ロールス・ロイス、そのビスポークの世界|Rolls-Royce
Rolls-Royce|ロールス・ロイス
究極の居心地のよさを求めて
ロールス・ロイス、そのビスポークの世界
1904年にイギリスで設立され、今年で創業110周年を迎えたロールス・ロイス・モーターカーズ。ビスポークと呼ばれる、個人の注文をベースに仕立てる技は、現代にも引き継がれる同社の象徴とも呼べるクルマ作りだ。今回、本社グッドウッドから職人を日本へ招き、匠の技を披露する「ジ・アイコンツアー」が開催された。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ABE Masaya
ロールズとロイスが出会って110周年
特別あつらえを意味する「ビスポーク」は、ロールス・ロイス・モーターカーズのセリングポイントだ。いかなる特注にも応じるという同社の職人たちが先頃来日したのを機に、ビスポークの世界をのぞいてみよう。
「ビスポークは少なくないエクストラマネーをお払いいただきます。それでも注文する方が多いのは、成功の証になるからでしょう」。そう語るのは、アジア太平洋担当ゼネラルマネージャーのダン・パルマー氏だ。
今回、英国から職人たちを呼びよせて実演までおこなうという凝ったイベントを開催した理由は、ビスポークに代表されるロールス・ロイスというブランドの魅力を多くのひとに知ってもらうため、と説明する。
さる2014年5月16日に東京・六本木で「ジ・アイコンツアー」と銘打って行われた、このユーザー向けのイベントは、ロールズとロイスが出会って110周年を迎えた機会をとらえて催される、アジア初の巡回展だそうだ。
ベアシャシー、エンジン、そして試乗など、さまざまなコンテンから構成されており、最大の眼目がビスポークの世界を紹介すること。今後は香港、ソウルでの開催が予定されているという。
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ロールス・ロイス、そのビスポークの世界 (2)
英国から来日したのは、ビスポーク部門を統括するウルス・メーナー氏、装飾ペイントを担当するマーク・コート氏、シートなどの縫製を担当する女性のハナ・クリア氏だ。
「私たちはすぐれた技術者を養成して、顧客の複雑な注文にも応えていくようにしています。車体の塗色やシートレザーの色は特許がないかぎりあらゆる色の選択が可能ですし、ウッドをはじめ内装材、特殊な皮革、刺繍など、注文にはつねに開かれた態度で接しています」。クリアはそう誇らしげに語る。
「私はロールス・ロイスで働く前はパブの看板などを描いていました。入社するとベルリンのモーターサイクル工場で研修し、BMWモトラートの製品の燃料タンクやフェンダーの細いコーチラインで訓練を重ねました」。さまざまな太さの筆を揃えたコートの言葉だ。
「自動車では6メートルの線をいっきに引かなくてはいけません。そして塗りむらや筆の返しむらができてはいけません。とくかく集中あるのみです」。持参した筆のなかには、「とくにペイントの乗りがいい」と語るリスの毛のものなども含まれていた。
いっぽう、革を縫い合わせるソーイング部門でアソシエーツの肩書きをもって働くクリアは、ロールス・ロイス車に使われる牛革の品質のこだわりについて言及する。
「皮に傷つけないよう有刺鉄線でなく微弱電流を流したフェンスを設けた牧場で育てられた牛の皮を使います。なめしの工程、染色など、複雑な工程もさることながら、1台のロールス・ロイス車を作るのに11頭から最適のパーツを切り出すなど、かなりのコストをかけてベストを追求しています。」
ビスポークのおもしろさは、国や文化の影響が色濃く反映されることだ。英国風というのか、ピクニック用のセットが荷室に埋め込まれた仕様もあるいっぽう、最近どんどん成長している中国市場向けには、同国で好まれる特殊な赤色や、竜や馬の刺繍が施される。
「でも他国に転売できないでしょうねえ」と担当者は笑う。
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まるで自分の家にいるような感覚
ロールス・ロイスのビスポーク部門が手がけるのは、上記のように個人の注文をベースにしたものがひとつ。諸国の王室の紋章など気をつかうものも多く含まれるようだ。もうひとつは、コレクションモデルと呼ばれるショーやイベントのために作られたワンオフ。
最新のコレクションモデルは、6月にイタリア・コモ湖畔で開催されるビラデステのコンコース・デレガンスで発表された「ファントム ドロップヘッドクーペ ウォータースピード コレクション」だ。1920年代にスピード記録を打ち立てたブルーバード号を作ったマルコム・キャンベル氏へのオマージュとして、1台だけビスポーク部門で作られたもの。
ボディはブルーバードとおなじマッジョア(マジョーレ)ブルーが選ばれ、手作業で表面を磨きながら9層ものペイントが施されている。その上に引かれた緻密なコーチラインも時間をかけて専門職人が手で引いたものだし、金属パネルも熟練工が工具を使って手で叩き成型したという。
今後、クルマの自動化はますます進むだろうし、車内の通信環境や安全装備はいっそう豊富になるだろう。そのなかで、頂点のイメージを維持するための他社との差別化の方法は、このようなビスポーク化にある。「まるで自分の家にいるような感覚」とはパルマーが語ったビスポークのよさである。究極の居心地のよさを求めて、ひとはビスポークに走るのだろう。