連載・Yoko Ueno Lewis|暮らしノート・第3回 「メイドイン・オキュパイド・ジャパンを知っていますか?」
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暮らしノート 第3回 「メイドイン・オキュパイド・ジャパンを知っていますか?」
ハロウィンと中間選挙が終わり、アメリカは加速度的にホリデーシーズに突入していきます。毎年この時期になると日本生まれのMr.スノウマンのことを思い出します。
写真と文=Yoko Ueno Lewis(Nov. 2010)
MADE IN OCCUPIED JAPANの意味
写真でおわかりのようにMr.スノウマンは綿(わた)でできています。色褪せてはいますが、赤いモールでできた鼻と黒目がちの瞳、銀紙の帽子、そして3段ではなく2段重ねの姿にどことなく親しみがもてます。(アメリカ生まれの雪だるまは3段重ねなのです。)ちょっと失礼してコロンと裏返してみると、MADE IN OCCUPIED JAPANの文字があります。つまりアメリカが日本を占領していた1945年から1952年のあいだにアメリカ向けにつくられ、大量に輸出されたプロダクツの意味なのです。
当時、数え切れないほどたくさんのMr.スノウマンとその仲間たちは、すでに圧倒的に豊かだった見知らぬ遠いアメリカへわたり、大きなハウスの中心に据えられたツリーのたくさんのオーナメントのなかのひとつになって、遠い日本を思いながらクリスマスを祝う幸せな家族の姿を見つめていたのです。
チープでジャンキーなオーナメントたち。ひとつひとつにJAPANの文字が見えます。終戦間もない日本の小さな町工場で、裸電球の光のもと、きらきらと赤や緑や金銀に飾り立てられたオーナメントを箱詰めしながら、自分たちの暮らしとは縁遠い勝戦国のクリスマスの輝きを、当時のひとたちはどのような思いで想像していたのでしょうか?
モールでできたサンタは見覚えのあるひとも多いと思います。昭和30年代の日本の家庭にはどこでもこんなモールサンタがツリーの陰でおどけていたのでは? ただしこの写真のサンタ氏たちもアメリカへやってきた仲間です。
ウエスト・ジャーマニーのクゲル
19世紀の終わり、当時のツリーは白いガチョウの羽根でつくられていました。雪をかぶったツリーを表現するには白い鳥の羽根がぴったりだったのです。そこに飾られたガラス製のボールをKUGEL(クゲル)と呼び、当時、最初に発売したのはいまも庶民の暮らしを支えるウォールグリーンでした。色とりどりのきらきらと光るクゲルはあっという間に人びとをとりこにしました。飛ぶように売れるクゲル──写真のものは戦後から1960年代ぐらいのもの。私が買い集めたころのアンティークショウでは1ドル均一でほとんど投げ売りされていました。色褪せた赤やブルーのきらめき、はげ落ちかかった手描きの筆の跡が1ドルの価値を超えて、いまでもあたたかい夢を運んでくれます。ここにあるのはMade in West Germany――終戦直後の“西”ドイツ製のクゲルは当時からとてもよくできていて、人びとの人気をさらっていたようです。
小さな夢を映していたクリスマスオーナメントたちにも、思わぬ歴史がありました。ひとが生きてきた暮らしの歴史のなかにこそ、モノたちの寡黙なストーリーが隠されています。
晩秋のプラハを訪れたときに偶然友達と見つけた地元のステイショナリー屋さん。ここでオーナー自ら手づくりしていたエンジェルたちがあまりにも悲しくて……かわいいのではなく、悲しくて……思わずたくさん買って連れ帰ったオーナメントです。
More Possibility !!
去年からPossibiliTreeのツリーを使っています。“ポシビリトゥリー”、ポシビリティ(可能性)をもじったところがなんともクールなコンセプトです。ミネソタ洲に住む建築家Babcockさん一家の手によるすばらしいツリーです。
http://possibilitree.com/
写真はテーブルトップタイプのウォルナッツで、ほかにバーチ、チェリー、ワイルドチェリーの3色があります。ツリーそのものもすてきですが、その送られてきた状態がとてもすばらしいものでした。すべての枝用の細長い板と幹用の芯の金属棒と丸棒が大きめのランチオンマットのような布にしっかりとしかも優しくくるまれていて、思わず、つくったひとの木に対する愛情を感じました。このポシビリツリー、家族代々永続的に使えるうえ、輸送の負荷もなく、しかも間伐材を使っている、これこそ究極なこれからのツリーといえるかもしれません。
じつはポシビリツリーは家ではなにも飾らないで“素”のままで、しかも年中飾っています。昼間の木漏れ日でさえ似合うツリー、というよりオブジェのような気がします。
more treesのプロジェクトでもたくさんのすてきなアイデアとデザインのプロダクツが巣立っています。PossibiliTreeやmore treesのようなコンセプトがこれからは年を追うごとにごく当たり前のことになっていくと実感するのは、西暦2010年も終盤となったこの季節です。
追伸:そういえばもうひとつうちには年中のツリーがありました。木でできたモチーフやオーナメントを気の向くままに吊り下げています。ツリーというより「吊りイ」……ポシビリティはどこにでもある……そういう暮らし方がいいですね。