NISSAN GT-R Spec V|日産 GT-R スペックV|第4回 LONG TERM TEST
NISSAN GT-R Spec V|日産 GT-R スペックV 第4回
2000km点検を受けた
第4回を数える日産GT-R スペックVの「LONG TERM TEST」。今回のテーマは、アフターサービスの初回となる「2000km点検」です。Spec V 用に専門教育を受けたテクニカルスタッフが配属されているハイパフォーマンスセンター『日産プリンス東京販売・亀戸店』で実施された点検の詳細をリポートします。
text by OPENERSphoto by Jamandfix
Spec Vのために考案された、スペシャリストによる特別点検
全国7店舗のみの販売形態など購入時から異例づくめなSpec Vだが、「2000km点検」においても同様、あらためてこのクルマの特別な位置づけに気づかされる。まずは、点検項目を紹介しよう。ノーマルのGT-R、いわゆる基準車にも起用されている共通メニューとして、ホイールアライメントの測定と調整、エンジンとトランスミッションのセッティングが行われる。これに、Spec Vの特別点検項目が追加となる。
ブレーキローターの測定、ブレーキパッドの目視チェック、冷却水の漏れチェック、チタンマフラーの取り付け状態の点検だ。これは、カーボンセラミックブレーキやチタンマフラーなど、専用のパーツが使われていることが主な理由だが、GT-Rと共通の検数値についてもより厳密な判断基準が設けられている。さらに、Spec Vの点検を手がけられるのは、特別なレクチャーを受けたスペシャリストのみに徹底。今回、亀戸店では、レースでのメカニック経験もあり、サーキット走行を熟知した、Spec V認定テクニカルスタッフの山田浩章氏が約8時間に及ぶ点検に対応してくれた。早速、その詳細を報告したい。
日産初のカーボンセラミックブレーキ点検
はじめに取りかかったのは、車体下部のパネルを外しての目視点検だ。水漏れ、オイル漏れ、パーツのゆるみなどをひととおり確認後、とくに問題ないとのことで次の作業へ進む。
つづいてSpec V最大の特徴であるカーボンセラミックブレーキの点検。タイヤを外し、ローター表面や内側のひび割れ、ボルトの錆びなどの確認が行われた。まず、カーボンに衝撃を与えないようSpec V用に特別に製作されたカバーを取り付ける。これは、カーボン素材がとくに外部からの衝撃に弱く繊細なためだという。無事タイヤを取り外したら、カーボンセラミックブレーキの周波数測定へ。ブレーキパッドとブレーキローターの隙間に専用器具を差し込み、パッドがフリーの状態になるようセッティングした状態でローターに加速度計を取り付けハンマーで叩き、周波数を測定する。
この数値は、ドライバーのドライビングパターンや癖により走行していくと変化するが、ローターに記載された新品時の周波数を目安に、誤差が100以内であれば問題ないとのこと。さらに、周波数を測定時の音をヘッドホンで確認。この際、いくら周波数に問題がなくても、鈍い叩音がしたら要注意だという。ひび割れなどの可能性があるからだ。やはり、最後に頼りになるのはスペシャリストの目と耳というわけだ。そして最後に、ブレーキパッドの残量を測定(残量が3.5mm以下になると警告灯が点灯する)。それをタイヤ4本分行った。
ここまでの工程が約3時間。それだけを考えても、今回の点検がいかに慎重に行われているかご理解いただけるだろう。この後、ホイールアライメントの測定・調整を行う前に、リフトに上げていて伸びてしまったサスペンションの状態をもとにもどすため、山田さんは慣らし走行に出かけて行った。
好みにあわせ、ホイールアライメントを調整
さて、走行を終えたSpec Vは、ホイールアライメントチェックにとりかかる。これは、レーザー光線で計測するアライメントテスターによって行われる。まず、ターンテーブルの上にそれぞれのタイヤを乗せ、各ホイールに反射板を装着。調整前の数値を測定する。 その後、左右の誤差を0にしながら、キャンバー角とトー角をオーナー好みの設定に変更していく。たとえば、「サーキット走行メイン」の場合キャンバーを多めにとり(より角度をつけ)トーアウト(マイナス)に、「街乗りメイン」の場合はキャンバーを立て(垂直に近づけ)トーイン(プラス)にするといった具合だ。
蛇足ながら、サーキット走行を想定した設定の場合はより回頭性が高まり、街乗り仕様の場合はより直進性が高まる。また、前者の場合、キャンバーを多めにとることによってタイヤの編摩耗の傾向が、街乗り仕様よりも顕著になるとのこと。オウプナーズSpec Vは、基本的に日常のアシとしての使用が中心のため、今回は「街乗り仕様」を指定。キャンバー角を小さくし、トー角をプラスにもっていった。
キャンバー角(左右の誤差をなくし、垂直に近づける)
前輪(右)|調整前-1°56’/調整後-1°44’
前輪(左)|調整前-1°49’/調整後-1°44’
後輪(右)|調整前-1°42’/調整後-1°43’
後輪(左)|調整前-1°49’/調整後-1°43’
トー角(左右の誤差をなくし、プラスに仕上げる)
前輪(右)|調整前0.1mm/調整後0.7mm
前輪(左)|調整前0.4mm/調整後0.7mm
後輪(右)|調整前1.6mm/調整後0.2mm
後輪(左)|調整前-1.1mm/調整後0.2mm
表組みをご確認いただければおわかりのとおり、調整前では左右輪でかなりのばらつきがあった数値が、きれいに揃えられている。調整後に実際に乗ってみると、キャンバー角を少なくしたことでフロントタイヤの接地面が増えたためか、中立付近でのハンドルのすわりがよくなり、直進性が高くなったように感じられた。また、ステアリングフィールが、わずかではあるがよりしっとりと適度な重みをともなうようになったのも好感触だった。
つづいては、トランスミッションのセッティング。この作業はすべてパソコンでの操作を通してオートマチックに行われる。要はパソコンから指示を送れば、クルマが勝手にギアを1段1段セレクトしながら、各ギアの適正値に調整してくれるのだ。さすが最先端のハイテクカー! と感動しているあいだに、トランスミッションの点検は終了。最後に、冷却水の漏れチェック、チタンマフラーの熱変形・垂下り取りチェック、ライトの点灯チェックを行い、すべての作業は終了した。
ちなみに、今回の2000km点検は、ほかの車種がそうであるようにすべて無料で行われるわけだが、これだけ手の込んだ作業を目の当たりにすると、なんだか得した気持ちにさえなる。ディーラーを後にして首都高速をオフィスへむけて走行中、シフト時の感触からステアリングフィールまで、なんとなく雑味がとれ、クルマ全体がスムーズかつ引き締まったように感じられた。得した気持ちがさらにふくらむのだった。