連載・マシュー・ワォルドマン|Vol.14 Music Review 2010 Summer
ひと夏のヘビーローテーション・リスト
Vol.14 Music Review 2010 Summer
僕はこの夏も、僕自身を吹っ飛ばしてくれたり、少なくとも僕の夏のサウンドトラックになってくれるような曲を探そうと、たくさんの音楽を聴き、吟味し、そして実際に購入してきた。幸運なことに、僕の好みの音楽レーベルは、個人的によく知っているので、発売予定のプレビューサンプルCDを入手することで、僕は自分の感情をいつも特別な状態に維持することができる。下記は、Nookaオフィスで、どの曲がヘビーローテーションでかかっていたかについてのちょっとしたリストだ。
文・写真=マシュー・ワォルドマン
今回のレビューは組み合わせのたとえがよくできているから、読んで楽しんで!
たとえば、下で紹介するMatthew Dearの『Black City』は、どのジャンルにも当てはまらない。絶望的な事件、失恋の感情、善悪の判断のない衝動が住み着いた、想像上の大都市のような代物だ。ほぼすべてのニューヨークを舞台にした文学作品のように、『Black City』は愛憎乱れる場所であり、ナイトクラブの控え室のようにみすぼらしくて、世俗権力のようにひとを惹きつける。
『Black City』 by Matthew Dear
Matthew Dearは、ニューヨーク在住のミュージシャンだけれど、『Black City』の彼は、ほかのどこでもない音楽世界に住んでいる。揺れ、軋み、震え、深夜に叫んで眼を覚ますような、都会での生活における影の部分によって、他に比類のない作品だ。
『Black City』は、Matthew Dearのサードアルバムで、レーベルは「Ghostly International」。彼のアルバムでもっとも暗く、そしてもっとも心を奪う、記念すべき作品。
『Atlantique』 by Minitel Rose
僕が贔屓(ひいき)にしているフランスのエレクトロ・ポップのレーベルから、レトロフューチャーポップサウンドのしっかりとした新作。80年代よりも80年代的であることで、これはもう80年代×2=160年代!? だと僕は思う。フレンチアクセントの英語と、ボーカルを支えるファルセットの連続でいつも僕を元気にしてくれる音楽を創り出している。
『Disconnect from Desire』 by School of Seven Bells
School of Seven Bellsは本当に魔法を使った。シンボルや神話、マントラは、ヴォーカリストであるAlejandraと、Claudia Deheza、そしてギタリストでプロデューサーでもあるBenjamin Curtis(以前は、On! Air! Library! とSecret Machinesにそれぞれ所属)の手のなかにある。
このSchool of Seven Bellsの『Disconnect from Desire』は、ブルックリンのトリオによる、レーベル「Ghostly」のデビューアルバム『Alpinisms』につづくセカンドアルバム。そのタイトルは、Brian Enoのオブリーク・ストラテジーズ(イーノとピーター・シュミットが共同で制作したカードセット)の1枚のセンテンスから採られている。
それは神秘的なアルバム。イメージは魔法の記号。神秘的な姿にエネルギーが内包され、アルバム全体から意志が感じられる。『Disconnect from Desire』の本当の魔法は、その音楽のなかに人生が存在すること。遠大な10曲。その力の高さを発揮しているバンドによる幻のドリーム・ポップ。
『Maya』 by M.I.A.
賢く、興味深く、ひとを惹きつける。許されざる夏の太陽のもと、ありとあらゆるかたちや色がセクシーな熱気で弾み、男女で満たされた、ニューヨークの歩道のような熱く汗臭いサウンド。僕はとても感銘を受けた。
『Night Work』 by Scissor Sisters
昨年、僕は彼らのシークレットネームである、Queef Latifa名義でおこなわれたシークレットコンサートに招待され、この『Night Work』の収録曲をそこで聴いたことを自慢に思う。しかし、そこで彼らはこのコレクションを捨て、すべての楽曲を覆したように見えた。そして僕は認めざるを得なかった。もっと良い、と。僕はアルバムに収録されたRoxy Musicのカバーを観たいと思っていたけれど、たぶんその曲はシングルのカップリングだったのかな?
Fridaの『Something Going On』を彷彿とさせるサウンドが、SWEETの『Desolution Boulevard (USバージョン)』に出合ったような感じ。
この表現こそ、彼らのアルバムをもっとも要約している。まだ、彼らがこれほどヨーロッパでは有名なのに、どうしてこの国では有名でないのかがまったくわからない。また、どうしてKanye WestがTaylor Swiftのスピーチに乱入したこともわけがわからない。
『White Magic』 by ceo
今年iTunesで購入したなかで、もっとも不思議な一枚にちがいない。純粋に聴覚に訴えるすばらしい瞬間と、とにもかくにもポップミュージックの非常に強い表現とが融合した、表面上の耐え切れない稚拙さ。Panda Bearがオルタナティブの Beach Boysだとしたら、ceoはエレクトロニカのABBAだろう。──今回、組み合わせのたとえがよくできてるな。彼らがスウェーデン出身だということにまったく驚きはない(スウェーデンのインディーズにハマっているひとには、このことは固い絆のように聞こえる、なぜなら基本そうなのだから)。
『Crystal Castles (II) 』 by Crystal Castles
もし、あなたが好きな音をバンドに求めているときには、基本、すべての歌はおなじように聞こえてしまうことだろう。たとえばSTEREOLABのように。ブランディングのように うまくできることを繰り返すのはベストだとされている感覚もある。マクドナルドで毎回ちがう味を楽しみたいひとがいるのだろうか? そう、Crystal Castleはこのような枠には収まらない。このアルバムでは過剰なほどに多様な、ポップ、ダンス、エレクトロ、ムードのあるサウンドスケープと探求を怠らない。彼らはステージではちょっと厳しいのかもしれないけれど、でも全然構わない。だって僕はフェスに行くにはちょっと歳をとりすぎているから。
『Dark Night of The Soul』 by Danger Mouse and Sparklehorse
そして最後に1枚。ジャケ写はないけど、まずコラボレーターのリストが傑出していること(David LynchとJulian Casablancas、そしてIggy Pop!)。そしてティーンエイジャーにとってのゴス趣味に対して、大人が好むようなポップミュージックが、まだ産み出されていることはとても良いことだと思う。ひとりでクルマを運転しているときや、ひとりで過ごす夜に最適な音楽。さらには、どこに「sparklehorse」という名前が入っているものを愛することができないひとなんているんだろうか? このアルバムは「my pretty pony(TVシリーズ「Veronica Mars」に登場するインディー・ロックバンド)」が、しっかりと成長したように思わせてくれる。