「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える!? (第1回)
CAR / MOTOR SHOW
2015年4月13日

「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える!? (第1回)

気鋭の自動車ジャーナリスト3人が緊急ミーティング

「東京モーターショー2009」発信、電気自動車が未来を変える!? (第1回)

海外メーカーの出品数が2社にとどまり、総来場者数も前回から43パーセント減の61万4400人になるなど、世界的大不況の煽りを食うかたちとなった第41回「東京モーターショー 2009」。しかし実際は各社、次世代車の展示に余念がなく、未来への提言も多かった。この激動の時代に、クルマはどこへむかうのか? 気鋭の自動車ジャーナリスト、小川フミオ、島下泰久、渡辺敏史の3人が「東京モーターショー」を通して、自動車界の今とこれからを斬る。

Text by OPENERSPhoto by MASAYUKI ARAKAWA

東京とフランクフルトの決定的な“差”とは?

オウプナーズ 昨年のリーマンショック以降はじめての「東京モーターショー」でしたが、率直な感想をお聞かせください。

渡辺 いやもう、大変なことになったなぁって感じでしたね。出展者が減ったぶん会場がすかすかで、あれじゃあパターゴルフができちゃいますよ。いちばん気になったのは、海外メーカーがごっそり抜けることは半年前から目に見えていたのになんの策も講じていない自工会(日本自動車工業会)ですね。出展者が減るのもインポーターが来ないのも経済事情で仕方のないことですが、もっと考えようがあったはず。

島下 9月に開催された「フランクフルト国際モーターショー」でさえ出展社が3割減で衝撃を受けましたが、日本のようなさみしさは感じなかった。盛り下がり感を出さないような努力が見えましたよね。それは主催者もそうだし、各メーカーにしてもそうです。日本は、自工会も残ったメーカーも危機感をもって盛り上げるために頑張ったかっていうと、あまりそうは見えなかった。日本の不甲斐なさのほうが気になりましたね。

小川 1980年代後半から90年代中半、ヨーロッパ車が日本勢に圧されたことがありましたよね。でも不況とか売り上げ減とかいわれながらも、欧州のメーカーは次世代に向けての新車開発の努力を怠らず、そのあと結果が花開き、どんどん魅力的なモデルで市場開拓することができた。日本はいまおなじような努力をどれだけやっているのでしょうね。

渡辺 生産台数ベースで言えばトヨタが世界一でしょうけど、ヨーロッパメーカーには自分たちのなかで自動車のトップは我々だという強烈な自負がありますよね。

トヨタの展示スペース

島下 国内でクルマにかかわっている就労人口の割合も日本よりもはるかに高いですし、やらざるをえないっていうところもあるんでしょうけどね。あとは、「東京モーターショー」とは何なのかを主催者たる自工会は提示するべきですよ。デザインについてはやっぱり東京だよねとか、最新技術の情報は東京が一番だよねとか、モーターショーのコンセプトを明確にを打ち出していかないと存在価値がなくなっちゃうんじゃないかと思いますね。

小川 そう、今回モーターショーが来場者をひきつけられなかったのはコンセプト不在だったから。従来もコンセプト不在でしたが、クルマの魅力でそれをカバーしていました。ただ、2年前に不参加企業が出てきて、「ジャパン・パッシング」(日本を飛び越えて中国へ)という言葉が出てきたときに、頭を使って対策を講じておくべきでした。たとえば、各社の社長が会場に来ているわけですから、モデレーターをつけてディスカッションをしてもおもしろかったのでは。モーターショーは「魅力的な日本に投資してください」って海外に向けてアピールする場なわけでしょう? もったいなかったですね。

渡辺 このままいったら次回がなくてもおかしくないですね。

小川 単なるお祭り騒ぎでないんですよ。地盤沈下している日本の現状にもっと危機感をもってほしいですよね。たんにショールームが幕張に引っ越してきたという認識ではまずいわけです。国内メーカーはしようがなしに参加している感ありありでしょう。

最先端の環境対応モデルが集結

オウプナーズ 電気自動車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池電気自動車など、メーカーによってさまざまな提案がありましたが、その点はどう感じました?

日産「LEAF(リーフ)」

島下 報道はエコカー一色だけど、実際のところ新しいエコの提案ってどれだけあったかなって気がしません? EV時代とか言われていますけど、リアルなEVにかんして言えば三菱「i-MiEV」もすでに出ているものだし、トヨタやホンダが並べていたものも単なるコンセプトカーでしかなくて。ニューモデルとして登場したのは日産「LEAF(リーフ)」くらいでしたよね。

小川 コンセントから充電できるいわゆるプラグインハイブリッドは、一般のひとにとってははじめてのお披露目でしたけれど。

渡辺 僕はこういうときに地に足がついているなって思ったのはダイハツとマツダでしたね。たとえばダイハツが出展していた2気筒エンジン。今後、クルマをより小さく、軽く、原価を下げていくという方向で考えたら、1リッター以下の小排気量車がクローズアップされてくる。現在の軽自動車の主流は3気筒ですが、2気筒になれば部品点数が減って軽くもなるし、小さくもなる。工数も減るのでコスト面でも都合がいいですし。また、その2気筒もモジュール化して4気筒にすれば1.3リッター程度のエンジンでBセグメント、Cセグメントくらいまでカバーできますから。

