第6回 レストランウェア――業務用グラスウェアへの挑戦
第6回
レストランウェア――業務用グラスウェアへの挑戦
文=金澤アリアードナPhoto by Jamandfix構成=竹石安宏(シティライツ)
全米じゅうのレストランを席巻した巧みな戦略
ファイヤーキングの名を知らしめた「ジェーン・レイ」の成功により、アンカーホッキング社はつぎなるマーケットを模索します。そして業務用グラスウェアの製造に乗り出すのです。こうして誕生した「レストランウェア」シリーズは、ジェーン・レイの繊細なイメージを払拭するかのように、肉厚でシンプルなスタイルに大きく変貌を遂げたファイヤーキングでした。それはたちまち、全米のレストランやダイナーの顔ともいえる存在へと進化していったのです。
その牽引役となったのが、機能性を重視したプレート類(写真上)です。なかでも3コンパートメントプレートは、バイキングスタイルが多かったダイナーなどにおけるワンプレートのサービスにマッチし、改良をかさねながらセールスをのばしていきます。さらに同時期に製造された5コンパートメントプレートは真んなかのくぼみにコーヒーカップをのせられるように、また2コンパートメントプレートは10ozボウル(写真下)が納まるようにデザインされていました。このような単品で購入するというよりも、お店の食器すべてをファイヤーキングに替えざるを得ない状況を生み出した巧みなセールス方法が実を結び、僅か5~6年で2500万ピースものセールスを達成したという記録が残っています。
こうした好調を受け、アンカーホッキング社は1960年代初頭に「アンカーホワイト」と呼ばれる白いレストランウェアの製造にも着手します。しかし、それまでのジェイドのイメージがあまりにも強すぎたことや、使用していくと汚れが目立つということもあり、浸透することもなく生産数はあまり多くありませんでした。そのため、近年デットストックで見つけることはたいへん困難となっており、希少性から価格の上昇にもつながっています。
現在まで評価され続けるシンプルなデザイン
また、レストランウェアよりも若干薄手の「ダイニングサービス」と呼ばれるシリーズは、こちらもホワイトですがロゴなどをあしらうオリジナルを製作できることもあり、大手のレストランチェーンやホテルから好まれて数多く受注されていました。有名なものではアンカーホッキング社の地元オハイオ州にあったレストラン「LK」(写真下)や「WAFFLE HOUSE」などが挙げられます。
そんなレストランのあった全米じゅうの街々、そして人々の思い出のなかに刻まれているであろうレストランウェアの食器が、時を経て現在まで再評価されてきた背景には、少しずつ改良をかさねながらシンプルで生活に密着した製品づくりを心がけていた、当時の名もなきデザイナーたちの努力があったからではないでしょうか。
余計なものを削ぎ落とし、シンプルであり続けようとすることは、なかなか難しいコトでもあると、私は思うのです。