新型ルノー トゥインゴにパリで試乗|Renault
Renault Twingo|ルノー トゥインゴ
新型ルノー トゥインゴにパリで試乗
私がトゥインゴに惹かれる理由
2014年のジュネーブモーターショーでデビューし、今春日本への導入が予定されている3代目ルノー トゥインゴ。これまでのモデルと異なり、RRレイアウトで登場した同モデルに、モータージャーナリスト大谷達也氏がパリで試乗した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by MATSUNAGA Manabu
フランス車ならではの価値を体現した初代トゥインゴ
新型のルノー「トゥインゴ」にどうしても乗りたくてパリを訪れた。正直にいえばトゥインゴの試乗以外にもフランスに出かける用事はあったのだけれど、せっかく行くなら是非トゥインゴを試してみたいと思い、パリで広報車を借り出して半日ほどあちこちを走り回ってきた次第である。
なぜ、私はそれほどトゥインゴに惹かれるのか? 2代目トゥインゴのGTというスポーティモデルに2年ほど乗っていたことも関係しているけれど、本当に衝撃的だったのは1993年にデビューした初代トゥインゴと出会ったときのこと。フランス車が急激にインターナショナル化していったこの頃、かつてのようにサスペンションストロークが長くてふんわりした乗り心地を持つモデルは次第に姿を消し、ドイツ車を思わせるソリッドな足回りが主流をなすようになっていた。
ところが、トゥィンゴはそういった潮流に敢然と立ち向かうかのように、フランス車の伝統的なソフトな乗り心地とともに登場。かわいらしいスタイリングのボディにオトナ4人が余裕で腰掛けられる室内スペースを確保するという、いかにもフランス車らしいバリューをひっさげて私たちの前に現れたのである。このクルマが私は大好きだった。
いっぽう、2代目トゥインゴも真面目に作られたコンパクトカーで、私は実に幸せな2年間を過ごしたのだけれど、初代トゥインゴに比べれば“フランス味”は薄口で、「これも時代の流れか……」という一抹の寂しさを感じなくもなかった。
そのせいかどうか、2014年ジュネーブショーで3代目トゥインゴが登場したときも、なぜか私はあまり関心を抱かなかった。「どうせ効率化が推し進められた分、面白みが減ったコンパクトカーになってしまったんだろう」と勝手に思い込んでいたのかもしれない。
これが重大な勘違いであることに気づいたのは2015年東京モーターショーでのこと。そこで展示されていた3代目トゥインゴのカットモデルは、エンジンの搭載位置が通常のフロントではなくリア(!)であることを示していたのだ! このときを境にして、私の3代目トゥインゴに対する見方はがらっと変わることになる。
Renault Twingo|ルノー トゥインゴ
新型ルノー トゥインゴにパリで試乗
私がトゥインゴに惹かれる理由 (2)
シャシーの洗練度はなかなか高い
VW「ビートル」、フィアット「500」(2代目)、ルノー「4CV」などを例に挙げるまでもなく、コンパクトカーといえば昔はリアエンジン・後輪駆動(いわゆるRR)の宝庫だった。それが1959年にミニが登場すると、コンパクトカーの潮流はフロントエンジン・前輪駆動(いわゆるFF)へと次第に変わっていく。室内スペースが広く確保できるうえに直進性が良好で、生産性が高いから低コスト化にも結び付くFFは確かにいいのだけれど、これだけコンパクトカーがFFだらけになると、天の邪鬼な私は「RRでコンパクトカーを作ろうとする気概のあるメーカーはないのか?」と誰とはなしに問いかけてみたくなってしまう。
もっとも、現代にRRのコンパクトカーがないわけではなかった。スマート「フォーツー」はその代表格だろうし、VW「アップ!」もコンセプトカーはRRだった。けれども、洗練度の点でフォーツーには満足できなかったし、アップ!も量産車はFFとしてデビュー。私の悶々とした思いが解消される日はなかなかやってこなかった。
そんなわけで3代目トゥインゴには興味津々だったわけだが、いっぽうで不安も抱いていた。RRといえば直進性に難があるというのが自動車界の常識。果たしてトゥインゴは長距離ドライブに出かけたいと思うくらい、良好な直進性を確保しているのか? そもそもルノーが久々に作ったRRモデルは現代の水準で見ても十分に洗練されたハンドリングや乗り心地を有しているのか? さらにいえば、3代目はフランス車の伝統であるソフトな乗り心地を継承しているのか? こうした数々の疑問を抱えながら、私は新型トゥィンゴでパリの街を走り出すことになった。
