Jaguar XKR-S|ジャガー XKR-S 史上最強のジャガーに試乗!
Jaguar XKR-S|ジャガー XKR-S
史上、最強かつ最速のジャガーにポルトガルで試乗!(1)
2011年3月のジュネーブモーターショーでジャガーから発表されたのは、XKシリーズの頂点に立ち、ジャガー史上最強と謳われる「XKR-S」だ。ジャガー車がこれまで培ってきた豪華さや気品はそのままに、本来もっていたスポーツカーブランドとしての歴史を垣間見せた同車に、モータージャーナリスト 河村康彦がポルトガルにて試乗した。
文=河村康彦
本来のあり方の象徴となったXKシリーズの頂点
世界を代表するスポーツカーブランドは?
そんな問いかけを耳にしたとき、一般には「ポルシェ、フェラーリやランボルギーニといった名前が浮かぶ」というのが普通だろう。一方で、そこに「ジャガー」をくわえようとなると、異論もあらわれそう。というよりも、その名を挙げたこの時点で、「ジャガーって、高級サルーンのメーカーだろ!」と、耳に届かぬ多くの声が聞こえるような気もする……。
けれども、第二次大戦後にリリースされたXK120や、それにつづくXK140や150といったモデル。さらには、このブランドの名声を不動のものとした、世界的名車と言われるEタイプなどなどと、じつはジャガーというのは「つねにスポーツカーと歩んできたブランド」と紹介しても過言ではない。くわえて、かつてはサーキットフィールドでの活躍も目覚しかったもの。前出XK120をベースとして生まれ、ル・マン24時間レースを戦い、そして勝利を得たCタイプやそれにつづくDタイプなど、一時期のジャガーはサーキットでの活躍と切っても切れないブランドでもあったのだ。
なるほどとくに日本では、これまでおこなわれてきたプロモーションの効果もあって「ジェントルマンのためのフォーマルなサルーンメーカー」というイメージが今でも漂うというひとは少なくないはずだ。しかし先に述べたように、その本質はもっとずっとアクティブで若わかしいもの。そして、そうした“本来のジャガー”のキャラクターを象徴するかのような作品が、今年春のジュネーブショーで披露をされたXKR-Sだ。
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史上、最強かつ最速のジャガーにポルトガルで試乗!(2)
ベースモデル「XKR」より最高出力40ps、最大トルク55Nmアップ
XKR-Sが「XKRをベースに開発されたモデル」であることは、そのネーミングからも明らかだ。実際、そこに採用された各種のメカニカルコンポーネンツも、基本はいずれもXKRと同様。コンピュータチューニングや排気系の変更などにより最高出力40ps、最大トルク55Nm上乗せが図られたものの、ルーツ式スーパーチャージャーの助けを借りた5リッターのV型8気筒といったエンジンの基本スペックには変わりない。
XKRに比べてもっとも趣を異にする部分は、やはりエクステリアが放つ雰囲気だ。もちろん、身に纏うボディカラーにも大きく影響をされるが、たとえばかつてのサーキットフィールドでの栄光を連想させる“イタリアン・レーシングレッド”や“フレンチ・レーシングブルー”というカラーリングがほどこされたXKR-Sは多くのひとが「これは本当にジャガー車?」と目を疑うであろうほどに、アクティブなイメージが強いアピアランスを提供してくれる。
レーシーな雰囲気を醸し出すエクステリア
フロントマスクにXKRよりもはるかに強い迫力が漂うのは、XKシリーズ特有の長いフード前端に設けられた横長のツインエアインテークや、バンパー両サイドの縦長インテーク、カーボンファイバー製のスプリッターがもたらす効果。一方で、走り去る姿になんともレーシーなムードいっぱいなのは、ウイングタイプのリアスポイラーや、左右に2本ずつのテールパイプをレイアウトしたディフューザー処理がほどこされたバンパー造形によるところが大だ。
ちなみにもちろん、そうしたこのモデルならではのエクステリアデザインは、空力性能の向上にも貢献しているという。とくに300km/hという最高速度をふまえ、超高速域での安定性確保が意識された結果、揚力は25パーセント以上の低減を実現させているという。