島下 マツダは今回、車両の軽量化も謳っていましたよね。次世代のプラットホームで車重100キロ減らしてくようなことを宣言していましたし。このあいだフォルクスワーゲンのシュタイガーさん(渉外部パワートレーン責任者のウォルフガング・シュタイガー博士)と話をしたら、ピュアEVは2020年になっても1.4パーセントくらいだろうって言ってましたよ。プラグインハイブリッドの類いはどんどん出てくるけど、ピュアEVはまだまだだって。結局、航続距離を伸ばすにはバッテリーを大容量にするしかないわけじゃないですか。コストを考えても現実的じゃないですよね。バッテリーの廃棄の問題も出てきますし。

マツダ「清(キヨラ)」

オウプナーズ ところで、デンソーの出展ブースでバイオエタノールの話を聞いたのですが、従来のようにトウロモコシやサトウキビのような食料を原料としないらしいですよ。

小川 微細藻を燃料に使う研究ですね。いまベンチャー起業が米国では300社ぐらいあるとか。日本と英国も熱心ですね。いいところは自然由来なので製造過程でCO2が出ないことと、熱価が高いところ。いまの研究ではここからオイルを抽出してバイオ燃料にすることですが、乾燥したものでも石炭に匹敵する熱価があるそうです。エタノール燃料のための畑で自然環境を悪化させることもないでしょう。日本の微細藻は温泉でとれるそうですよ。

島下 その流れで言えば、今の時代、クルマの情報ってインターネットでいくらでも閲覧できるのにわざわざ会場まで来るひとって感度が高い層じゃないですか。そこには、実車を見られるという意味では一般のニューモデルが置いてあってもいいかもしれないけど、ショーならではのディープな何かが展示されている必要があると思うんです。たとえばホンダは「今回はディープな展示ではなく間口を広げて」と言っていましたけど逆じゃないのかと言いたいですね。わざわざ来てくれたひとには、来たからこそ手に入るものを提示しないと。

渡辺 僕は今回のプレゼンテーションのなかではホンダが一番まともだと思いましたけどね。ちゃんとショーをクリエイトしていたし、自分たちがやりたいのはどういうことなのかを明確な言葉できちんと伝えていたと思う。

島下 間口を広げたぶん奥行きもあればいいんですよね。

小川 深い情報をとれるようにするとかね。なにしろ、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドの開発者自身が、「リチウムイオンバッテリーはまだまだ開発途上の技術」って言っていたりしますから。本当のところ、技術はどこまで進んでいるのか、ハイブリッドのバッテリーの廃棄やリサイクルはどうなっているのか。そんなこと教えてあげてもいいかもしれないですね。リサイクルは社会インフラとかかわってきますから、たんに自動車単体にとどまらない影響力が我われの生活に及ぶわけです。

島下 トヨタはハイブリッドを世界に発信している草分けメーカーなのにハイブリッドのことを深く理解できる展示ってなかったじゃないですか。なんでハイブリッドが素晴らしいのかがわかる説明、トヨタはもっとしたほうがいいと思ったけど。「解決しなきゃならない問題はこれだけあるけれども、未来はここですよ」って言えば、なるほどそうなんだって思ってもらえる。

小川 ハイブリッドやEVが出てきていますが、完成するのにあと20年は必要という見方もあるわけです。東京モーターショーと並行してフォルクスワーゲンがジャーナリスト向けにワークショップを開いてくれたのですが、そこで未来のトレンドをリサーチして自動車の研究開発に反映する仕事をしているドイツの技術者が、「私たちはいまのところガソリン車でできるところまでやる。いたずらに電池の開発とかインフラの開発をやるより、CO2の排出量を低く抑えられるから」と語っていました。そういう議論の場としてモーターショーの会場を提供してくれてもいいかもしれないですね。ただそうなると、幕張より東京のほうがいいですね。もう「わざわざ行く」のは時代遅れですよ。

ミツビシ「i-MiEV(アイ・ミーブ)」と小川氏

ホンダの電気自動車「EV-N」

※(注1)ヨーロッパの新車乗用車販売に占めるディーゼル車のシェアが急増、大気汚染が深刻化したことにより設けられたEUの環境規制のこと。2011年から全新型車に排出ガス規制「ユーロ5」が適用される。さらに2015年には、次世代の規制である「ユーロ6」の適用が予定されている。

OGAWA Fumio|小川フミオ
フリーランスジャーナリスト。自動車誌『NAVI』『Motor Magazine』編集長を歴任。現在は『オウプナーズ』をはじめ、雑誌『GQ』『日経おとなのOFF』『EDGE』などで自動車の連載をもつ。個人的にはポルシェ993カレラに乗るが、電気自動車とかハイブリッドもクルマとしておもしろいと思っている。税金だけのために買うのではなくクルマの魅力の面からEVやHVの新しさが注目されればよいのだけれど。昨今ではそんなことを考えている。

SHIMASHITA Yasuhisa|島下泰久
モータージャーナリスト。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲とした執筆活動のほか、エコ&セーフティドライブをテーマにした講演、インストラクター活動もおこなう。2009-2010日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に『極楽ハイブリッドカー運転術』『極楽ガソリンダイエット』(いずれも二玄社刊)がある。ブログ『欲望という名のブログ』http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/

WATANABE Toshifumi|渡辺敏史
企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)にて2・4輪誌編集業務経験後、フリーライターとして独立。ジャンルを問わずに自動車のコンセプト、性能、専門的事項を説明し、時代に求められる自動車のあり方をユーザー視点で探し、執筆するライターとして活躍中。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。

           
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