは、今後KENZO PARFUMSの空間デザインにも転用されるんですか?
「KUUKI」は、現実の店舗と実験的な試みの中間的な位置付けなので、具体的なアウトプットとしてカタチになる可能性は長期的にはあると思います。
ただ、KENZO PARFUMSの空間は、3月にオープンしたパリのプランタンの店舗がベースとなって世界中で展開していきます。すべてが独立した店舗ではなく、空港の免税店のようなカウンターだけのスペースもありますから、その度に国や地域に合わせてアレンジします。
──それぞれに細かい指示をしていくんですか?
そうですね。ネストのコンセプト、あるいはKENZOらしさはどこでもおなじように表現されます。そこもまたKENZO PARFUMSの素晴らしいところで、ブランドを大事に育てようとする意欲を強く感じるんですよ。
僕らとパトリックさんも3カ月に一度位のペースで直接会って打ち合わせしますし、時間をしっかりかけて丁寧に進めています。今後もすごくいいカタチで進んでいくはずです。