連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第6回 「フィール・フェルト・フェルト」
Design
2015年3月13日

連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第6回 「フィール・フェルト・フェルト」

The Way We Live with “STYLE”

暮らしノート 第6回 「フィール・フェルト・フェルト」(1)

3月11日の東日本大地震により奪われたたくさんのご尊命と、被災された方々に対し、深い哀悼とお見舞いを慎んで申し上げたいと思います。私の友人のご家族は岩手県大槌町で被災され、奇跡的に皆さまご無事でした。しかし、その後もたいへんな被災状況のなか、日々、生きるための想像を超える努力をされております。まず、この連載のページをお借りして、今後、私自身でできることはなにかと、日本にいる友人たちと協力し合いながら、具体的な方法を見つけて出していきたいと思っております。

写真と文=Yoko Ueno Lewis(Mar. 2011)


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ふたつの優れた素材を組み合わせること

今回ご紹介するのは、フェルトのオーガナイザーのデザインです。すべて、約A4大の3ミリ厚ウールフェルトに、何本かの切り込みと、いくつかのスクリュー(ネジ)をとおす穴を開けて、曲げたり、重ねたり、裏返したりして、スクリューで留めることでかたちにする立体造形の仕事です。

8年ほど前にフランクフルトでひと目惚れしたドイツ製のウールフェルトが、ようやくボストンのディストリビュータをとおして、比較的楽に(人気の色はしばしばsold out)手に入るようになったことで、飛躍的に創作意欲がわきました。3ミリ厚や2ミリ厚のウールフェルトを、曲げたり、ひっくり返したりすることで生まれるフェルトらしい3次曲線を出すには、いちばん効果的であるように思います。ポリエステルフェルトを使うと、もっと直線的な表情が出て、少しシャープで紙っぽくなり、おなじデザインでもまったくちがった見え方がします。

Yoko Ueno Lewis|フェルトワーク 06

Yoko Ueno Lewis|フェルトワーク 11

アルミのスクリューは品名Screw Postといいますが、これは俗称で、理由はわかりませんが、シカゴスクリューと呼ばれているようです。これは建築家だった夫が、畳ぐらいのサイズの設計図を大量に留めるために使っていたのを9年ほど前に見つけました。個人的にこの“cheap chic”な美しさにとても感激して、なんとかこのシカゴスクリューを、雑貨やステーショナリーのデザインに使いたいと思いつづけていました。

そんななか、このふたつの優れた素材を組み合わせることで、このデザインが実現したわけです。なにを入れてもいいようで、なにを入れようかと迷うようなデザインもありますが、基本的には、形のおもしろさを、使う方の好きな場所で、自由に楽しんでいただけたらと思います。


The Way We Live with “STYLE”

暮らしノート 第6回 「フィール・フェルト・フェルト」(2)

装飾に流れない、必然性を追いかけるという意味

いままで、セラミックスや木や紙を扱ったデザインをしてきましたが、フェルトのなにより魅力的なところは、図面が要らないことです。ただし、やみくもにすべて自由で、すべてその場かぎりの偶発性でかまわないかといえば、そういうわけではなく、そこに一定の制約というか、自分なりのルールを設けることにしています。

まず、フェルトはおなじ大きさの矩形を使い(長方形と正方形)、切り落としや切り抜きのむだを出さない。装飾に流れない。形の必然性を追いかける(美大の受験勉強のようですが)。これらの自分なりのルールのもとにつくることにしています。

装飾に流れない、必然性を追いかけるという意味は、言い換えれば、二度とおなじものがつくれないという世界のものではなく、おなじものが簡単にいくつもつくれるということになります。これが、デザインとアート(かつて純粋美術と呼ばれた)の大きくちがうところかもしれません。

日本は世界でも優秀なフェルトの生産国であることは、あまり知られていないようです。ピアノの鍵盤に貼るミルク色の厚みのある美しいフェルトです。ドイツや北欧やスイスのような風土や暮らしに根ざしたフェルトというより、日本のピアノ用フェルトは工業用フェルトとしてのコンセプトです。そのため、世の中のおもてに出ることはありません。ピアノの優れた音のために、フェルトはずっと息を潜めているわけです。

Yoko Ueno Lewis|フェルトワーク 19

Yoko Ueno Lewis|フェルトワーク 22

以前、メーカーさんの工場を見学したことがあるのですが、このミルク色の厚いフェルト、これは実際、ほんとうにすばらしくきれいです! 工業用フェルトのノウハウでドイツやスイス製のフェルトに勝るとも劣らない品質とカラーをじゅうぶんに出せると思いますが、なかなか、その分野が発展しないのは、やはりライフスタイルのせいでしょうか? ヨーロッパのようにフェルトが身ぢかな素材として伝統的なデザインやプロダクツとして、長いあいだ、受け継がれているという文化がないと、難しいのでしょうか?

手編みのウールのセーターは、何回も洗っているとフェルト化してしまいます。ある日突然、ガーンと縮んでしまったセーターを見て、ショックを受けたものです。子どものころはそれでも、パンパンにはち切れそうになりながら、フェルト化した純毛のセーターをみんな着ていたように思います。Feel, felt, felt……

フェルトは、私のようなミシンとか裁縫とかが苦手で、めんどうくさがりやのタイプには、断ち目や耳や繊維の方向といった性質を気にしなくていいので、まさに素材の王様なのです。スクリューをはずすと1枚のフェルトにもどってくれるし、とにかく軽い。まさに私には理想的な素材なのです!

今回OPENERSで紹介しているのは、ほとんど初公開のフェルトのオリジナルデザインアイテムです。ご興味のある方はぜひご連絡ください。資料をお送りいたします。
(デザイン著作権登録番号 VAu 1-047-435)

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