本好き、雑貨好き、そのどちらの好奇心もみたす空間

長者町は名古屋の中心地に位置し、東京の日本橋横山町や大阪の船場とならび、かつて日本三大繊維問屋街としてさかえた町だ。現在でも繊維問屋街としてその面影をのこしつつも、バブル不況のあおりをうけ、付近には空きビルが目だつようになってきた。そんな古くからの歴史をもつこの町を、ファッションを中心にした活気ある街づくりとして、再生をめざすその中心にあるのが、今回紹介するエビスアートラボ、そしてえびすビルだ。

名古屋という町ほど、その規模にはんして感度の高い書店がある町は少ないのではないだろうか？ それは新刊書の良識あるセレクトであったり、自主企画のリトルプレス、そしてカテゴリーのへだたりやこだわりのない自由な古書のセレクトであったり、書店がこの町のひとつのカルチャーの発信源となりうる可能性さえ感じさせるものだ。

およそ10年、20年前にはあまり考えることのできなかった速度で、本をめぐる環境は若い読者や、本中毒者を中心にして変化をとげてきた。自分の趣味にかなった本を探すために古書店をまわる楽しみは、それが捜し求めているものがいっそうパーソナルであるだけに、既存のカタログや雑誌でえる情報よりも、ダイレクトに心にひびくものであったりする。

そんなある意味きわめてマニアックな趣味の延長上にあった本探しをめぐる日常の冒険は、いまではライフスタイルに見合った自分好みの雑貨や家具をさがすように、より広い層の人びとに浸透している。エビスアートラボ・フォーブックスは名古屋駅からほど近い、繊維問屋街の一角にある、カフェや雑貨店がショップをかまえる雑居ビルの4階にある。

狭い階段を4階まであがっていくその行程は、東京の私鉄沿線ぞいの古書店をさまよう感覚に似た高揚感をいだかせる。白い空間に並べられた本からは、本好き、そして雑貨好き、そのどちらの好奇心をみたす書籍や雑貨が並べられている。

書籍の品ぞろえは、洋書、新刊書、アートブック、グラフィックデザイン、子どもと大人のための絵本、古書、国内外のzineとよばれるクラフト感あふれるリトルプレスや、サブレタープレスの活版印刷のポストカード、mizushimaのグラシン紙をつかったレターセット、地元名古屋のアーティストの手による作品など。

「紙媒体によるコミュニケーション」をキーワードに、本と人との集まるこの空間には、ここに並べられた本のセレクトを手がける若いふたりの、暖かい人柄にひきよせられるように集まってきた、必然を感じさせる本や雑貨がそろっている。

本とは、それが上梓された時代の最先端をうつす媒体であると同時に、いつの時代にも古くなることのない歴史を映し出す記憶の絵巻物のようなものである。だから、いまの時代の感性の、渾身こめてつくられた本のかたちをしたものたちからは、いまの時代に固有のにおいを感じとることができる。エビスアートラボ・フォーブックスのような本屋さんが日本のどの町にもあり、その土地土地のにおいを感じさせる書籍をみることができるようになれば、街歩きはもっと楽しく豊かなものになるだろう。

YEBISU ART LABO FOR BOOKS｜
エビスアートラボ・フォーブックス
愛知県名古屋市中区錦2-5-29 えびすビルPART1 4F
営業時間｜
FOR GALLERY 12:00～20:00
FOR BOOKS 12:00～20:00（日・祝 12:00～19:00）
水曜定休
Tel. 052-203-8024
http://artlabo.net