連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第12回 収納のためのマジカルミステリーツアー
Design
2015年3月12日

連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第12回 収納のためのマジカルミステリーツアー

The Way We Live with “STYLE”

暮らしノート 第12回

収納のためのマジカルミステリーツアー(1)

“収納”と聞くといつも思い出すのは、建築家の妹島和世さんと西沢立衛氏がくしくも言い当てられておられた“テーブル理論”と呼ばれるマジカルミステリーです。

Text & Photographs by Yoko Ueno Lewis(Aug. 2012)

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収納のミステリーとは <Lessons Learned 疑問と反省>

簡単に説明すると、テーブルの上が仕事の書類やサンプルでいっぱいになってしまい、狭くて使いづらいくて、まったく片付かない……。ある日、決心して、もう一つテーブルを増やして倍の面積を使えるようにします。通常ならば、倍もテーブルが広くなったので、さぞかし使いやすくなり、仕事はずいぶんとはかどるだろうと想像できます。しかし……しばらくすると、以前にも増してテーブルの上はいっぱいになり、余裕どころか、さらなる混沌の面積がたんに2倍になったに過ぎないという結果に終わるのです。

上野容子|収納 02

上野容子|収納 05

収納のミステリーはここにあります。収納用品の専門店に行くと、収納に頭をいためているたくさんの人びとが大きなカートを押しながら、ぐるぐるとお店の中を歩き回り、真剣に収納用品を見定めています。収納には収納をするための収納用の箱やケースやラックやコンテナや袋やらが必要だと考えられているのです。私がここでいつも疑問なのは、その箱やケースやラックやコンテナや袋たちをどこへ収納するか? なのです。アメリカのハウスには幸いガレージという最大の収納スペースがあります。本来ここはクルマを止めるためのスペースなのですが、クルマはおしなべて毅然と通りに止められています。なぜなら、ガレージは、収納あるいは、ジャンクの一時的待機場所として、かなり昔からすでに満杯なのです。

上野容子|収納 07

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そして、もうひとつ、収納のための箱やケースやラックやコンテナや袋が、とうてい収納という地味で簡素な目的のためのツールとは思えないほど、自己主張が激しくて、仮にそこに何らかのものが無事収まったとしても、その外観がすでに景色や空気をかき乱してしまっていて、収納によって本来得るはずの、安堵感や達成感や解放感やすがすがしさのような平和な気持ちとはほど遠い、未消化で後味の悪い顛末が約束されているような気がするのです。とにかくプラスティックや樹脂製品が多いのも気になります。たしかに、収納用品にそれなりのお金を使い、ひとまず、その中にしかるべきものを収納して、そして問題は解決するはずなのですが……。

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収納のためのマジカルミステリーツアー(2)

そこで、考え方を変えてみます <Lessons Learned 解決策>

収納によって隠したり、納めたりしてしまわないで、収納を見せる方法を考えます。ここでの最大のポイントは、

自分の感性を最大限働かせること(例:好きな素材と好きな色を決める)
自分なりの法則を作ること(例:おなじ収納を偶数でくり返す)
作った法則は数年は守ること(一度しまい込むとあっという間に年月が流れる)
いわゆる収納用品に惑わされないこと(本当にそれを手に入れることで世界は整頓に向かうのか?)
記憶の糸を風景に結んでおくこと(しまい忘れは、しまわないで散らかっているよりも悲劇的である)

上野容子|収納 14

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①についての具体例
姿のいい箱やケースや容器を好きだという理由だけで手に入れて、その中に収納したいものを入れる。収納が先にあるのではなく、あくまでその箱やケースが美しいという理由を優先させる。

②についての具体例
もし、ケースや箱を購入する場合、ずらりとならんだときの景観を想像して、種類ではなく数に対してお金を使う。ふたつ以上、できれば偶数でおなじものを揃える。一つでは混沌の種となるが、ふたつ揃うと、それなりに統一感が生まれる。偶数はある種の秩序を生んでくれる。

③についての具体例
収納はその大半が過去の整理に近いので、あきのこない、目立たない、のちのち、じゃまにならない世界をめざす。

④についての具体例
クロゼットや物置に納まることが確実である場合以外、プラスティックや樹脂のものは使わない。その場合、先に、クロゼットや物置やガレージを片づけて、スペースを確保しておくという、収納に勝るとも劣らないプロジェクトの必要性を覚悟しておくこと。

⑤についての具体例
たとえば、この白い箱にはあのハギレが入っているというようなヴィジュアルを目に焼き付けておいて、箱を取り巻く風景といっしょに記憶する。収納した際に、目をカメラのシャッターのように使って、記憶の回路をつなげておく努力をする。

上野容子|収納 19

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今回紹介する写真はこの①から⑤までをそれなりに実践した結果のようなものです。ここで弁解を先にしますと、決して私自身が収納が上手なわけではなく、たとえ収納のためのモノであれ、気持ちに添わないものは、たとえペンケース一つたりとももちたくないという頑迷な意志に基づいているということです。そして、しまい忘れという不安がつねにあり、しまった途端に視界から消えてしまうことで、二度とそのものが再び浮上してくることがないという恐れをつねにもっているということです。

最後に「箱」についてのアドバイス。これは引っ越しの際のヒントにもなります。まず、段ボール箱は自分ひとりで抱えられるサイズにすること。ノックダウン式の身ふた形式のもので、荷造りテープで封をするタイプのものではなく、中に何が入っているかふたを開けて即見ることができるタイプのものを選ぶこと。おなじサイズのものをたくさん用意して、整然と積み重ねることができるようにしておくこと。できるだけ、色柄を避けて、クラフト色か白い箱を選ぶこと。

それでは、皆さん、Good luck !!

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