クルマ業界が色いろな分野に頑張った一年

2014年は総じておもしろい年だった。IT業界では、グーテンベルグが印刷機を発明して以来の画期的な時期と、スマートメディア全盛の現代をかなり前向きに評価する。クルマもやはりIT系が強くなり、さらに自動運転化が先へと進み出した。

オールドスクールのクルマ好き的視点からしても、クルマ業界のがんばりを評価したい年だった。例にあげたいことは沢山あるけれど、ひとつはトヨタ自動車が、“昔のまま”発売した「ランドクルーザー70」の30周年記念モデル。大きな車体、大排気量エンジン、オフロード用のサスペンション、マニュアル変速機という、日本のユーザーには歓迎されない仕様のはずなのに、大ヒットしたのであるから。

いっぽう、未来へとつながる技術では、やはりトヨタ自動車がやってくれた。「ミライ」の発売は歴史的なできごとだった。燃料電池車がこんなに早く実用化されるとは予想外の嬉しさだ。先日、トヨタ自動車を含め、日産自動車と本田技研が共同で水素ステーションのインフラ作りに励むと発表があった。2015年は、2014年を未来につなぐ橋渡しの年になっていきそうだ。

2014年の年初は、“ちかい将来ガソリンはリッター400円時代に突入する”と言われて、どよーんとしていた。ところがご存知のように、アラブ産油国の一部が、シェールガス開発を進める米国を牽制したのか原油価格を下げたため、180円のプレミアムガソリンが、年末には130円台に下がった。これによって、“クルマはガソリンで走る”という事実こそがもっとも重いと改めて感じた。

ガソリン価格が下がったため、米国では大排気量車、高性能車が売れるようになったのも、印象的なできごとである。米国ではCAFE（企業平均燃費）によって、16年の規制値を日本ふうに表現すると平均リッター15.1kmとかなり厳しく設定している。しかし、「わが国の自動車メーカーは憶えているかな」。ある米国人の自動車ジャーナリストは苦笑していた。

日本では軽自動車の販売が大きく伸びたのも、2014年のニュースといえる。「リッター30キロを超える燃費はすごい。うかうかしていられない」とトヨタ自動車でプリウスPHVを担当する開発者が僕に語ってくれたぐらいで、技術革新にはめざましいものがある。でも、（消費者が）欲しいものをなるべくいい形で与えましょう、と軽自動車メーカーの方針に、もう少し“夢”とか先取りの精神が出てくるいいなあと思ってしまうのだった。

小川フミオによる2014年の5選

Toyota Mirai｜トヨタ ミライ

まさか今年は出ないだろうと思っていたので、試乗会の招待状が送られてきた時は、夢かと思った。プリウス発表の時いらい快哉を叫びたい。水素ステーションなどインフラが追いついていないけれど、なにはともあれ、本当に水素自動車を現実のものにしてしまったトヨタ自動車の取り組みは100点満点で101点だ。惜しむらくはスタイルだ。とくに後輪まわりの造型は納得いかない。なので1点減点して100点。

Mazda Demio XD｜マツダ デミオ XD

マツダは、運転席に座っているかぎり最高のクルマを作ってくれる。新型デミオの1.5リッター スカイアクティブ ディーゼル搭載車も、とても楽しいドライバーズカーだ。とりわけマニュアル変速機で乗ると、さらに称賛のレベルを上げたくなる。クイックで気持ちよく決まるシフターと、トルキーでありながらよくまわるエンジンの組み合わせは、燃費よしファントゥドライブよし。コンパクトな車体は都会に最適。

Subaru WRX STI｜スバル WRX STI

独自路線を脱線することなく、みごとに突き進んでいる富士重工業。レガシィ・シリーズもよく出来ているけれど、WRX STIの出来のよさには度肝を抜かれた。セダンの形をしたスポーツカーだ。洗練性とか、環境適合性とか、言い出すといろいろあるのは事実だ。しかし、ライバルが続々と姿を消すいま、こういうクルマを作らなくなったら、自動車メーカーの死である。そのうち1.2リッターのWRXを作ってほしい。

BMW i3｜ビー・エム・ダブリュー i3

早すぎたともいえるが、乗っているひとを見るとかっこいい。カッティングエッジと英語ではいうが、どこよりとんがっているプロダクトこそBMWの命だ。2重にしたプラットフォームのコンセプトといい、ばかっ速い加速性といい、1ペダルで加減速できてしまう操縦性といい、なににも似ていない内外装といい、自動車ってカッコいいなあとつくづく思わせてくれる。わが家に充電器が設置できたらすぐ買いたい。

Porsche Macan Turbo｜ポルシェ マカン ターボ

4気筒のマカンも完璧と思えたが、ターボはより完璧。ありえない比較級を使いたくなるほど、驚くほどの速さだがウルトラスムーズな加速、超強力だがデリケートなブレーキ、路面の凹凸を残らず吸収しつつ、身体と一体になったような回頭性を持つハンドリングと、すべてが高次元。まさにフロウ（欠点）レス。ボディサイズも少しコンパクトで使いやすくなっているし、内装の作りも高品質。驚くほどの傑作だ。