サイレントスポーツカーの伝統を守る6.75リッターV8

ミュルサンヌの特徴をひとことで表現すると「エレガントであると同時に文字通りに極めてスポーティ」（ベントレーモーターズ会長兼CEOのドクター・フランツ＝ヨゼフ・ペフゲン）となる。文字通り、というのはルマン24時間レースがおこなわれるコースのミュルザンヌコーナーに由来した車名を指している。

ルマン出走に代表されるレース活動を戦前からつづけてくるという、世界でも希有な高級車メーカー、ベントレーの独自の立ち位置を表現するのに、ふさわしい車名として今回ここに、またミュルザンヌの名が採用されたことになる。伝統と最新技術のマリアージュという点で象徴的なのが新設計のターボチャージドV8の特性。かつてサイレントスポーツカーと呼ばれたベントレーの在り方に忠実に、低回転域から強大なトルクを発生することが目標された。実際は1,750rpmから最大トルク1,020Nｍを発生する。この最大トルクの数値じたいも驚くべきものだ。

21インチタイヤをオプション設定

新世代のエンジンには、さらに最高レベルの洗練性と、エンジン効率を改善し現在だけでなく将来の厳格な環境基準に適合することが目標として課せられた。そこでハイパワーとともに、CO2排出量削減と燃費改善のため、可変シリンダーシステムが採用され、巡航時には4つの気筒が休止する。

3,266mmという長いホイールベースをもつシャシーは新設計で、リクライニング機構までリアシートに与えるなど広く快適な室内空間をもたらすとともに、スポーツセダンというキャラクターを高い次元で実現している。サスペンションシステムには連続可変ダンピングコントロールが備わり、オプションで用意される21インチタイヤによるスポーティな操縦性も楽しめるような設定となっている。

同時に「世界でもっとも贅たくなグランドツアラー」というドクター・ペフゲンによる目標を到達するために、高級素材をふんだんに使用するとともに、英国のクラフツマンを総動員して、これ以上はないというぐらい丁寧な手づくり感覚を活かしたのも特徴だ。

114色というボディカラーをはじめ、標準だけでも24色の革や、豊富なウッドの種類と、そこにほどこされるインレイまで、好みでさまざまなものを選ぶことが可能だ。また丁寧な手作業の例では、ハンドルのレザーにほどこされるステッチだけでも15時間、もしクロスステッチを選択すれば45時間、縫いの作業にかけるという。まさに贅たくの極み。

ウッドレールをキャビンを取り囲むように配するなどインテリアもかなり手のこんだ意匠だ。「実現するのは大変だった」と今回ミュルザンヌとともに来日したインテリアデザイナーのロビン・ペイジ氏は語る。それでもこのようなほかがやっていない意匠を実現するのも超がふたつぐらいつきそうな高級車にとって必要なこと。「このクルマの製造プロセスのうち、ほぼ半分の170時間以上がインテリアの製作にかけられます」とのことだ。

デリバリーは2011年の第１四半期から

外観上は大型のヘッドランプが目を惹く。「1950年代のSタイプへのオマージュ」とペイジ氏は言うように、大型のランプの外側には小型ランプを配した4灯式というのがミュルザンヌ独自のフロントフェイス。メインランプにはLEDランプが組み合わされていて、一度見たら忘れられない個性を作り出している。中央のラジエターグリルは、ベントレーの伝統的なマトリックスグリルという格子状で、その作りはものすごく手のこんだものだ。

「アルナージよりホイールベースで15cm、全長で17.5cm、それぞれ長くなっています。いっぽう車重はおなじ2,585kgにとどまります。たとえば8段オートマチックのギアボックスを、アルナージの6段ギアボックスより10kg軽くするなど、あらゆるところで軽量化に取り組んでいます。エンジン出力特性やサスペンションの設定を任意で変えられるドライブダイナミックコントロールなどを装備して走らせる楽しさを味わっていただけるクルマになっています」とベントレーモータースジャパンでは語っていた。デリバリーは2011年の第１四半期からだそうだ。

BENTLEY MULSANNE｜ベントレー ミュルザンヌ
ボディ｜全長5,575×全幅1,926×全高1,521mm
エンジン｜6.75ℓ Ｖ型８気筒DOHC＋インタークーラー付ターボ
最高出力｜377kW[512ps〕/4,200rpm
最大トルク｜1,020Nm[102kgm〕/1,750rpm
駆動方式｜後輪駆動
トランスミッション｜8段AT
価格｜3880万円