ヴィラ・デステ、華麗なるクルマの舞踏会|Villa d'Este
Concorso d'Eleganza Villa d'Este 2014
コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ 2014
時代や流行を超越し自動車文化を受け継ぐ
ヴィラ・デステ、華麗なるクルマの舞踏会
時代を超えたデザイン、スタイル、そしてエレガンス──。ミラノにほど近いイタリア北部のコモ湖を舞台に、ヒストリックカーの祭典「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」が今年も開催された。世界の名だたる高級リゾートのひとつに数えられるコモ湖。その湖畔を望むホテル、ヴィラ・デステの庭園には、各国から集った貴重なモデル51台が並ぶ。1929年にはじまった欧州最古の自動車コンクール、その華麗なる世界をのぞいてみたい。
Text by AKIZUKI Shinichiro(OPENERS)
ヨーロッパ最古の自動車コンクール
過去の歴史を尊重し、文化を育む。ファッション、アート、建築……。部類を問わずヨーロッパの社会には、こうした考えが広く浸透している。もちろん自動車文化もその例外ではない。
欧州最古の自動車コンクールとして知られる「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」は、今年もイタリアの高級リゾート地、コモ湖を望むグランドホテル、ヴィラ・デステを舞台に5月23から25日の3日間に渡り開催された。
デザイン性とエレガンスさに主眼を置き、クルマの美しさを競うヴィラ・デステ。庭園には、応募車両200台のなかから選出された貴重な名車51台が集い、華やかな雰囲気のなかで、紳士淑女がヒストリックカーを吟味する。
ヴィラ・デステのはじまりは1929年にまで遡る。当時は、まだクルマが一般社会まで普及する以前の時代であり、自動車メーカーの多くはエンジンや駆動系統、シャシーを製造し、ボディは馬車づくりのノウハウを持つコーチビルダーに任せるのが1940年代までの一般的な生産方法だった。そのため上流階級は、デザイン美を競い合うようにオーダーをおこない、ヴィラ・デステはそのお披露目の場、園遊会としての役割を担っていた。
時を越え、21世紀となった現代。ヒストリックカーの祭典として今日に蘇ったヴィラ・デステは、ドイツの自動車メーカー「BMW」がメインスポンサードを務め、ヘリテイジを重んじ、時代や流行を超越して文化を受け継ぐ活動を積極的におこなっている。時計ブランド「A.ランゲ&ゾーネ」もその趣旨に賛同。2012年からサポートを続ける。
今年はロールス・ロイスが創業110周年、マセラティが創業100周年を迎えたことを記念し特別部門を設置。9つのクラスが設けられ、1900年代の戦前モデルから1970年代までの貴重なヒストリックカーが並んだ。
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コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ 2014
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ヴィラ・デステ、華麗なるクルマの舞踏会 (2)
日本からは幻のアバルトがエントリー
16世紀に建設され、「エステ家の邸宅」の意味を持つヴィラ・デステ。その先は、いまも昔も紺碧の湖が広がり、その奥にはアルプスの名峰が聳え立つ。快晴となった土曜の朝、ボートで邸宅へと上陸。庭園には、1908年式のロールス・ロイス「シルバー・ゴースト」をはじめ、アルファ・ロメオ「6C 1750 GS」、BMW「328」など、戦前のモデルが来場者を出迎えてくれる。
お披露目されるクルマは、どれもこれも、公の舞台にはじめて登場するモデルばかりだという。見渡す限りの名車の数々に、もうため息しかでない。
気になったクルマをのぞき込んでいると、嬉しいことにオーナー自らが熱く語りかけてくれた。クルマとの出会いにはじまり、歴代オーナーのヒストリー、そして、このクルマがどれほどオリジナルに忠実なのか、当時の資料を片手に会話が弾む。
なかでも注目の1台は、日本から出品されたフィアット「アバルト2000スコルピオーネ」。これはピニンファリーナによって1969年につくられたワンオフモデルだ。ベルギーで開催されたブリュッセル・モーターショーでワールドデビューし、東京では1977年に開催された特別展『カロツェリア・イタリアーナ』に出品された。
オーナーの小坂氏は、このモデルを同イベントにて、セルジオ・ピニンファリーナ氏本人から購入。37年を経て、完全オリジナルコンディションのまま、母国イタリアへと帰ってきたというわけだ。貴重なクルマのまわりは常に黒山で、ギャラリーに絶大なインパクトを残したことは言うまでもないだろう。なお、このアバルト2000スコルピオーネはクラスFにおいて部門優勝に輝いた。
そして、数あるヴィラ・デステの賞のなかでも、今年、審査員と一般参加者の両方からもっとも高い賞賛を受け「ベスト・オブ・ショー」のトロフィーが授与されたのは、スイスの実業家でコレクターでもある、アルベルト・シュピース氏所有のダークブルーの1956年式「マセラティ450 S」。
