MTとシーケンシャル、2台のアバルト500を試す|Abarth
CAR / IMPRESSION
2015年7月10日

MTとシーケンシャル、2台のアバルト500を試す|Abarth

Abarth 500|アバルト 500
ドライビングプレジャー発生マシン

MTとシーケンシャル、2台のアバルト500を試す

フィアット「500」をベースとし、サソリのエンブレムとともにスポーツモデルへ仕立て上げられたアバルト「500」。これまでの5段MTにくわえ、この春にはシングルクラッチの5段シーケンシャル トランスミッションを搭載するモデルが追加された。みずからアバルト500のMTモデルを所有する武田公実氏が、愛車とともにこの追加モデルを試乗。クラッチペダルの有無は、アバルト500の魅力をどう変えるのか。

Text by TAKEDA HiromiPhotoraphs by HANAMURA Hidenori

エンスージアスト泣かせのエキゾーストサウンド

筆者は職業柄「なにか愉しいクルマはない?」などと尋ねられることが多いのだが、ここ最近ではかならず“アバルト”の名前を挙げることにしている。

洋の東西、あるいはクルマのジャンルや販売価格帯を問わず、現在日本国内で購入できるクルマのなかで、アバルト「500」とその仲間たち(上級、高性能モデルの「595」および限定バージョンの「695」)は、こと「乗る愉しさ」にかけては、当代まれに見る傑作と確信しているのだ。

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5段シーケンシャルMTAモデルにはあらたにパドルシフトが備わる

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筆者がその愉しさに魅せられて購入した5段MTのアバルト500

先に白状してしまおう。今回の主役、この春から日本に正規導入された5段シーケンシャルMTA“アバルト コンペティツィオーネ”を組み合わせた赤いアバルト500は、フィアット クライスラー ジャパンからお借りしたテスト車両だが、もう一台、従来の5段MTをもつ比較対象として登場しているグレーの「500」は、日頃から筆者自身が愛用しているプライベートカー。つまり、みずから購入してしまったほどに魅せられたクルマなのである。

アバルト500の魅力は、クルマが動き出した次の瞬間から体感できる。ごく低い回転域では少しだけターボラグを感じるが、エンジンの回転数が2,000rpmを超えて、いわゆる“カムに乗る”領域に入ってしまえば、いまどきのホットハッチとしては一見控えめと思われるはずの135psが、じつにパワフルに感じられるのだ。

そして何よりドライバーを愉しませてくれるのは、そのサウンド。中速域からアクセルを踏み込んだ時、間髪入れず聴こえてくる“ヴォロロロッ”という乾いた排気音は、旧き良きイタリアのクラシックカーを偏愛する筆者にとっても堪らなく魅惑的なものと感じられる。

「595コンペティツィオーネ」や「695」系に標準装備、「500」系と「595ツーリズモ」でもオプション装着が可能な純正スポーツマフラー“レコード モンツァ”の弾けるようなサウンドも素敵なのだが、ノーマルマフラーのコク深い咆哮も捨て難い。

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いずれにしても、アバルトはエンスージアストの“泣かせどころ”を良くわきまえていることがわかるのだ。

Abarth 500|アバルト 500
ドライビングプレジャー発生マシン

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「柔よく剛を制す」ごときヒラヒラ感が、より明確に味わえる

おなじチンクエチェント系アバルトでも、595や695、あるいはおなじ500でも、メーカー純正チューニングパッケージ“エッセエッセ”キットを組み込んだ車両とくらてしまえば、今回の2台、“素の500”の絶対的パワーとトルクがおよばないのは明白。しかしそれと引き換えに、ブーストの立ち上がりや低中速のレスポンスは、若干シャープなものとなる。

それゆえ、例えばサーキットなどの非日常空間で595などに勝てないのはまちがいないが、翻ってシティドライブやちょっとしたワインディングを走らせるならば、この500の方が速い。あるいは「速く感じられる」ようだ。そして、これが雰囲気を盛り上げるには大事なところなのだが、あの“ヴォロロッ”も595系より頻繁に聴くことができるのである。

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いっぽう、“素”のアバルト500のナチュラルなキャラクターは、操縦性についても感じられる。

595シリーズ以上には、エッセエッセ仕様車とおなじく若干低い姿勢にセットされたスポーツサスペンション+17インチのタイヤ/ホイールが組み合わされるが、ノーマルのアバルト500は16インチタイヤに標準サスの組み合わせ。当然ながらコーナーではやや深めのロールを許すが、ノーズヘビーなFF車であることをまるで感じさせない回頭性は大きく変わらない。

