BMW M140iに試乗|BMW
BMW M140i|ビー・エム・ダブリュー M140i
BMW M140iに試乗
BMWのコンパクトハッチ「1シリーズ」でも最もスポーティなモデルが「M140i」だ。Mを冠する初のコンパクトカーとしていち早く登場した系譜だが、いまやクーペの「M240i」や、さらに過激な「M2」も導入されるなかで、その立ち位置を、小川フミオ氏が試乗して再確認をする。
Photographs by ARAKAWA MasayukiText by OGAWA Fumio
M140iならではの美点
BMW車の魅力はエンジンだ。そう言い切ってしまうには少々の逡巡があるけれど、少なくてもエンジンを存分に“楽しめる”クルマが揃っている。これこそBMWならではの魅力である。
楽しめるとはどういうことか。その答はM140iにある。比較的コンパクトな車体に直列6気筒エンジンを押し込んだモデル。少し前に流行った言葉を使うとホットハッチの典型だ。
M140iはふつうのBMWとは少々ちがう車名を持つ。理由は「M Performance Automobiles(エム・パフォーマンス・オートモービルズ)」と定義されているところにある。
エム・パフォーマンス・オートモービルズとは、特別なBMW車だ。パワートレインおよびシャシーに、高性能モデル開発を請け負うBMW M 社によるスポーティなチューニングが施されている。加えて「エモーショナルな専用デザイン」(BMW)も。
アクセルペダルを少し踏んだだけでクルマは弾かれたように発進し、そのままペダルを踏み込んでいくとエンジンは驚くほどなめらかに回る。それにつられてウィンドウ越しに見える景色がすごい勢いで後退していくのが眺められる。
加速感と回転を上げていったときに力が出てくる気持ちよさ。よく出来たガソリンエンジンの見本である。電気自動車が増えてくる時代にあって、これは最後の輝きなのだろうかと考えてしまったりするが、よき時代のBMWが今はまだ健在だと分かるのはやはり嬉しい。
そもそもM140iのベースは全長4,340mm程度のハッチバックボディを特徴とする「1シリーズ」だ。2016年に追加されたディーゼルエンジン搭載の「180d」など燃費とパワーのバランスがよくたいへん好ましいモデルに仕上がっている。
いっぽうM140iで“バランス”という言葉を使おうとしたらエンジン性能と操縦性の2つがともに高いレベルにあるという意味になる。別の言い方でこのクルマの魅力を表現するならパワフルな楽しさが存分に味わえる、となるだろう。
同じパワープラントは先に取り上げた「M2」にも搭載されている。M2との違いはドライブトレインにおいてM140iはトルコン式オートマチックであるのに対してM2はツインクラッチタイプを搭載していることだ。マニュアル変速機はどちらのモデルにも設定がある。
M140iにはこのクルマならではの美点がちゃんとある。
BMW M140i|ビー・エム・ダブリュー M140i
BMW M140iに試乗 (2)
BMWらしさへの期待を裏切らない
サーキットを意識したBMW M2に対してM140iならではの特徴はどこにあるだろう。たしかにシャシーの作りなどM2との違いはそれなりに大きい。
M140iの魅力は、M2との価格差といえる。M2が768万円であるのに対してM140iは578万円だ。スムーズでパワフルな6気筒エンジンを楽しむことを主眼にみれば、M140iの存在理由はここにあると僕は思う。もちろんM2はクーペだからスタイルが違うわけだが。
新世代の3リッター6気筒エンジンは、250kW(340ps)の最高出力と500Nmの最大トルクを発生する。コンパクトなボディに対してかなりのパワーだということが数値で分かる。
M140iを走らせていると、昔からBMWに惹かれてきた理由を思い出す。乾いた快音をたてながらレッドゾーンまでいっきに回る6気筒エンジンといい、ステアリングホイールを切ったときの動きといい、ザ・BMWだと感心する。
BMW車の魅力は大きなパワーを上手にコントロールする技術にあると思う。同じグループのMINIは“ゴーカート フィーリング”といってステアリングホイールを切ったときに車体をロールさせずに曲がっていくフィールを特徴としている。
BMWは(Mモデルは別として)もっと大人っぽい。操舵したときにじわっと車体がロールしていくいい感じがある。それがキャラクターになっている。
M140iも同様に太めのグリップ径をもつステアリングホイールとシャシーがしっかりした剛性感でもって結合されている印象がある。もっといえばドライバーと車両の一体感すら感じられる。
正確な操舵感で自分が考えたとおりのラインを守って走れる。この感覚こそドライビングの醍醐味である。BMW車が好まれるのはエンジンのフィールとこのシャシーコントロール性にあるわけで、M140iは期待を裏切らない。
クルマのコンセプトとしてはカリカリのスポーツモデルでなく、GT的な味付けが濃い。そのため高速でも楽チンだ。足回りの設定はしなやかで、路面からの突き上げは少ない。
アクセルペダルに載せた足の軽い動きに敏感に反応してトルクを調節し、繊細な加減速を行う直列6気筒エンジン。高速ではこのフィールを存分に味わえる。これも素晴らしい。
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BMW M140iに試乗 (3)
スポーティさと大人っぽいぜいたくさを両立
M140iは従来の「M135i」の後継モデルにあたる。従来より最高出力を10kW(14ps)、最大トルクを50Nm向上させているのが特徴だ。
静止から時速100kmまでの加速は4.6秒と発表されており、それがおそらく掛け値なしだろうということは操縦していると感じられる。
いっぽうで雰囲気もよい。外観は大型化したエアダムを備えたフロントにすごみがある。車高がやや落とされているのでいっそうスポーティさが色濃い。それでいて感触のいい革張りシートなど、ぜいたくさがちゃんとある。
たとえば試乗したモデルのように赤いレザーシートを活かした内装。インテリアにもクルマの世界観を徹底することが重要とよくわかっている。
日本の自動車メーカーは、スポーティなクルマの内装づくりはとても上手になってきた。次にはこのM140iのようなスポーティさと大人っぽいぜいたくが両立したコンパクトカーなど手がけてほしい。そんなことを思わせるクルマだ。
後輪駆動のよさをしっかり持ったコンパクトカーという希有な存在のBMW 1シリーズ。その一つの極にあるM140iはどんな場面にも使える万能選手なので、つきあってみてもいいだろう。