マクラーレンとアストンがいま福岡に進出する理由|McLaren & Aston Martin
McLaren & Aston Martin |マクラーレン & アストンマーティン
英国の2ブランドの正規代理店が福岡にオープン
マクラーレンとアストンがいま福岡に進出する理由
マクラーレンならびにアストンマーティンは九州・福岡に正規販売代理店をオープンすると発表した。英国の2ブランドが同時展開するこの正規代理店は、台湾の永三MOTORSの海外進出店で、5月にオープンする。
Text by OTANI Tatsuya
台湾資本のディーラーが英国の2ブランドを同時展開
4月9日、永三MOTORS株式会社は九州・福岡にマクラーレンならびにアストンマーティンの正規販売代理店をオープンすると発表した。
その運営母体である永三汽車は2008年に台湾で誕生した自動車ディーラー。現在、アストンマーティンとマクラーレンのほか、ベントレーやブガッティを取り扱っているが、販売実績や顧客満足度などの点で世界的に高い評価を得ているという。とはいえ、海外資本の自動車ディーラーが日本で事業を興すというケースは極めてまれ。なぜ永三MOTORSは英国を代表するふたつのスポーツカーメーカーを日本で販売することになったのだろうか。
まず、アストンマーティンもマクラーレンも福岡地区にこれまで正規販売店を有していなかった点が理由として挙げられる。永三MOTORSによれば、福岡地区は日本のラグジュアリーカー市場のおよそ10パーセントを占める規模があるという。この地域に適切なディーラーを置くことで地元の市場を開拓できれば、両社の国内ビジネスにとって大きな意味を持つ。
先ごろ設立されたアストンマーティン・ジャパンの母体となったアストン・マーティン・アジアパシフィックは10年ほど前からディーラー設立に向けて様々な検討をおこなってきたが、結果的に有力な候補が見つからなかった。いっぽう、おなじアストン・マーティン・アジアパシフィックが管轄する台湾では永三汽車のディーラーが大きな成功を収めていた。そこでアストンマーティンがまず永三汽車にアプローチ。このとき、永三汽車側も海外進出を検討していたため、両社の思惑が一致した。
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英国の2ブランドの正規代理店が福岡にオープン
マクラーレンとアストンがいま福岡に進出する理由(2)
台湾でのノウハウと実績で成功をめざす
いっぽうのマクラーレンに対しては、アストンマーティンのディーラーをオープンすると決めた永三汽車側からアプローチ。アストンマーティンだけのディーラーとするよりはマクラーレンもあわせ持ったほうがビジネス的リスクは少ないと判断した結果だろう。
それだけではなく、アストンマーティン側もマクラーレン側も福岡地区のディーラーを永三汽車に任せたいとする積極的な理由があった。
まず、最初にオファーしたのが誰であったにせよ、ティモシー・チャン会長以下、永三汽車が福岡進出に極めて前向きかつ情熱を持っていたことが大きな原動力となった。聞けば、チャン会長の祖父は日本の慶應大学で学び、父も日本でファッション関係のビジネスを展開しているという。つまり、チャン会長にとって日本はとても馴染みの深い国だったのだ。
もうひとつ、永三MOTORSにはディーラーとしてだけでなくインポーターとしての機能が求められている点が理由として挙げられる。
大手の輸入車系メーカーであれば、まず自動車メーカーの日本法人が本国から製品を輸入し、それを日本国内の正規代理店に割り当てるというスタイルをとるが、少なくともマクラーレンにかんしていえばディーラーが直接イギリス本社とやりとりし、車両やパーツの輸入業務を請け負わなければいけない。もちろん、コミュニケーションには英語が用いられる。
これは、日本車系自動車ディーラーなどにはおいそれとは受けられない業務だ。しかし、永三汽車はすでにこうした作業をおこなってきた経験を有する。そもそも永三汽車のスタッフの大半は英語を話せるため、イギリスとのコミュニケーションには何ら障害がないという。
3番目の理由は、永三汽車がこれまで台湾で積み重ねてきた実績である。
先ほども紹介したとおり、永三汽車は取り扱い自動車ブランドからベストディーラー賞などを受賞したことがあるが、同社の販売台数や販売伸び率が世界的に見ても高い水準にあることから贈られたものだという。この結果、台湾の高級車市場のシェア60パーセントを占めるほどの成功を収めていると永三汽車は説明する。
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マクラーレンとアストンがいま福岡に進出する理由(3)
5月にショールームオープン
発表会に出席したチャン会長にビジネス成功の秘密をたずねると、「いえ、私たちはまだ成功しているとは思っていません」と謙虚な言葉を前置きしたうえで、「私たちの目標はお客様に満足していただくだけでなく、お客様のご期待を超える喜びをもたらすことにあります。そのため、ショールームでは最高の接客ができるよう社内教育に務めているほか、サーキットを用いたトラックイベントやツーリングなど様々な催し物を企画し、お客様に参加していただいています」と語った。
最後に永三MOTORSの目標販売台数について質問すると、「私たちは販売目標を設定していません。私たちの目標はお客様に喜んでいただくことで、これができれば販売台数はおのずとついてくるものと考えています」と答えた。
つまり、永三MOTORSは短期的な利潤を追求するのではなく、日本に腰を落ち着けたビジネス展開を図るつもりなのだ。そのことは、今年10月に福岡市東区原田にオープンするショールームが敷地も含め同社の自社所有である点にもあらわれている。
永三MOTORSはまず今年5月に福岡市博多区下川端町の西銀ビルを仮のショールームとして開業した後、展示からアフターサービスまでをおこなえる上記のショールームに移転して本格的な業務を開始する計画だという。