先に答えを言ってしまうと、私の心配はすべて杞憂に終わった。新型トゥインゴはまっすぐよく走るし、乗り心地とハンドリングのバランスは良好だし、現在のルノーのラインナップのなかでいえばカングーと並ぶくらいソフトでしなやかな足回りが与えられている。
ただし、細かく見ていけば、パワーステアリングはややデッドに感じられるほか、高い直進性を演出するためにパワーアシストに軽いセルフセンタリング機能が盛り込まれている点が気にならなくもない。このため、直進状態から丁寧に、そしてゆっくりとステアリングを切り込んでいくと、あるところで操舵力が微妙に重くなったり、軽くなったりするのを感じることがある。
でも、これはかなり真剣に観察しないと気づかないレベル。デッドなステアリングフィールもすぐに慣れるはずだし、逆にこの感覚が身体に馴染んでくると、前輪の接地状態がむしろはっきりと掴めるようになって安心感が増す。ちなみに、取材日は生憎の雨模様だったが、滑りやすいパリの石畳を走ってもなんら不安を感じなかった。
ここまでの内容でご理解いただけたとおり、シャシーの洗練度はなかなか高い。ボディの剛性感にも不満を抱かなかったし、静粛性だって十分に合格点を与えられる。ただし、冷間時はエンジンの振動が少し大きめで、この影響で内装材の一部がカタカタと揺れている音が聞こえることがあった。もっとも、昔からのフランス車好きであれば、これはまったく気にならないレベルと断言できる。
Renault Twingo|ルノー トゥインゴ
新型ルノー トゥインゴにパリで試乗
私がトゥインゴに惹かれる理由 (3)
エンジンは0.9リッターターボと1.0リッター自然吸気の2種類
いっぽう、デザインは内外装ともに期待以上の完成度だった。ボディパネルの面精度が高いうえに、パネルとパネルの間隔(いわゆるチリ)がきっちりとあっていて、高級感さえ漂う。微妙な曲面を随所にあしらったスタイリングは、グラマーでありながら繊細、オトナっぽいのにかわいらしさも兼ね備えるという絶妙なテイスト。おそらく、ボディカラーやオプションで用意されるステッカーのデザイン次第で、さまざまに表情を変えることだろう。
インテリアのデザインもよかった。いや、よかったなんてものじゃない。ポップで、クォリティ感があって、使いやすくて、とても気に入った。室内スペースだって広々としている。唯一、気になったのは、後席のフロア部分がやや高めで、このため大のオトナが腰掛けると膝がやや折れ曲がった姿勢になることくらい。もっとも、ヘッドスペースもニースペースもたっぷりとしているので、姿勢がやや不自然になるだけで狭いと感じることは間違ってもないだろう。
エンジンは0.9リッターターボと1.0リッター自然吸気の2種類、ギアボックスは5段MTと6段DCTの2種類がそれぞれ用意されるが、2016年春と見込まれる日本導入の段階では0.9リッターターボと6段DCTの組み合わせのみとなる見通し。「ルーテシア・ゼン0.9L」と基本的に同じ0.9リッター ターボエンジンは、なぜかルーテシアと違って中低速が力強く感じられたが、6段DCTとのマッチングは良好で、市街地走行では低いエンジン回転数を保ったまま次々とシフトすることで軽快な走りを披露してくれる。ギアチェンジそのものは決して素早くないが、十分にスムーズなので不満は感じない。同じような走りをMTでしようとすると、かなりせわしいのではないか。私が日本で乗るなら、間違いなくDCTを選ぶ。
ここまで敢えて新型スマート フォーフォーとの関係を述べなかったが、実は3代目トゥィンゴと新型フォーフォーはどちらもスロベニアにあるルノーのノボメスト工場で生産されている。また、エンジンはどちらもルノー製を基本としていることも共通。つまり、2台は兄弟車なのだ。そう考えると、フォーフォーのふんわりとした乗り心地にも「なるほど」と納得がいくことだろう。ちなみに、日本仕様のフォーフォーは1.0リッター自然吸気エンジンと6段DCTの組み合わせとなっているが、だからといってパワー不足とは思わない。一般道や首都高を走る範囲でいえば、これで十分なはず。
では、トゥインゴとフォーフォーのどちらがいいかと問われれば、これはブランドとデザインの好み次第としか答えようがない。ちなみにデザインは意外にもトゥィンゴのほうがオトナっぽい。また、後席はヘッドルーム、ニールームともにトゥインゴのほうが広かったのも意外だった。
ちょっとした買い物にも便利なコンパクトカーは毎日の暮らしに彩りを与えてくれるもの。だからこそ、乗り手の気分を明るくしてくれるクルマを選びたい。優れた実用性と魅力的なデザインを備えた新型トゥインゴは、コンパクトカー選びの楽しみをぐんと広げてくれることだろう。