第9回 子供用グラスウェアが体現する家族の幸福
第9回
子供用グラスウェアが体現する家族の幸福
文=金澤アリアードナPhoto by Jamandfix構成=竹石安宏(シティライツ)
豊かな時代のデザインとベビーブーム
1950年代のアメリカは、黄金期と呼ばれる高度成長の道を進んでいきます。国民の購買率は'46~'64年で22%増加し、同年の出生率も過去最高となるなかで、グラスウェアカンパニーもそうしたベビーブーマー世代に向けた商品開発に着手していくのです。プロダクト自体はもちろんですが、それまでの一般家庭向き商品とそれらが大きくちがっていたのは、手に取られることを強く意識したパッケージデザインではないでしょうか。
戦後のアメリカではドーナツ現象といわれた都市部郊外の拡大により、次第に大型ショッピングモールが買い物をする場所の中心となっていきました。そんな売り場のなかで、ディスプレー映えするチルドレンセットは、親になったばかりの若い層へ巧みにファイアーキングの新しさをもアピールしていくことになったのです。
私自身、子どもが産まれてからあらためて認識したのは、子ども用のモノは子どもではなく親が選ぶという、当たり前のことでした。つまり子どもが楽しく使えるようにつくられ、なおかつ親たちからも評価を得なければ売れない子ども用のプロダクトは、もっともアイデアが試されるカテゴリーのひとつであるように思うのです。
そんな趣向を凝らし、1950年代にファイヤーキングの「チルドレン・シリーズ」より発売されたのが、オリジナルで描かれた動物たちが可愛らしい「キディ・ミールタイム」です。当初はマグ、プレート、スーププレートの3点からなるセットで販売されていました。マグはこのセットだけのためにつくられた金型を使用しており、通常のスタッキングマグよりもひと回り小さく、ちょうど子どもの手にあったサイズとなっています。いまでは本当に状態のよい品には出会わなくなってしまった貴重なセットです。
グラスウェアに描かれた幸福
同時期に「チルドレン・シリーズ」より発売された3コンパートメントプレートは、大人用のものを子ども用に改良されており、底の部分がスプーンですくいやすいようにふっくらとしたデザインになっています。アイボリーに淡いブルーでグルリとまわりが縁どられており、筆でつけたような独特の色合いです。さらにこのプレートには、載せて使うラバー製のホルダーも付属されていました。これはテーブルに置いたとたん、子どもたちがひっくり返さないようにするためのもの。いまでいうこんなユニバーサルデザインをこの時代から採り入れていたことには驚かされます。
また、当時発売された子ども用のシリアルボウルには「サーカス」「ベイビー」「イート、スリープ、プレイ」「プレイヤー」という5種類の絵柄が存在したようです。こちらもそれぞれにラバー製のホルダーとスプーンが箱に入ってセット販売されていました。まだオムツをしている赤ちゃんたちが、抱き合ってお昼寝したり、体操してご飯を食べたりしている可愛らしい様子を、アイボリーにグリーンでプリントしたのが「イート、スリープ、プレイ」です。アンカーホワイトにレッドでプリントされた「プレイヤー」には、朝食後に海で友達と遊び、猫にミルクをあげて、寝る前にお祈りする子どもの日常が描かれています。
さりげなく描かれた絵柄に、家族ならではの物語が投影される。毎日の食事の時間。子育てに試行錯誤しながら紡ぎだす、たくさんのストーリー。歳を重ねると、大事なことを見失いそうになるときがあります。愛する人とともに食べ、眠り、笑いながら、心育つ時間を取りこぼさずに過ごしていけることが、幸せというものなのかもしれませんね。
次回はサファイヤブルーなど、クリスタルガラス製プロダクトをご紹介いたします。