ASTON MARTIN Cygnet|アストンマーティン シグネット
ASTON MARTIN Cygnet|アストンマーティン シグネット
英国の名門が放つ
世界初の“クールでラグジュアリーなシティカー”に試乗(1)
アストンマーティンが「ラグジュアリーなテイラーメイド・シティカー」と謳うシグネット。日本での発売と機をおなじくして、香港にて発表試乗会が開催された。トヨタ自動車とのコラボレーションより生まれた、同社初のマイクロコンパクトカー の真価とは。
Text by OPENERSPhoto by ASTON MARTIN
あたらしい時代の都市とライフスタイルに合わせて
「私たちにとって、シグネットは非常に重要なモデルです。このクルマは、ボディが小さいからといって、安価なコンパクトカーだというわけではありません。世界ではじめての、クールでラグジュアリーなシティカーといえるでしょう」
かねてより話題を呼び、今年1月よりヨーロッパでの販売がスタートしたアストンマーティン製マイクロコンパクトカー シグネット。このたび香港で開催されたそのアジアローンチイベントの席で、同社デザインディレクターでシグネットのデザインを手がけたマリック・ライヒマン氏は語った。
ご存知のとおりシグネットはトヨタiQがベースであり、同社CEO ウルリッヒ・ベッツ氏がトヨタ自動車社長の豊田昭夫氏とニュルブルクリンク24時間耐久レースのさいに意気投合したのがきっかけで誕生したコラボレーションカーだ。しかし、アストンマーティンにとってシグネットは、たんなる話題づくりで投入したモデルでは、ない。ライヒマン氏の熱意に溢れた口調は、そんな同車への意気込みを十分にかんじさせるものだった。
「いま、世界は変化しています。時代とともに都市もライフスタイルも変わっていきます。その変化にあわせて、自動車メーカーも変わらなければなりません。クルマも、あたらしい価値感、ライフスタイルにフィットしていかなければならないのです」
3メートルのボディにいかに美しさを表現するかがテーマ
なるほど、1914年の創業以来、モータースポーツの歴史に輝かしい足跡を残し、いつの時代においても息をのむような流麗なボディに、並外れた性能を誇るスポーツカーのみを少量生産してきた同社だが、都市における交通環境、エコロジーにたいする規制やユーザーの意識の変化を鑑み、従来のモデルバリエーションとは一線を画すコンパクトカーに食指が動いたのだろう。
とはいえ、このクルマがマーケティング的、政治的な必要性から、トヨタiQを手っ取り早く化粧なおししたモデルかといえば、さにあらずだ。
「アストンマーティンは、つねに美しいプロダクトを生み出そうとしてきました。シグネットでは、3メートルという短いボディに、いかに美しさを表現するかがテーマでした」
ライヒマン氏が語るように、エクステリアにおけるiQとの共通点は、ルーフとリアフェンダーのみだという。前後バンパーはよりワイド感が強調された造形となり、アルミ製のグリルやサイドスリット、エナメル製のバッジといったアストンマーティンならではのデザイン言語が、やんごとなき血統を主張している。コンパクトで愛嬌のあるたたずまいながら、誰が見ても一目でアストンマーティンだとわかるデザインは、ライヒマン氏率いるデザインチームの手腕のなせるわざだろう。
アストンマーティン製ラグジュアリーコンパクト「シグネット」販売開始!(1)
ASTON MARTIN Cygnet|アストンマーティン シグネット
英国の名門が放つ
世界初のラグジュアリー・マイクロコンパクトカーに試乗(2)
DB9と同量のレザーが用いられたインテリア
ドライバーズシートにおさまっても、その印象は変わらない。「細部にいたるまで徹底したクラフツマンシップが貫かれている」とアストンマーティンが謳うとおり、コンパクトなボディからは想像もつかないラグジュアリーな空間が実現されているからだ。シートをはじめ、ドアパネルやインストゥルメントパネルにも、DB9と同様のレザーが張り巡らされ、ステッチはイタリア製の高級スーツのごとくすべてハンドで仕上げられるという。ちなみに、使用されているレザーの量もDB9とおなじなのだそうだ。これならば、既存のアストン・ユーザーがセカンドカー、サードカーとして手に入れても、満足できるしつらいといえるだろう。
一方、走りにかかわるメカニズムについては、遮音材が追加された程度で、ほぼiQのままだという。
「アストンマーティンの理念、それはパワー、ビューティ & ソウルです。シグネットはシティカーですから、パワーの部分は手をくわえる必要がないと判断しました」。前出のライヒマン氏は、エンジンやサスペンションといったメカニズムに手を入れなかった理由について、そう説明した。
時代の寵児
それゆえシグネットは、ラインナップの兄貴分のような、胸のすくようなエンジンサウンドや加速も、シャープなハンドリングも、持ち合わせていない。香港の市街地をタウンスピードで試乗しているかぎり、トヨタiQと同様、極めてよくできたシティコミューターだということが理解できる。起伏に富み、狭い路地が入り組んだ街中を、なんのストレスもなくすいすいと走り抜けていく。回転半径が小さいうえに見切りもいいから、Uターンも縦列駐車も思いのままだ。たしかに都市を移動するうえで、これほどよくできたツールはなかなか存在しないだろう。
いまや、ボディサイズやエンジンパワーだけがクルマのヒエラルキーを決定するファクターではないのはご承知のとおりだ。さらに、ハリウッドセレブがこぞってプリウスに乗るという事実が象徴するように、環境にコンシャスであることが、アストンマーティンのターゲットたる富裕層やインフルエンサーにとっても重要な価値感になってきている。シグネットは、まさにそんな時代の寵児ともいえる、まったくあたらしいマイクロコンパクト・ラグジュアリーカーだということが、香港での短い試乗をとおして確認できた。
願わくは、兄貴分たる既存のモデルがそうであるように、ステアリングを握ること自体が、ドライバーにとって特別な時間となるような走りの“味”を湛えていてほしかった、といったらいささか贅たくな望みだろうか。ま、スマートにとってのブラバス仕様のように、エンジンや足まわりにアストンマーティン独自のチューニングをほどこしたよりスポーティなモデルがラインナップされれば、筆者の戯言も簡単に解消されるのかもしれないが。
ASTON MARTIN Cygnet|アストンマーティン シグネット
ボディサイズ|全長3,078×全幅1,680×全高1,500mm
ホイールベース|2,000mm
車輛重量|988kg
エンジン|1.33リッター直列4気筒16バルブ
最高出力|72kW(98ps)/6,000rpm
最大トルク|125Nm/4,400rpm
トランスミッション|6段MT、CVT
燃費(欧州複合サイクルモード)|56.5mpg(6段MT)、54.3mpg(CVT)
CO2排出量|116g/km(6段MT)、120g/km(CVT)
価格|475万円から