インテリアでは、ドアトリムなどの仕立てとコーディネイトをされたカーボンレザー張りの“パフォーマンス・フロントシート”が目を引く。その造形は基本的にはもちろんホールド性の高さを狙ったものであるが、そこに16ウェイもの電動調整機能やヒーター機能もくわえるのは、今度は世界屈指のラグジュアリーブランドの面目躍如というところでもあるだろう。
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史上、最強かつ最速のジャガーにポルトガルで試乗!(3)
ハイパフォーマンスを感じさせる完爆サウンド
そんなシートに身を委ね、心臓の鼓動のごとく濃淡の輝きを繰り返すスタートボタンをプッシュして5リッターのV8ユニットに火を入れる。瞬間、周囲に響きわたるいかにもハイパフォーマンスを感じさせる完爆サウンドに、心躍らせないスポーツ派ドライバーはいないだろう。“自動車の電動化”が当たり前になりつつある今の時代を感じつつも、「やっぱりスポーツカーはサウンドだ!」と、そんなことを呟いてしまうのはこのときだ。
センターコンソール上に置いた掌のなかにせり上がる最新ジャガー車に共通のダイヤル式セレクターで『D』レンジをチョイスし、ブレーキをリリースしつつアクセルペダルを踏む右足に優しく力をくわえる。低い唸りとともに力強くスタートを切るXKR-Sに、しかし荒あらしさや猛だけしさはまったくともなわない。くわえて、20インチのファットなシューズを履き、前後スプリングレートを28パーセントアップさせるなどした専用チューニングのサスペンションを採用するにもかかわらず、その乗り味のしなやかなことにも驚かされる。
さすがに、路面凹凸を拾ったさいの“当たり”の感触はそれなりにかたい。しかし、その先のサスペンションの動きはとてもスムーズで、フリクションによる抵抗感を意識させないのだ。このモデルの脚のセッティングが、たんに“スピード性能”を追っただけのものではないことを感じさせられる瞬間だ。
上品なイメージを払拭するハイパワー
ポルトガルで開催されたこのモデルの国際試乗会では、あえて起伏を激しく残すという路面設計がおこなわれたサーキット走行のプログラムも用意をされていた。そんなシチューエーションでのXKR-Sはもちろん、今度は「ジャガーの量産型スポーツカー史上、最強かつ最速」と称するその走りのパフォーマンスをあますところなく味わわせてくれた。
上質なレザー仕立てのステアリングホイールをつうじて、ベースのXKRクーペ以上に濃密な路面とのコンタクト感を提供してくれるのは、前述サスペンションの専用チューニングとともに、剛性アップを目的とした新開発のアルミニウム製フロントナックル採用の効果などもあってのことか。4.8kgのばね下重量削減に成功という新設計の20インチホイールは一般路での快適性向上とともに、こうしたシーンでは路面追従性のアップにも効いているはずだ。
それにしても、全長が4.8メートル級と決してコンパクトなモデルではないにもかかわらず、これほどまでに自在で軽快なハンドリング感覚を提供してくれる点には感動すら覚える。無論、メカニカルチャージャーの持ち主ゆえどんな回転領域からでもアクセルONに即応して大きな駆動力を発揮してくれる、最高出力550psを謳うパワーにも不満などあろうはずもない。
日本ではこれまで『ジャガー』というブランドにたいして、あまりに“上品”なイメージばかりが強調をされ過ぎたキライがあったかも知れない。XKR-Sというのはあらためて、そんなこのブランドが元来備えていたクルマづくりのフィロソフィーと、その実力の高さを教えてくれる1台でもあるのだ。
Jaguar XKR-S|ジャガー XKR-S
ボディサイズ|全長4,794×全幅1,892×全高1,312mm
ホイールベース|2,752mm
車輛重量|1,753kg
エンジン|5.0リッターV型8気筒エンジン
最高出力|404kW(550ps)/6,000-6,500rpm
最大トルク|680Nm/2,500-5,500rpm
トランスミッション|6段AT
燃費|12.3ℓ/100km
CO2排出量|292g/km