またサーキットで595/695とくらべてしまえば、ややアンダーステア傾向が強めに出るものの、われわれ一般ドライバーにとっては日常的なワインディングでは、いささか使い古された表現ながら「柔よく剛を制す」ごときヒラヒラ感が、より明確に味わえる。つまり、使用状況や嗜好によっては、あえて500を選択するのも充分にあり得ることと感じるのだ。

Abarth 500|アバルト 500
ドライビングプレジャー発生マシン

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リズミカルなドライブを快適に演出するシーケンシャルMTA

そんなアバルト500だが、今回のテストドライブにおける最大の関心は、やはり今年4月に追加された5段シーケンシャルMTAについてであった。すでに国内導入されてひさしい595系や695系では乗り慣れたMTAながら、低中速トルクの立ち上がりがナチュラルな500との組み合わせには、意外にもフレッシュな感銘を受けることになった。

昨今では、やや旧式な印象ももたれがちなシングルクラッチ式シーケンシャルなのだが、良い意味でのダイレクト感が多分に残されており、シフトアップ&ダウンのリズムがとても計りやすい。

かつてアルファロメオに搭載された“セレスピード”から発展したシステムを採用しつつも、その洗練度はまったくの別物。筆者が常用している5段マニュアル版とくらべても、まったく遜色のないドライビングの愉しみを堪能させてくれるのだ。

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おなじシステムを使用しつつも、595/695系に組み合わされた場合には絶対的な速さのためのMTAという意味合いが強く感じられたが、こちら500ではたんなるイージードライブに留まらず、よりリズミカルなドライブを快適に演出する小道具としてのMTAと感じられる。このあたりの作りわけの妙にも、アバルト技術陣の見識の高さをまざまざと見せつけられてしまったのである。

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アバルトマジックは、いまなお健在

アバルト500は、コンパクトハッチの形態と、その実用性を兼ね備えつつも、中身は生粋のライトウェイトスポーツカー。フィアット「500」も素晴らしい一台であることに疑問の余地はないが、ベースをおなじくしつつも、まったく別のクルマとして成立している。

現体制で三代目となった「ミニ」を筆頭に、名だたる傑作車の揃う当代のホットハッチのなかにあって、アバルト500とその仲間たちこそ、最高の“ドライビングプレジャー発生マシン”のひとつなのだ。半世紀前に、当時のエンスージアストを魅了した“アバルトマジック”は、いまなお健在と言えるだろう。

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ちなみに筆者自身のアバルト500は、2013年モデル。純正オプションのサイドストライプおよびルーフデカールや、フィアット500用の純正ドレスアップパーツであるボンネットモール&クロームメッキのドアミラーカバー。そして、かつてのアバルト黄金期である1960年代を意識した復刻ステッカーなどで少しだけ派手に仕立ててはいるものの、中身はまったくのノーマル車両である。

このような軽めのコスメティックチューンにくわえて、アバルトではチューニングキット“エッセエッセ”やスポーツマフラー“レコード モンツァ”などのメーカー純正チューンも設定されている。さらには、アフターマーケットの専用パーツも世界各国で積極的に展開されているなど、オーナー自身の個性や世界観を反映したアバルトを自由自在に創ることもできよう。そういった意味でも、アバルトの魅力はこれからいっそうの広がりを見せてゆくだろうと確信しているのである。

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ABARTH 500│アバルト 500
ボディサイズ│全長 3,655 × 全幅 1,625 × 全高 1,515 mm
ホイールベース│2,300 mm
トレッド前/後│1,415 / 1,410 mm
重量│1,110 kg
エンジン│1,368cc 直列4気筒 DOHCターボ
最高出力│
(5段MT)99 kW(135 ps)/ 5,500 rpm
(5段シーケンシャルMTA)103 kW(140 ps)/5,500 rpm
最大トルク│
180 Nm(18.4 kgm)/4,500 rpm
(SPORTスイッチ使用時)206 Nm(21.0 kgm)/3,000 rpm)
トランスミッション│5段マニュアル、オートマチックモード付き5段シーケンシャル
駆動方式│FF
ブレーキ前/後│ベンチレーテッドディスク / ディスク
サスペンション前/後│マクファーソンストラット / トーションビーム
タイヤ│195/45 R16
燃費(JC08モード)│(5段MT)14.9 km/ℓ  (5段シーケンシャルMTA)13.8 km/ℓ
CO2排出量│(5段MT)156 gm/km  (5段シーケンシャルMTA)168 g/km
トランク容量|185 リットル(後席格納時 550 リットル)
価格(消費税込み)│(マニュアル)276万4,800円  (5段シーケンシャルMTA)292万6,800円  

           
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