1956年から1957年にかけてモデナで9台だけ生産された2シーターのレーシングカーで、4.5リッターの400psエンジンを搭載し、ボディはファントゥッツィによってデザインされたもの。アニバーサリーイヤーを迎えたマセラティにとって、これ以上にない素晴らしい結果となった。
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ヴィラ・デステ、華麗なるクルマの舞踏会 (3)
A.ランゲ&ゾーネがヴィラ・デステをサポートする理由
この世界でもっとも有名な、ヒストリックカーコンクールの授賞セレモニーが開催された日の夜、2012年からサポートをつづけるドイツの時計ブランド「A.ランゲ&ゾーネ」は、ウイナーのためにだけ製作した世界でただひとつの時計「ランゲ1・タイムゾーン“コモ・エディション”」を披露。「ベスト・オブ・ショー」に輝いたマセラティ450 Sのオーナー、シュピース氏への贈呈をおこなった。
この特別なタイムピースは、ふたつの時間帯表示を備え、18Kホワイトゴールド製ケースの裏側に、職人の手彫りによるコンコルソ・デレガンツァの紋章を緻密に表現。文字盤外周のリングには世界の24都市タイムゾーンを表示し、中央ヨーロッパ時間帯の部分には、コンクールの開催地コモ市への敬意を込めて「COMO」の名を刻む。
ところでA.ランゲ&ゾーネはなぜ、ヴィラ・デステをサポートおこなうようになったのだろうか。その答えは、同社のヒストリーあるといっても過言ではない。
今年の「ベスト・オブ・ショー」に輝いた1956年式「マセラティ450 S」。1956年から1957年にかけてモデナで9台だけ生産された2シーターのレーシングカーだ。
創業は1815年。ドイツ・ドレスデンの宮廷御用達の時計師である、フリードリッヒ・グートケスのもとで時計師を目指し、修業を重ねたフェルディナンド・アドルフ・ランゲが、ドレスデン郊外に時計工房を開設。ここからブランドの歴史がはじまる。
現代でも伝統的な技法として名高い4分の3プレートなどを考案し、20世紀初頭にはヨーロッパ時計界のトップブランドに成長したランゲ。しかし、第2次世界大戦によって、その経営は一時中断。終戦後も、旧東ドイツ圏の国営企業として接収されたまま、A.ランゲ&ゾーネの名は、歴史から消えてしまう。
しかし、東西ドイツが統合された1990年、あらたな一歩を踏み出す。創業者のひ孫にあたるウォルター・ランゲが、かつての時計製造の技術を故郷の地で見事に再興。ザクセン王国時代から重ね続けてきた技術力と装飾技法を腕時計の分野に惜しみなく注ぎ込み、「ランゲ1」「ダトグラフ」のような、至極のマスターピースを次々と発表していく──。
今年のベスト・オブ・ショーに輝いた、マセラティ450 Sのオーナーへ贈られた「ランゲ1・タイムゾーン“コモ・エディション」
時代を超えたデザイン、スタイル、そしてエレガンスに価値を見出す。そこには、過去の歴史を尊重し文化を育む、現代に生まれ変わったA.ランゲ&ゾーネの精神が息づいている。その想いは、同社CEOのヴィルヘルム・シュミット氏が語った授賞式のスピーチにも隠れているのかもしれない。
「今日はユートピア(まだ見たことのない場所)でも、明日にはスタンダード(標準)になり、やがて伝説へと昇華されます。これまでにない、あたらしいスタンダードを定義するには、進歩的精神と勇気がいるでしょう。しかしそれを乗り越えてこそ、普遍的なアイコンが生まれるのです」とは、シュミット氏からのメッセージ。
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コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ 2014
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ヴィラ・デステ、華麗なるクルマの舞踏会 (4)
クルマが発する色、音、匂いを肌で感じる
さて、再びヴィラデステの話に戻ろう。前述のとおり、今年9つのクラスによって開催されたヴィラ・デステのコンクール。だが、それとは別に見逃してはならないのが、コンセプトカーとプロトタイプによるベストデザインを競う特別部門だ。それは、かつてコーチビルダーが競い合うように新型モデルを発表していたその伝統を、現代に蘇らそうという試み。
なかでも特に興味深かったのは、ヴィラ・デステのメインスポンサーを務めるBMWが発表したコンセプトモデル。ミニをベースに、イタリアのカロッツェリアであるツーリング・スーパーレッジェーラによって架装された「ミニ スーパーレッジェーラ ビジョン」の登場だ。何の前触れもなく突如現れたモデルに会場は騒然。そのデザインには多くの喝采が送られ、小誌でも高い関心を集めた。
ところで、ヴィラ・デステに来るまで知らなかった事実がひとつあった。それは最終日となる日曜、つまり一般公開日の会場がヴィラ・デステではなく、そのすぐそばにあるヴィラ・エルバに移し開催されるということ。そしてその広大な敷地には、男女年齢問わず、ファミリーから恋人たちまで多くのギャラリーが押し寄せ、一大フェスティバルへと様変わりする。
もちろん、展示されるクルマは前日とおなじ。入場料さえ払えば、誰もが観覧することができる。ピクニック感覚で芝生の上でくつろぎながら、ビールやシャンパンを片手に優雅な一日を過ごすのも悪くない。